第31話 暗雲

さてと、さっきからずっと後をつけられてるわけだけど、このまま帰るのはちょっと危険か、家の位置がバレたら出待ちされて来羽を巻き込むかもしれないからな。


『来羽、今誰かに後をつけられてるから寄り道して帰る。この後に返信してる余裕は無いから許してくれ』


それだけ来羽に送ってスマホをしまう。一旦後ろを振り向くが怪しい人の姿は見えない。


人がこの道にいっぱい居なくて助かった、いたらその人混みに紛れて一気に近づいて来ていただろう。だが……ここまでしつこくついてくると思ってなかった、空も暗くなってきてるし、そうなればやばいな。相手は恐らく目立ちにくい色の服を着ているはずだ、暗くなったら相手が見えなくなる。


このまま交番に向かうのもありだが、今後ろにいるやつもこの街に住んでるのだから俺が交番に向かってもそれに気づいて逃げるだろう。結局このことを報告するためにも1回交番に行かないといけないか。


俺は今歩いてる道から方向を変え交番のある方へ、後ろのやつはまだついてきているようだ。このまま交番までついてきてくれたら嬉しいのだが、さすがに相手もそこまで考え無しに動いてるわけじゃないだろう。


結局、交番の前に着く頃には既に後ろの気配は消えていた。とりあえずこのことを警察に報告したので帰ろう、また後をつけられないうちに。



§§§



翌日、体育祭の2日目。そしてトーナメントの続きをする日なのだが、俺は朝からずっと昨日の奴のことを気にかけていた。


明るいのでそんな大胆な行動はしないと思うが、人混みに紛れられてはどいつが俺を狙っているかなんて分かりはしない。小鳥遊には感謝しないとな、小鳥遊の忠告がなければ俺は既にやられてるかもしれないし、周りも巻き込んでいたかもしれないしな。


「僕が言ったことだけど、隼人がそこまで気にするとは思ってなかったかな。今までなら何も気にせず出てきたら叩くって言ってたでしょ?」


「胡桃さんと話して少し考えが変わってな。後をつけてきた時から相当ヤバいやつだとは思ってるからな」


今まで散々色んなことに関わっていったが後をつけられたことは1度もない。ただ、目的の後をつけるほど執念があるということだ、本当に何をしてくるか分からない。


「まぁ、隼人はそういうことの対応になれてるんだから今まで通りいけばいいんじゃない? でも、今回で終わりにしなよ?」


「あぁ、関係の無いことに関わるのは今回で最後にするつもりだ。ただ、友人や家族が関わる場合は許してくれ」


「まぁそれは許すさ、僕は隼人の行動を決める権利はないわけだし。関係ないことに関わりに行かないだけで十分さ」


学校内も安全とは言えないが1人で行動してるよりはマシだろう。


俺らのクラスの決勝進出は決まってるのでまずは準決勝の1組と5組の戦いを見て、その勝ったクラスと俺らのクラスで決勝戦だ。観戦してる間も気になるがひとまずは体育祭、一旦全て忘れよう。


「何か、困ってる事でもあるんですか?」


「星野か、まぁそうだな過去一で困ってる。なんか俺に恨みがあるやつが俺の後をつけてきててな」


「恨みがある人ですか……、澄風先輩の場合は色んな人を助けてきたんですし、その過程で澄風先輩が邪魔になった人がいっぱい居るじゃないですか。まぁ自業自得だと思いますけどね」


確かに俺が人助けををしていなかったからこんなことにはなってないだろうなぁ……。


「一応、気をつけてとだけ言っておきます。私も含めて、澄風先輩を大切に思ってる人はいると思うので」


「星野って俺の事嫌いなんじゃないの?」


「えぇ、嫌いです。ただ、友達や家族のために動いてる人を完全に嫌いにはなれないだけですから。それに、澄風先輩には何回も助けて貰ってますからね」


昔と比べればだいぶ星野の好感度も上がってきたものだ。昔なんか話すことすらなかったのに今となっては心配してくれているんだからさ。


俺が現時点で絶対にこの身を挺して守ろうと思ってるのは小鳥遊、星野、胡桃さん、来羽の4人。茅森さんは大丈夫だと思う、だってあの人が言った言葉が『自分が強いと思うのなら手の届く範囲の人は助けることだよ。もし、自分が弱いとしても時に激情はそれをも無視する。来羽ちゃんや学校の友達、守りたいと本当に思ってるのなら体を張ることだよ』だからな。


この言葉でより俺は人助けに向かうようになったが、さすがにやりすぎだったな。まだまだ子供の俺が助けるのは周りの本当に大切な人だけでいい。


もうそろそろ準決勝も終わりそうになった頃、放送を知らせるチャイムがなった。


『皆さん、今すぐ全ての競技を中止してください! 校内に凶器を持った不審者が侵入してきました。繰り返します───』


まさか学校中にまで乗り込んで来るとは……。どんなやつか顔を拝みに行くとしよう、こいつが探してるのは俺のはずだからな。俺が逃げ回ってちゃあ被害が大きくなってしまう。


これが最後の体を張る場面だ、完全に俺が原因で起きたこの問題。俺が逃げ回っているのはおかしいだろう? それに茅森さんの教え通り、守りたいと思ってるから───。


「体を張るとしますかね、これが最後だ」

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