第37話 雪遊び②

茅森先輩は既に振りかぶっていた、つまり俺がそれより先に投げることは叶わない。弱い玉ならいくらでも投げれるがそれだと茅森先輩のところまでは届かないないだろう。

 ︎︎俺に残された選択肢は数秒後に飛んでくるであろう玉を避けることだ。


俺は勘でしゃがんでみると、俺に雪玉が当たった感覚はなかった。


「あれぇ、避けられちゃった。小鳥遊くんに弟がやられちゃったから、私も誰かを当てないといけなかったんだけど」


小鳥遊は来羽と投げあっていたが、既に叶多くんは当てた後だったか。小鳥遊がやられない限りは横から飛んでくることなく茅森先輩とのタイマンに集中できるな。


「俺も当たるわけにはいかないんです。小鳥遊が今来羽とやってるので向こうは気にしないでやりましょう、どうです? 後輩に負ける気はありません?」


「後輩に負ける気なんて全くないよ、後輩に勝ってしっかりと先輩としての威厳を保たないと。まぁそもそも威厳なんてないんだけどね」


まぁバイトの先輩後輩ってだけであってスポーツとかの先輩後輩じゃないしね。とはいえ、茅森先輩の方が年上とはいえ女性だし、男である俺が負けるわけにはいかないな。

 ︎︎と言っても普通に並の高校生男子くらいの速度で雪玉を投げてくるからなぁ、茅森先輩。


「そこまで言ったんですから簡単に当たらないでくださいね? 尊敬する先輩だからといって手を抜くつもりは無いので」


「大丈夫、私は当たらないよ。逆にそっちも簡単には当たらないでね?」


「もちろんです」


俺は2個雪玉を持っているが茅森先輩は1つの大きい雪玉しか持っていない。大きくすれば当たる面積は大きくなるけど投げる時にスピードが出ない、基本的に自分が最大限スピードを出せる大きさがベストなのである。


とりあえず俺は1個雪玉を投げたが、その大きい雪玉で防がれた、なるほどそういう使い方か。それに攻撃する時はその大きい雪玉から取って投げてくる、実に厄介だ。


「ちょっとずるくないですか、そのやり方」


「勝負事にずるいとか関係ないよ、勝ったもの正しい! だから澄風くんはこの鉄壁を超えてみなよ」


大きい雪玉で体は守られてるし、足元に投げたとしてもジャンプされて避けられるだろう。だとしたら俺が狙えるのは肩とその雪玉を持っている手、なんだけど1個ずつ雪玉を投げてもどうせ防がれるな。

 ︎︎多少コントロールが不安だが左手も使って同時に投げることにしよう。


「それじゃあいきますよー! 防ぐ事ができますかね!」


肩と今は塞がれてる体に投げる、肩の方を守ってくれれば嬉しいがやっぱりそうは簡単にいかなかった。


「よっと。2個同時に投げてくることは予想してたけど、ここまでコントロールがいいとは思ってなかったなぁ」


「まぁ本気で当てるつもりでしたので。というかどこに飛んでくるかがわかってるかのような動きでしたね? 肩と体に飛んできた雪玉を体は雪玉で防いで肩に飛んできたやつは少し動くだけで避けるなんて」


ただ運が良かった可能性もあるが俺だったら肩に飛んできた雪玉を良けれたとしてももっと大袈裟に動いていたと思う。圧倒的に目がいいというより圧倒的な空間把握能力の高さがそれを可能にしてるのだろう。


「さ、私がなんで避けられるかも澄風くんなら理解出来たでしょ?」


「えぇ、大体は。これは少し考えて投げないと茅森先輩には当たりそうにないですね」


茅森先輩はどの位置、方向、速度などを素早く理解するのが早い。視界にさえ入っていればどこに飛んできても避けたり防いだりするだろう、長い戦いになりそうだな。



§§§



その頃小鳥遊。


「当たらないー!」


「うーん、別にコントロールも悪くないんだけど……圧倒的に力がないね?」


来羽ちゃんに狙いを定められたんだけど、来羽ちゃんが思ったより力がないせいで僕のところまで雪玉が飛んできていないんだよね。まぁ頑張って僕の元まで届かせようとしてる姿は可愛い。


ただ、僕が投げても避けられるからなかなか決着がつかないんだよね。僕は別に力が足りないわけでもコントロールが悪い訳でもないんだけど、シンプルに来羽ちゃんが避けるのが上手い。


「頑張って、来羽ちゃん!」


「うーん、リスクはあるけどもう少し近づいて投げようかな」


「お、それでいいの?」


近づけば来羽ちゃんの雪玉は僕の元に届くようになると思うが、僕の雪玉は避けにくくなる。


「ここぐらいなら当たるかな? えいっ!」


来羽ちゃんが近づいて投げようが僕が下がれば届かない、まぁ僕の雪玉も当たらないんだけど。でも、下がりすぎたり隼人と茅森さんの戦いに紛れ込んじゃうな。


「むー、まだ当たらない……。なんで小鳥遊さんに当たる直前で急に落ちちゃうんだろ」


「来羽ちゃん、投げ方! 無意識のうちに野球のフォークの投げ方になってるから小鳥遊先輩の手前で落ちるんだと思う!」


「そうなんだ、じゃあちょっと持ち方を変えて……。これでよしっ!」


多分持ち方を変えたことでちゃんと僕の元まで届くようになっただろう、それに僕の雪玉は避けられる……。だいぶ状況が一変しちゃったね。


「第2ラウンドかな?」


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