第36話 雪遊び①
放課後、俺が家に帰った頃には既に来羽と叶多くんが遊んでいて茅森先輩がそれを眺めていた。
「休んで問題なかったんですか? 正直あそこって茅森先輩が動かしてるようなものじゃないですか」
「私が居なくても大丈夫なように教育はされてるはずだよ。別に私はあそこで一番最初に働き始めたわけじゃないし、私より優秀な人はいっぱい居るよ」
その中には俺が知らない人も居るのだろう、少なくとも俺が入ってる時に茅森先輩より仕事が出来ている人を見た事がない。まぁ俺が帰ったあとに入ってる人もいるしその人が優秀な可能性もあるけど。
とりあえず制服のまま遊ぶ訳には行かないので昨日買った上着に着替えて戻ってきたが、まだ小鳥遊達は来てない、まぁ普通に俺ん家までそこそこ距離あるしな。
「澄風くんはさ、来年受験な訳じゃん? 塾に行かずに一浪した私から言わせてもらうとしたら塾に行かずに現役合格するのは厳しいと思うよ。澄風くんが環境的に塾に行けないことはわかってる、だからさ、その分頭のいい人に教わるとかをしないと私みたいになっちゃうよ?」
「同じ大学をめざしてる友達が2人いるんですよ、その2人とも自分より頭がいいのでその2人に教えてもらうつもりです。塾に行った方がいいのはもちろんですけど、来羽を1人にする時間を増やす訳にはいかないので」
「妹思いだねぇ」
しばらくして星野達が来て星野が奏ちゃんが転けないように見守りながら遊んでいる。俺と茅森先輩は変わらず少し遠くから遊んでる姿を眺めているだけだ。
︎︎正直俺は小鳥遊が来ないとあの遊んでる中に入りずらいんだよな。
「どこの大学も塾に行ってない時点でハンデを背負ってると思った方がいいよ。高校も塾無しで乗り越えてるんだったらその時より頑張れば大丈夫だとは思うけど……実際は予想なんてできないよ」
「受かれるように勉強しますよ、来年は来羽も支えてくれると思いますし。まぁ再来年は来羽が受験なんですけど」
まぁ来羽は塾無しで五教科450点を平然と超えてるし、売ってる過去問などをやってるだけで行きたい高校に行けるだろう。まぁ塾に行かせようと思えば行けるけどそれは再来年にならないと分からないか。
「あー隼人の家まで行くのつら」
「まぁまぁ、了承したのは小鳥遊の方だから文句を言うな」
「茅姉もお兄も見てないで一緒に遊ぼうよ!」
「行くよ、2人とも」
そんなこんなで茅森姉弟、星野姉妹と来羽、小鳥遊と俺に別れて雪合戦をすることになった。奏ちゃんに当てるのは可哀想なので星野に2回当てたら2人ともアウトというルール以外は変わったことは無い。
「行っくよー!」
来羽の投げた雪玉が開始の合図となった。
「小鳥遊、俺たちって2ペアから狙われる気がするんだけど」
「まぁ男子が2人のペアだからねー。雪玉だし避けるしかないんだけど、風景と同化するから投げられたら勘で避けるしかないね」
予想通り、最初から星野と茅森先輩がこちらに向かって投げてる来るが……星野の投げてる雪玉、俺らのところまで飛んできてない気がする。俺らのところまで飛んできてないどころかこっちにすら飛んできてなくないか?
「星野、別に雪玉だから痛くもないと思うし本気で投げていいんだぞ?」
「本気で投げてます! だから下手なんです、投げるのが絶望的に下手なんです!」
「えぇ……。だってこの距離だよ?」
俺と星野の距離は5mくらい、普通に投げれば届くと思うのだが……。
「じゃあ1回動かないから投げてみなよ。まぁ投げられたら投げ返すけど」
「当たらないですよ?」
「まぁまぁ」
宣言通り、俺は1歩も動かなかったのだが星野の投げた雪玉はスピードはあるものの俺の横を通り過ぎて行った。とりあえず1回投げられたし俺も投げ返して星野は1アウト、このまま二回目を当てることも出来るがさすがに面白くないのでそんなことはしない。
星野と俺がやり合いをしてる最中に遠くからものすごいスピードの雪玉が飛んできて星野に当たった。
「あ」
「ど、どこから飛んできたんですかね、というか一体誰が私に……」
「おー、案外上手くいくものだね。これで星野姉妹は脱落、あとは来羽ちゃんだけだ」
茅森先輩があんな玉を投げてくるとは思わなかったな……。星野がアウトだし、俺は今から茅森先輩とタイマンしないといけないのか。
「澄風くん、私と戦おっか?」
「正直あんな豪速球投げる人と戦いたくないですね……。でも、茅森先輩さえ倒せば俺が恐れることはなくなりそうですね」
「私に当てられるならの話だけどね? 大人気ないかもしれないけど、私は遊びでも手を抜かないからね」
ただ、茅森先輩との戦いに集中しすぎたら来羽か叶多くんから雪玉が飛んでくるかもしれないし難しいところだ。小鳥遊がどちらかを押えてくれてるとは思うが急に横から飛んできたら恐らく避けられない。
「それじゃあ澄風くん、1回で済むと思わないでね?」
「いや、ルール的に1回で済ましてくださいよ。何回も当てられたら体が雪まみれになるじゃないですか」
「そんな細かいことは気にせずさ、楽しもうよ」
「あ、はい」
そう言った頃には既に茅森先輩は振りかぶっていた。
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