第45話 クリスマス祭②

『1年前、俺とあったことがあるか?』と、そう言われた時は心臓が止まるかと思った。


「一年前、俺はとある女の子を助けた。本当にギリギリでもしかしたら死んでたかもしれなかった時に俺が助けた。でも俺はその女の子に嫌いと言われた、理由は自分を大切にしないからだとさ。それでさ、星野も俺が嫌いな理由、同じだったよな?」


そりゃあ同じだ、その一年前に出会った女の子と私は同一人物なんだから。そのことをずっと言えなかったから今まで悩んできたんだ、でも今回は向こうから言い出してきてくれた、ここで言えなきゃもうずっと言えないだろう。


「もし、私が一年前に澄風先輩に会っていたとして、どうするつもりなんです?」


「何かするつもりはないな、もしかしたらと思っただけだし」


「なら、私の方から言わせてください。すいませんでした、助けてもらったのにずっと嫌いなんて言って」


ようやく言葉にできた、別にこのことを正直に言ったからって今までの事をまっさらにしてもらおうとは思ってない。ただ、本当のことを澄風先輩に伝えれたのなら私はそれでいい。

 ︎︎来羽ちゃんは澄風先輩の後ろで優しく微笑んでいる、気にせず澄風先輩と話をしていいよということだろう。


「確かに自分のことを大切にしない人は嫌いです、でも助けてくれた人に言う言葉じゃなかった」


「俺は気にしてない。ま、これからだろ? 別にもうお別れって訳でもない、来年は厳しいかもしれないけど再来年に遊んだりすればいい」


「い、いいんですか……? 今までずっと嫌いだと言ってきた私と、これからも友達でいてくれるんですか?」


「構わない」


今まで澄風先輩に友達だとは言われてきたけど、自分自身では本当の友達だとは思っていなかった。だけど、今本当のことを言って、改めて友達になれるのなら、私は喜んで───。


「改めて、これからよろしくお願いしますね───澄風先輩、いや隼人先輩っ!」


「あぁ、よろしく。楓」



§§§



一年前の女の子は星野だったか、似てるなと思ってはいたがまさか本人なんてな。何故か知らないけど話が終わったあと楓は来羽と一緒にクリスマス祭を回り始めた……つまり今の俺はぼっちである。

 ︎︎普通あの流れのまま3人で回るんじゃないの……?


1人が嫌いって訳でもないし、昔だったら小鳥遊が居ない時はずっと1人だったから別にいいんだけどさ、最近のイベントはずっと誰かと一緒にいたからなぁ。話しながらイベントを回る人達が大半の中で俺は今完全に一人、あれか、これが俗に言うクリぼっちというやつですか。


小鳥遊と合流しようと思ったがあいつは今仲のいい後輩と一緒に回ってるんだったな、となれば残りは叶多くんか胡桃さんしか残ってないのだがどこにいるか分からない。しかも不運なことにスマホの充電が残り少ない、これだと探してる途中に充電が切れるのがオチだろう、あと叶多くんの連絡先は知らない。


(昔の俺ならそもそも小鳥遊が居なかったら1人になるのは決まってたけど、今は他の人がいるんだもんな……。変わったな、俺も)


せっかくのイベントを1人だからといって回らないのは時間が勿体無いのでとりあえず歩き続ける。でも、俺は何も買うつもりは無いし本当にただ歩いてるだけなんだよな。

 ︎︎いつもなら手伝いとかがあるから暇じゃないんだけどな。


「あれ、1人なんですね」


「えっと……誰?」


中学生なんだろうけど、俺はこの子に会ったことあったっけ……。


「1回しか会ったことないし覚えられてないのも当然ですかね。ハロウィン祭の時にお菓子を渡してくれましたよね?」


覚えてるわけないんだよなぁ……。お菓子を渡した人なんていっぱいいたし一人一人の顔なんて覚えていない。

 ︎︎というかたったそれだけの関係の先輩に話しかけに来れるって色々とすごいな、俺だったら同学年だとしても話しかけないわ。


というかこの子むっちゃグイグイ来るな……。冴えない顔で、尚且つ1人だから誘えばいけると思ってるんだろうけど、生憎俺は1人で寂しいとは思ってないし向こうの考えもだいたい読める。


「1人なんだったら一緒に回りませんか?」


「君には悪いけどさ、俺は1人で寂しいとは思ってないから。誘ってくれたのは嬉しいよ? でも人の心を弄ぶのはやめたほうがいいよ」


「つまんね」


彼女の態度が一変し、そう呟いたあとどこかに消えていった。やっぱり一緒に回っていい感じの雰囲気にして最後の最後でバッサリと切り捨てることを愉しんでるやつだったか。

 ︎︎中学の時に見かけたやつにどこか似ていたからな。


それの被害者になったやつは死んだ目をしていた、夏休み前のことだったらしいが後にそいつから一時期家から全く出なかった時があったと聞いた。本当に、良くないよな。



§§§



生徒たちは再度体育館に集まり例年通り抽選会が始まった。続々と呼ばれていってるがこんなにも生徒がいるんだ、当たる確率なんてたかが知れている。

 ︎︎去年は運が良かったのか知らないがくまのぬいぐるみが当たったが2年連続ということはないだろう。


「お、0126当たった。何が貰えるか知らないけど行ってくる」


小鳥遊が当たったらしいが0126って誕生日じゃん、やっぱ深く考えずにそういう選び方をしてる奴が当たるんだな。それよりいつまで星野は来羽と一緒に回るつもりなんだろ、帰ったらケーキもあるしお腹いっぱいになるまで食べてないといいけど……。

 ︎︎

そう考えてるうちも抽選は進んで行ってとうとう終わりを迎えた。結局俺は当たらなかったが、まぁそれも含めての抽選会だろう。

 ︎︎家に帰って来羽と一緒に買っておいたケーキを食べるとしよう。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る