第28話 体育祭②

クラス内で決めた順番で並び、既に第1走者は走り出していた。ルールとしては1人ずつお題を取りに行ってそれを達成したら次の人、それの繰り返しでアンカーまで終わるのが早いクラスが勝ちである。


お題は生徒から集めて委員会の方がその中から選んであるだけなので俺たちが何を引くかは完全ランダム。もしかしたら簡単なお題かもしれないし俺にとっては難しいお題かもしれない。


こういう時に大体の人は隣の人と話したりしてるんだろうけど、俺は近くに友達がいないのでこうやって1人で考えることしかできない。小鳥遊や胡桃さんは結構前にいるからなぁ……。


「隼人、ちょっと」


「なんだ、物か? それとも者か?」


「隼人自身だね、僕の後に着いてきて。走るから頑張って」


勘弁して欲しいなぁ、別に小鳥遊についていけないってわけじゃないけど速いからとても疲れるんだよな。


「そういや、俺を借りるってどんなお題なんだ? 友達がどうこうとかのお題なら俺以外に近い友達でいいだろ?」


「いやさ、優しい人を連れて来いってお題だったから僕の知り合いの中だったらいちばん優しいかなぁって」


まぁ人助けをしてる点で言えば優しいってことになるのかもしれないけど、3人危機に陥った人がいたとして俺は2人助けるために1人殺す、全員は救わない。その場の最大の幸福を重視する、それを考えたら俺は優しいとは言えないだろう、多少は全員救いたいと思うがそれが難しいことを理解してるからな。


とりあえずそのままゴールまで向かってお題に合ってると認められたので俺は再度順番を待つ列に戻る。まだお題の中に好きな人という(俺にとっては)魔のお題があるかは分からないが、あった場合は誰を連れていくのが正解なんだ?


星野は……噂を再発させる可能性もあるし、そもそもとして星野の気持ちを考えたらなしだ、胡桃さんは流石に知り合ってからが短すぎる。まぁその『好きな人』というお題で女の子を選ばないといけないという価値観自体が間違ってると考えた方がいいか。


そういうお題を引いた時に女子という指定がなければいいが、できるならそういうお題は引きたくない。俺の順番は結構最後ら辺だし、その頃には既にそういうお題は引かれてることを願おう。


しばらくして俺の番が来たので真ん中にある机に置いてある封筒を適当にとって中に書いてある紙を確認した。


「うっそだろ……」


書いてあったのは『仲のいい後輩の物』。うーん、話をする後輩が星野しかいないわけだけど……仲がいいかは怪しいかもしれない。まぁそんなこと言っても星野以外に選択肢はないのでテントの中から星野を探してその手を掴んだ。


「いきなりで悪いけどお題的に星野以外に当てはまる人がいなかったから、何か物を貸してくれない?」


「今タオルしかないのでタオルでいいですよね。あと、終わったら何もせずにちゃんと返してくださいね?」


「何をされると想像してるんだよ……。心配しなくてもちゃんと返すって」


星野のためにも全速力でゴールまで走った。そのままテントに移動して星野にタオルを返して戻ろうと思ったのだが、星野の隣にいた後輩に捕まえられた。


「俺になにか用事でもあるの? その前に名前を教えて貰えるかな、俺は交友関係が狭くてさ」


「楓と同じクラスの吉住歩です。それで澄風先輩はこの前楓の看病に行ってくれたって聞いたからお礼を言おうと思ってね」


「俺はほとんど何もしてないよ、一緒に来てくれた妹がほとんどのことをしてくれたかな」


星野をメインで看病していたのは来羽だし、俺はどちらかと言うと星野の看病よりかは外で何かをしていただろう。そもそも星野が看病することを許してくれなさそうだしな。


「看病はしてないにしても買い物だったり、奏を迎えに行ったりしてくれたじゃないですか、そこは助かりましたよ」


まぁこの前助けるって言ったばかり出しな、買い物くらいならいつでも付き合ってやれる。と言っても前は星野が体調を崩していたからっていう理由があったからこその事なので次は暫くやってこないだろう。


そこで話を終えて俺は急いで列に戻る、そうじゃないと借りものリレーが終わってしまう。


そこから走って何とか間に合った俺は結果を聞いて自分のテントに戻った。


「隼人、そういえばお前に何か恨みを持った奴がいるって聞いたけど、何か問題でも起こした?」


「俺に恨みを持ってる奴ねぇ……」


心当たりがあるとしたら来羽に付きまとってた、名前は……霧立だったか。1回警察にお世話になってるんだから反省して真人間になってて欲しいが、正直俺に恨みがあるやつといえばそいつしか思い浮かばない。


「あぁ、少し心当たりがあるから気をつけておく。もしそいつが何かをしてきた場合は俺の問題だ、小鳥遊は関わってくるなよ、もちろん星野たちも全員だ」


その噂のやつが霧立なら全て俺の責任だ、他の人を巻き込む訳にはいかない。とは言ってるがその噂のやつが霧立じゃなくても俺はどうせ他の人は巻き込ませないように動くんだろうな。


「隼人はいい加減気づけ」


「何にだよ」


「それは隼人自身で考える事だ」


小鳥遊は俺の行動がおかしいとでも言いたいのか? 俺が行動せずに何人もの犠牲者が出るのと俺が行動して犠牲者が俺だけの済むのなら絶対に俺は後者を選ぶ。俺は自分の行動をおかしいとは思わない。


「小鳥遊には何回も言ってきたはずだぞ、何を言おうと俺は変わらないってな」


「隼人はもう少し周りの声に耳を傾けた方がいい」


一応、忠告として覚えておくことにしよう。それに胡桃さんに言う理由も思いついたし、終わったらちゃんと話さないとな。

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