第6話 職場復帰します

 あの後。さっそく以前働いていた職場に向かって話をしてみたら、人手不足のため大歓迎。

 私は特に問題なく職場復帰の手続き済んだんだけど、お義理母様はバレるとちょっと問題になるかもしれない。


 考えたすえに、私は私が身元保証人になることにして偽名でお義理母様の職業体験手続きをして問題なく通った。

 何かトラブルがあった場合は、私が全部責任を負うつもりだ。


(これで亡国姫の冒険シリーズの続きが読めるかもしれないわ! 胸の高鳴りを止めることができない)


 でも、その前に事後報告になってしまうけど、ルヴァン様と当主であるお義理父様の許可を得なければならない。


 ……ということで、夕食後のお茶の時間にルヴァン様達に職場復帰のお話をすることに。



 屋敷の食堂にて。

 私とルヴァン様、お義理父様、お義理母様の四人は、夕食後のお茶を飲んでいた。

 少しゆったりした時間が流れたので、私は口を開く。


「お義理父様、ルヴァン様。お話があります」

 私がティーカップをソーサーに置き、隣のルヴァン様とテーブル越しに座っているお義理父様を見た。

 すると、二人は険しい顔をして、お義理母様を見る。

 どうやら捻くれ性格のお義理母様の被害を受けたと思っているらしい。


(ないですよ! クレームなんて!)


 私は即座に否定するために、「お義理母様は関係ありませんわ」と告げれば、二人とも安堵の息を漏らす。


「私が元々城の洗濯係をしていたのをご存じですよね? 実は人手不足らしくて、暫く働きに行こうと思っているんです」

「「「えっ」」」

 お義理父様とルヴァン様だけではなく、控えているメイド達も声を上げる。

 お義理父様達はお義理母様の方へ一斉に視線を向けてしまう。

 みんな、お義理母様のお小言を気にしているのかも。


 でも、これお義理母様のためなんで!


「お義理母様には、許可を得ています。ねぇ、お義理母様」

 私がそう言えば、お義理母様はカタカタと音を立ててソーサーにティーカップを置く。

 ポーカーフェイスを気取りたいらしいが、ちょっと顔が青ざめている。


「アネモネ、本当か?」

「え、えぇ……」

 お義理父様の質問にお義理母様が答えれば、食堂にざわめきが広がる。

 私とお義理母様以外の人達は、視線を彷徨わせて、「え? 本当?」と呟いている。中には信じられないのか、頬をつねっている人までいた。


「お、驚いたよ。君が許可するなんて。てっきり、公爵家にふさわしくないと大反対するかと」

「人手不足で困っているのならば、仕方ないでしょう」

「たしかにそうだが……」

 お義理父様達は信じられないような目でお義理母様を見ている。


「いつから働くんだい?」

「明日からです」

「あ、明日ですって!?」

 お義理母様がテーブルに手をつき、大声で叫んだので私はちょっとびっくり。


(あれ? 明日からって言ってなかったっけ? ……まぁ、いま言ったからいいか)


 公爵家嫡男の妻としての仕事あるため、私は週に4日のシフトから始める予定。

 ちなみにお義理母様は職場体験して貰って、大丈夫そうなら本人と働くか相談する方向で進めたいと洗濯係長に伝えている。


 お義理母様の腹心の侍女長はお義理母様が覆面作家だということも知っているので、今回の洗濯係のバイトに協力してくれる。

 送迎の馬車の手配やアリバイ工作などをお願いするつもりだ。


「問題ないですよね、お義理母様」

「あ、明日というのは唐突過ぎるのでは?」

「人手不足なので来て欲しいそうですよ」

「でも、心の準備というものがあると思うの」

「大丈夫ですよ。私、前職なので慣れていますから。ちゃんと新人のサポートもできますし」

 それに、お義理母様の都合聞いていたら、ずるずる日付伸びそうだもの。

 私としては王宮泥沼の空気を体験して貰ってさっそく続きを書いて欲しい。


 そう思うのは私だけじゃないはずだ。

 きっと続刊待っている人達は多い。

 あの覆面作家のバイオレット先生の作品を――


「ソニアが城で洗濯係として再び働くならば、家だけではなく城でも会えるなぁ。最高だ」

 ルヴァン様がしみじみ言えば、お義理母様が固まった。

 今にも倒れそうなくらいまで血の気が引いている。


(あっ、そうだよね。ルヴァン様は騎士団長なので、職場は城。正確には、敷地内にある騎士団の建物だけど)


 報告などで城に来ることが多いのか、結構頻繁に遭遇していた。

 時々、洗濯係に差し入れもしてくれたし。


(お義理母様の変装は考えていたけど、身内にはバレてしまうかしら? まぁ、でもなんとかごまかせばいっか)



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