第19話 文化祭提案 楓side

今は文化祭の出し物を決めている、決めているんだけど黒板に書かれている案が大体男子たちが見たいと思ってる出し物ばかりである。確かにコスプレ喫茶とか一回やってみたいとも思うけど、どうやってその服を用意するかとか問題がいくつかある。


「コスプレ喫茶とか楽しそうだよね、私はあの中だと1番やりたいかなぁ」


「私もコスプレ喫茶とかいいと思うけどどうやって服を用意するの? 誰かそういう服を用意できる人がいるのなら話は別だけど」


「いやいや、この学校にはハロウィン祭で使っていたやつとクリスマス祭で使うらしい服があるでしょ?」


つまりこの前着た魔女っ娘の服とか、クリスマス祭だと、サンタの服ということかな。季節が外れてる気がするけどまぁコスプレと言えばコスプレだと思うしそれでいいかな?


他の案は実現するのが難しいとか、準備に時間が掛かりすぎとかの理由で次々と消されていき、結果的に残ったのが一番最初出されたコスプレ喫茶だった。


「じゃあ先生たちに衣装を使っていいか交渉しに行ってくるからその間に服のサイズ確認しといて。じゃあどんな服があるかも聞いてくるから、その後にアンケートするよ。あ、もちろん数の問題もあるからそこは譲り合いしてね」


しばらくして委員長が戻ってきて、この学校にある衣装は全部使っていいとの事らしい。それでサイズも一通り揃ってるから自分でサイズを選ぶということになった。


「やっぱりコスプレと言えばサンタコスでしょ、楓も一緒に着ようよ!」


「いやぁ……そのスカート短くない? ちょっとした反動で見えちゃうじゃん、私はハロウィン祭と同じでやつでいい」


でもよく考えたらクリスマス祭の時にあれの短いスカートのサンタコスチュームを着ることになるのかぁ……。なんか、澄風先輩は見えても動揺せず普通に指摘してきそう。


「先輩に可愛いって言ってもらいたくないの?」


「澄風先輩に可愛いって言われても嬉しくない」


「ん? 私は一言も澄風先輩とは言ってないよ? やっぱり楓にとって仲のいい先輩は澄風先輩なんだねー」


歩の中では私と澄風先輩が仲がいいということになっているらしいが、現状は変わらず私が嫌いと言い続けているし関係は変わらない。私も仲良くなって本当のことを言いたいと思ってるけど再会した時の初動を間違えたせいでどうするか悩んでいる。


別に私があの時の女の子だと言えばいいと誰もが思う、だけど今更言われたって澄風先輩からしたら意味がわからないだろう。


「歩が思ってるほど私と澄風先輩の仲は良くないよ、主に私のせいでね」


「ずっと澄風先輩のことを嫌いって言ってるけど、なんで嫌いなの?」


「そうだね……1年前に私が事件に巻き込まれた時に私を助けてくれた。私が自分を大切にしない人が嫌いってことは知ってるでしょ? それでその時に嫌いって言ってしまってから今まで嫌いって言い続けてきた、だからもう今更手遅れなのかなぁって」


今、澄風先輩が私に対してどんな感情を抱いてるかは知らないけど、良い感情は抱かれていないだろう。


「私はどうすればいい?」


「それは楓が決めることであって、私に聞くことじゃないよ、私は澄風先輩と仲がいいわけじゃないし。楓が今のままでいいと思ってるのならそれでいいんじゃない?」


少なくとも親がいない、つまり委員会に行けてない今は澄風先輩と話す機会は無いし、文化祭の時も小鳥遊先輩と居るだろうし、私から話しかけづらい。自然に話しかけられるとしたら委員会の時ぐらいなのでそれまで待つしかない。


あれだけ嫌いと言っておいて自ら話しかけに行くのは不自然だから、なにか言うきっかけとなる出来事が起きればいいんだけど……。


「まぁすぐに言うのは難しいと思うけどさ、後悔しないうちに行っておきなよ? 言えるのは今だけかもしれないし。聞いたことあるでしょ、3年生は塾や家での勉強をするのなら学校を休んでもいいって」


実際今の3年生も半数は既に学校へ行かずに家や塾で勉強しているらしい。澄風先輩が大学に行くかどうかは知らないけど、大体は受験するだろうし、今年が終わったら澄風先輩が来ない可能性もある。


歩は私が連絡先を知ってることを知らなかったっけ? なぜか、スマホで言えば済むことなのに私はちょっと顔を合わせてこのことを言いたい。顔を合わせて言うためには澄風先輩が3年生になる前に決断をしなければいけない。


でも、澄風先輩が1年前のことを覚えてなかったら少し面倒である。再会した時に向こうは私のことを知らなかったし、澄風先輩にとってはあの出来事も些細な事だったのだろうか。


まぁ今はそんなことは一旦忘れて文化祭のことを考えよう。


「歩、やっぱり私もサンタコスチュームを着る。その格好の方が澄風先輩の方から話しかけてくれるかもしれないし」


「まぁ頑張ってね、澄風先輩のこと。私に手伝えることは何もないけど、困ったら相談してね」


「うん、ありがとう歩」


今からは私が今までの対応を忘れて、澄風先輩に対してどれだけ素直になれるかだ。あと、澄風先輩が私の話を信じてくれるか……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る