第26話 優先順位

……家を出たのはいいけどそういえば奏ちゃんが通ってる保育園がどこか聞き忘れたな。ここら辺には保育園は2つしかないんだけど、位置が真逆だから2分の1を外したら時間がよりかかってしまう。


というか俺が今向かってる方向が合ってるかすら分からない、やらかしたことにスマホを置いてきたしな。まぁいいや、どうせ俺が歩き疲れるだけなんだし間違っててもいいや。


とりあえず合ってるか間違ってるか分からない道を進み続けて数分、どこからかSOSの声が聞こえた。そちらに向かおうとしたが、俺はその方向を向いたところで足を止めた。


今は奏ちゃんを迎えに行ってるんだ、遅れたら星野も奏ちゃんも困るだろう。だけど声が聞こえたということはそちらでも助けを呼んでいる、俺にとって最悪の二択だな。


普通なら友達の方を優先するだろうし、見知らぬ人なんて興味無いだろうけど星野は俺のことが嫌いでそして俺は今まで見知らぬ人も助けて来た。今までなら自分のことより人を助けることの方がが優先順位が上だったが、今回はどちらを優先するべきか。


迎えは少し遅れても問題ないが助けることは今しかできないし、そちらを優先した方がいいという考えもあるし、星野や奏ちゃんのためにも早く迎えに行ってあげた方がいいという考えも俺の中にはある。


もちろん俺に助ける責任なんてないが、俺が行かなくて誰かが怪我すると考えると俺はその場に向かいたくなる。他の誰かが既に手を打ってくれてるかもしれない、だけどそれでどうにかならない場合もあるのだ。


去年も警察が来ていたが来たからと言ってすぐに解決していたわけではなかったしな。


そして俺がそんなことを考えてるうちに2回目の悲鳴、だけど俺は……初めて道の途中で聞こえたSOSを無視して本来の道を歩き始めた。別にいいだろ? 誰かを困らせる訳でもない、元から俺にそんな義務は無い。


優先するべきことを間違えては行けない、今までの友達が居なかったおれなら助けに行っていた、だけど今は友達がいてその友達にに頼まれて迎えに行ってるんだから優先順位はそちらの方が上のはずだ。


俺はそのままこの道の先にある保育園に向かったが運の悪いことに逆だった。歩いていたら真っ暗になってしまいそうだったので少し走って逆側にある保育園まで向かった。



§§§



「なかなか来ませんね?」


「今日はお姉ちゃんが風邪だからお姉ちゃんの友達のおにーさんが迎えに来るの!」


「疲れた……。おまたせ奏ちゃん、遅れてごめん」


普通にあそこから走ってこっちまで来るのはキツすぎる。別に俺は普段から運動をしてる訳じゃないし無理しない方が良かったな。


「おにーさん、じゃあ帰ろ!」


「うん、離れないように手とか握っておくんだよ?」


まぁ結果的におんぶしながら帰ることとなったが奏ちゃんぐらいの体重なら疲れてる状態でも何とかなった。走ってこちらまで来たおかげで帰る時間が遅くなるということは無さそうだ。


スマホを忘れてきたから今が何時か確認できないけど、何年間も11月をすごして来たんだから空模様で大体の時間をわかる。奏ちゃんをおんぶしたまま家に戻ると来羽が晩御飯を作っていた、俺が思ってたより時間は過ぎていたようだ。


「迎えに行ってから帰ってくるまでちょっと遅くない?」


「普通にどっちの保育園か聞いてなかったから勘で進んだら真逆だった。スマホも置いていった結果この時間だ」


ゆっくり奏ちゃんを下ろすと、奏ちゃんは星野の部屋に走って行った。


「星野はまだ寝てるのか、それで晩御飯はここで食べるのか?」


「まぁ2回も同じことをしたくは無いからね。ここで食べてから帰るつもり、ちゃんと許可は取ってあるから」


「それはじゃなくて?」


普通に星野のことならありそうだけどな。


「星野さんをなんだと思ってるの? ちゃんとお兄も一緒に食べられるから大丈夫だって」


「そう? とりあえず星野を連れてくるわ」


星野の部屋に向かうと扉が空いていてちょうど奏ちゃんを抱えてこちらに向かおうとしていた。


「もうご飯できたんですね、すぐに向かうので先に食べておいてください」


「ん、うどんだったら風邪の時でも食べられるよな?」


「はい、多分食べれるも思いますし奏も食べられるでしょう」


まぁ来羽の事だし元々そう考えて作ったのだと思うけど。とりあえず星野に言われた通り先に食べておくことにしよう。


うどんなんて久しぶりに食べたがつゆとよく絡んで美味しい。星野たちのことを考えて具材は少ないけど、これはこれでいいかもしれない。


そういえば……俺が聞こえないフリをした後はどうなったんだろう? 俺がそんなことを考える必要はないとは思うが、悲鳴を聞いて何かがあったとわかってるので気になりはする。あの時に俺が行ってれば誰かが助かったかもしれない、そう考えてしまうのはやめた方がいいな。


食べ終わった後来羽と一緒に片付けをして帰路に着いている。これまでが積み重なった結果だろうか、やはりあの悲鳴の原因が気になる。


「どうしたのお兄?」


「奏ちゃんを迎えに行く時に悲鳴を2回聞いた。それの原因が何かなって、こういう場面で初めて行かなかったからさ」


「普通は行かないんだよ、それにお兄が行ってその誰かが助かったとしてもお兄が助かる確証はないじゃん」


まぁ今まで散々巻き込まれに行ってたけど、助かってるのが奇跡なのかもしれないな。去年だって結果的には腕に深めの傷を負うだけだったけど一歩間違えたら死んでたかもしれないし、今回もどうなってか分からないんだから行かないのが当たり前か。


まぁどうせ俺は今回みたいに別の用事がなければいくら止められても行ってしまうんだろうな、そういう使命があるかのように。


今までだったら考えなかったけど、妹の願いの方が優先順位は上だな。


「でも俺はこれからも人助けは続けるつもりだ」


「じゃあ約束、絶対に私をひとりにしないで」


「俺は来羽を置いて居なくなったりはしない、約束する」


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