第40話 クリスマスイブ 来羽side

お兄と茅姉たちと一緒にお兄の学校で開催される前夜祭に行くことになって、今は茅姉の家に来ている。私が茅姉の家に居ることはもうお兄に連絡したらしい。

 ︎︎茅姉が私に何かしたいらしいけど……私の髪型でも弄るのかな?


「茅姉ー、わざわざ家に呼んで何をするの?」


「向こうには澄風くんの学校の人がいっぱい居るんだよね? だから少し来羽ちゃんを可愛くしてから向かわせようかなと」


可愛くって……別に時間がかかるし私はそのままでもいいんだけどなぁ。今でさえ声をかけられるのにメイクとか、髪型を弄ったら前よりも声をかけられちゃうから……。

 ︎︎まぁでも、その会場にはお兄が居るしいざと言う時は助けてくれるかな。


「それで結局、私に何をさせるのー?」


「来羽ちゃんがやることは至って簡単だよ、これを着て会場に行くだけ」


茅姉が後ろのクローゼットから出したのはサンタ服、しかもズボンじゃないしっかりとした女性用のスカートのサンタ服だ。


「えっとぉ……本当にこのサンタ服を着てかなきゃダメ? 会場に行った時に何されるかだいたい予想できちゃうんだけど」


お兄やそのクラスの女子達に可愛い可愛い言われるのは別にいいんだけど、問題なのはクラスの男子。さっきまでズボンとTシャツで行けばあんまり声かけられないかなぁとか思ってたけどこの服だったら目立つし、いっぱい話しかけられちゃうじゃん。

 ︎︎うん、その時はお兄の後ろに隠れよう。


「もちろん茅姉も一緒に着るんだよね?」


「スカートタイプのサンタ服って私が結構前に学校の催し物で使ったやつだから今の私が着れるサイズのはないよ? だからそれを着るのは来羽ちゃんだけ、安心して欲しいのが叶多にもちゃんと男性用のやつを着てもらうから」


「え!?」


「まぁ1人だけサンタ服を着てるよりマシかな……?」


「僕はいいって言ってない!」


結局叶多くんは茅姉に押し切られて私と一緒にサンタ服着ることになった。まぁ私とは違って男子になにかされるわけじゃないしまだマシでしょ、女子には話しかけられるかもしれないけど。


「叶多くん、似合ってるよ」


「あ、ありがとう……なのこれは?」


「まぁまぁ、2人とも似合ってるし澄風くんのクラスの人に可愛がられてきなよ。叶多の方は女子に可愛がられるだけだし大丈夫だと思うけど来羽ちゃんの方は何かあったら私が澄風くんの元に行くんだよ?」


それは元からそのつもりだ、さすがに無理やりやられたら力で勝てないしどうにもならないかもしれないけどお兄の事だし私の近くをずっと歩いてるだろう。友達と話してたとしても必ず私のことを視界に入れてるはずだし今日はお兄だけじゃなくて茅姉も、クラスの人もいっぱい居るんだし、前みたいなことは起きないよね。


「とりあえず集合時間までまだ猶予はあるし、こっちは3人でなにかしておこうか。といっても、うちにはゲームとかないんだけどね」


「それはこっちも同じだし大丈夫、普通になにか雑談したい! バイト先でのお兄の話とか」


「バイト先の澄風くんかぁ……真面目だし、後輩の面倒見もいいかな。あと、私が少しからかった時に顔をちょっと赤らめるのが可愛いと思ってるよ」


家で見るお兄からは全然想像できないなぁ……。あくまでもお兄は私の兄として私の前でそういう姿は見せたくないのかな? 実際お兄は私の前で泣いたりなどの感情を出したことがない。

 ︎︎お兄にも悲しかった時期は絶対にあったはずなのに……親が仕事に行くと決まった日もお兄は無関心かのように感情を出すことはなかった。


お兄は多分我慢しすぎなんだろうね、2人暮らしだから私を支えるために弱い所を見せちゃダメだって思い込んでる。


「来羽ちゃん?」


「ううん、ちょっと考え事してただけ。家の時のお兄と比べて意外だなって思ってだけだから」


私が年上なら胸を貸してあげたりできたんだろうけど、生憎私は4歳も年下だ、逆に慰められる立場だろう。


「真面目だし可愛いけど、澄風くんを見て毎日思うことはどこか寂しげな顔をしてるなって。来羽ちゃんは澄風くんに甘えられるけど、澄風くんは甘える相手がどこにもいないからね、彼女でも作ってたら話は別だったんだろうけど」


お兄の話はそこで終わったけど、寂しげな顔をしてる……か。親が仕事でいなくなってからずっと私はお兄と二人で暮らしてきて、お兄は親がいなくても気にしてないと思ってたけど違ったみたいだ。

 ︎︎私の前で隠してるだけでちゃんと寂しいとは思ってるんだ。


「お兄のことを教えてくれてありがと、茅姉」


「どういたしまして、それじゃあそろそろ時間になるし行く準備を整えようか。ほら2人ともサンタ服を着て、鞄を持つよ」


「そうだった、話に夢中で忘れてたけどサンタ服を着ていくんだ。本当に僕もなの? 来羽ちゃんだけ着ていくんじゃダメ? 僕が着ても可愛くもなんともないと思うけど」


「いや、可愛いから2人で着ていこうよ、ね?」


そして叶多くんと一緒にサンタ服を着て会場に向かうのだが、スカートだしちょっと足が冷えるかな? まぁ会場は暖かいと思うし我慢しよう。


余談だが、会場に向かう途中に出会った高校生からは仲のいいカップルだと思われていたらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る