第30話 体育祭④
「「うぉぉぉぉぉ!」」
リードしたことにこちらのチームからほとんど雄叫びに近い歓声が聞こえてくる。まぁボールはあちらに渡ったわけだし喜びに浸ってる暇は無いなぁ……。
やり返しかのように俺の元へ飛んできたボールを避けると後ろにいた外野がそれをキャッチして近くに人が当てられてしまった。これで認識したかな? 気を抜いてる暇なんて全くないということを。
勝つためにはもう一度当てないといけないが、さっきのは偶然が重なって当てられただけだし、真正面から当てるのはちょっと厳しいかもなぁ……正面はドッチボール部の壁があるし。それより、時間があと3分しか残ってないな。
「多分次当てた側の勝ちかな、それかこのまま引き分けでサドンデス戦になるかのどっちかだ。ラストスパートだ、気合い入れるぞ」
「隠してたけど俺はドッチボール部じゃないけど、ドッチボールで天下を取ったことはある」
「天下……言い方があれだけど、意味は理解した。じゃあ色々任したぞ、エースさん」
天下を取った、つまり全国大会で1位を取ったチームに所属していたのだろう。そりゃあ頼りになる、俺なんかよりよっぽど強い球を投げるんだろうな。
とりあえずボールはこっちにある、ボールを渡して1回投げてもらうか。
「なぁ、ドッチボール部相手なら本気で投げていいよな? 中学の頃に引退してるからブランクとかあるけど、流石に普通の生徒に本気は不味いかなと思うんだけど」
「まぁ、時間もないしとりあえず本気で投げれば? 自分で怪我させるかもと思ってるのならドッチボール部を相手にしなよ」
───なんかすげえやつ出てきたな
───もうこの澄風と神田だけで勝てるんじゃないか?
そういう他の奴らは後ろに下がっているが当てられないためにもそうしてくれると嬉しい。今のところドッチボール部のボールを取れるのは俺と、見てはいないが神田も取れるだろう。
「ドッチボールなんて久しぶりだな、体が鈍ってると思うけどまずは景気付けによいしょっー!」
投げられたボールは真っ直ぐ飛んでいきドッチボール部の奴らはそれを横に避けた。流石にドッチボール部でも元全1のボールをキャッチはできないみたいだ。というか威力強すぎて後ろにいた外野の人もキャッチ出来てないじゃん。
「さすがに中学の頃よりは弱くなってるか。まぁ体育祭の競技だし、問題は無いか」
「普通に顔に当たったら不味いだろその威力は……でも、とても心強い。やっべぇあと1分だわ」
「任せろ、次で確実に決める。外野、パスだ!」
ドッチボール部の奴も神田に渡してはいけないと理解してるからこそ、そのパスをカットしようとする。山なりに飛んだボールはそいつらの頭上、取ろうとした手を掠めてこちらのコートにバウンドした。
それを神田がとって追い討ちの一撃、そして試合終了のホイッスルが鳴り俺たちのチームが勝利した。
そのままノリに乗って次の試合も俺たちのクラスは勝利した。
§§§
さてと、答えも持ったことだし胡桃さんの問いに対して答えないとな。
「胡桃さん、前の問いに答えてなかったからさ。答えておこうと思ってね、俺を探しては行けない理由を」
「確かに私は力になれないかもしれません、でも知りたいのです」
「そうだね、俺を探すとまず胡桃さんが危険に陥る。尤も、そうなるってことは俺も危険な状態ってことだけど、胡桃さんまで関わる必要が無い」
「澄風さんも逃げればいいじゃないですか……!」
まぁ俺も逃げることはできる、でも今までの事が起きた時、俺が逃げることで何人の人が怪我をする? 何人の人に迷惑がかかる? 俺が犠牲になればそれが最小に収まるんだ、それでいいだろ? それに俺が行動しても迷惑をかけるわけじゃない、小鳥遊は俺の行動がおかしい、そう思ってるらしいが俺はその理由が分からない。
「澄風さんを心配する人はいるんですよ、私や小鳥遊さん……1番家族が心配してるんじゃないんですか……?」
ずっとこうやって俺は生きてきたし、誰にも迷惑は……。いや掛けてたかもしれない、俺は関わって帰ってきた後に何度来羽の泣きそうな顔を見てきた? 何度来羽に心配させた? 小鳥遊が言いたかったのはこういうことなのか?
そうか、なら……俺に恨みを持っているやつ、この問題を最後に関係ないことに突っ込むのはやめよう。俺が助けに行くのは友達が危機に陥った時だけに変えるとしよう。
「俺は最後にやらないといけないことがある、それが終われば俺は俺に関係ないことには突っ込まないことにするよ。まぁ小鳥遊とか胡桃さんとか友達や家族のことなら関わるけど」
「それはありがとうこざいます……。それと、最後にやらないといけない事とは……?」
「小鳥遊から聞いたんだ、俺に恨みを持った奴がいるって。これは完全に俺の問題だから、俺が何とかしないといけない」
この問題は絶対に誰も巻き込むわけにはいかない、相手が何をしてくるか予想出来ない以上こちらも普段から気をつけないといけないな。
とりあえず話さなければいけないことも言えたし、今日は1人で帰るとしよう。俺に恨みがあるなら俺に向かってくるのは当たり前だし、俺の近くにいたら巻き込まれるかもしれないからな、今だけは一人でいるのが得策である。
「じゃ、俺は帰るけど、気をつけて帰ってね」
「澄風さんも、お気をつけて……。恨まれてるのなら狙われる可能性は高いの思うので……」
「あぁ、俺も今まで以上に気をつける。でも友達を置いて居なくなったりはしないし親より先に死ぬっていう親不孝者にはなりたくないからな。親が帰ってきた時に俺が怪我してたなんてことにはさせたくないしな」
親のためにも友達のためにも、俺はこの問題を怪我をすることなく片付けないとな。そういう影が見えたら警察に連絡するとしよう。
俺は電柱の裏から見ている男に気づいては一旦泳がせておこう、まだここには人がいっぱいるからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます