第2章

第1話 プロローグ

クリスマスに楓とちゃんとした友達として接するようになり、正月には両親が家に帰ってきて近況報告をしてくれた。残念なのは両親が完全に帰ってくることはないということくらいで、ほとんどのことは俺にとってはいい事だった。

 ︎︎進級して受験という名の戦争も激しくなってくるだろうし、以前みたいに来羽に構ってられる時間もなくなるな。


俺は塾に行ってないので現時点で塾に行ってる人との差がだいぶあるだろうし、より頑張らないといけないな。来羽にも迷惑かけるだろうけど、来羽は気にしないでって言ってくれてるし絶対に受からないと。

 ︎︎これでもし不合格にでもなったら来羽にも、両親にも見せる顔がないので絶対に受かれるように使える物は全部使うつもりだ。


「そういえば、そんな約束もしてましたね……。えっと、本当に私でいいんですか?」


俺は今、胡桃さんに勉強を教えて貰えないか頼んでいた。俺の数少ない知り合いの中で胡桃さんは学年で見ても頭のいい部類に入ってるし、前から頼みたいと思っていた。


「俺の同学年の知り合いでは胡桃さんが一番頭がいいからね、前から頼みたいと思っていたし。もちろん小鳥遊も呼ぶつもりだけど……いいかな?」


「もちろんですっ……! それと、ついでに髪、お願いしてもいいですか……?」


「分かった、けどそんなに期待しないでね? 妹に頼まれて色んな髪型にしてるだけだから」


来羽に頼まれてツインテールとかツーサイドアップをした事は何回もあるけど、そこまで上手くできるって訳じゃないんだよな。やったことない髪型にはできないし、来羽に似合う髪型が胡桃さんにも似合うとは限らないんだよね。


「一応聞いておくけど、俺に髪を触られるの嫌じゃない?」


「私から頼んでいるので……、嫌なんてことは絶対に有り得ません。えっと、明日私の家に来てください……必要なものを用意しておくので」


「別に用意しなくてもいいよ? 俺たちは勉強するだけだし、教材とかは自分で持ってくるからさ。あ、でもヘアピンとかヘアゴムは用意してて欲しいかな」


とりあえず明日の勉強会について色々胡桃さんと話し合って何をするかを決めたので、その話の内容をメールで小鳥遊に送っておく。


「というか、胡桃さんは男子に家に入られてもいいの?」


「私はいつも1人でしたから……お2人が来てくれてとても嬉しいですよ。病院生活が長かったので、思い出も面白いものも何もないんですけどね……」


「胡桃さんって一人暮らしなの?」


「……違いますよ、親はいつも居ないだけです」


さっきまで少し微笑んでいた胡桃さんの顔から笑みが消えて少し俯いてるし、声色が穏やかなものから冷ややかな声に変わった……。


親関係で何かあったのだろうか? 良く考えればずっと1人というのはおかしい話だ、結構間の話だが胡桃さんはお見舞いに来てくれるがいないんじゃなくていないと言っていた。虹彩を負傷したというのも、とあることがあってと濁していたが……まさか、な。

 ︎︎もし俺の考えてる通りなら、それは胡桃さんにとっても触れられたくないことだろうし聞いたりはしない。


「胡桃さん、辛いことがあったら相談するんだよ? 1人で抱え込んでもただ辛いだけだろうし」


「……ありがとうございます。でも、もう過去のことだと割り切ってるので……大丈夫です」


(割り切ってたらそんな顔しないだろ……)


そうして今日は終わった。



§§§



私は誰もいないと部屋に「ただいま」と声をかける、もちろん「おかえり」と帰ってくるはずもなくただひたすらに虚しくなる。お母さんは今病院で、お父さんは仕事、私一人だけがこの部屋に佇んでいる。

 ︎︎お母さんがいなければ、私は死んでいたと思う。事故から庇ってくれて虹彩を負傷する程度で済んだ、だけどそのせいで、お母さんは……。


澄風さんなら「あなたのせいじゃないよ」と言ってくれただろうか、お父さんもずっと私のせいじゃないと言ってくれてる、だけど……事実は変わらない。私を庇ってお母さんは今も入院しているという事実は変わらない。


「私は……1人でどうすればいいんでしょう」


澄風先輩に大丈夫と言ったのは全くの嘘だ、ずっと私は気にしている。


「電話……」


鳴り響くスマホを手に取る。


『もしもし……』


『久しぶり、ずっと眠ってたから頭が思いや。うちはもう元気だから胡桃が気に病む必要ないよ、うちはあの行動が間違いだとは思わない』


宛先も見ずに出たから、驚いた。私の記憶ではお母さんは病院で寝たきりだった、私はお母さんが目を覚まさないことをずっと気にしていた。


『ねぇ胡桃、友達はできた? あの日からの胡桃をうちは知らないからさ、教えてようちが眠ってた時の話を』


『高校に入るまでは私も入院してたので友達はできませんでした。それに1年の頃もずっと1人でした、でも私のことをちゃんと見てくれて、認めてくれる友達が最近できました』


『そうなの! いつか会ってみたいね』


音声だけでも伝わってくるお母さんの嬉しそうな姿。


『必ずいつか、会わせますね。それでなんですけど、明日その男友達と一緒に勉強することになってるんです』


『そう、頑張ってね!』


電話を切ってまず最初に安堵が心を埋めつくした。ようやく目を覚ましてくれた、もうすぐ1人じゃなくなるんだって安心した、嬉しかった……そんな感情がいっぱい溢れてきて───。


私は部屋に入って枕に顔をうずめて、子どものように泣いた。

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