第13話 妹と弟

前から茅森先輩が家に来たいと言っていたが、バイトをしてる以上はお互いに都合が合わない日もある。俺が休みでも茅森先輩がシフトに入っていて、茅森先輩が休みでも俺がシフトに入っている。


そこから色々話し合った結果、お互いにバイトがない月曜日に茅森先輩が晩御飯を家に食べに来ることとなった。学校があるので家に呼ぶのは晩からということに決まった。


昼頃には来羽は先に帰っているし茅森先輩も大学生で休もうと思えば休めるらしいが来羽と茅森先輩を2人きりにするとろくな事が起きないと思うのでこの決定は必然である。まぁ昼から遊びたいと来羽にめちゃくちゃ言われたが……。


『本当に晩御飯をご馳走になっていいの? 2人分作るのも大変だと思うのに、私と弟の分まで増えたら休む時間とか大丈夫?』


『2人分も4人分作るのも変わらないから問題ないです! 今日と限らずバイトがない日は毎日来てもいいんですよ?』


これは最近作ったグループでの会話だ、なんで今まで作ってなかったのか不思議ではある。


やっぱり茅森先輩は俺以外にはしっかりお姉さんしてるんだよなぁ……。その証拠に茅森先輩が来羽に抱きついても来羽は別に嫌がらないし、来羽は茅森先輩のことを姉か母親だと思ってる節がある。


『私は一応一緒に住んでる弟がいるからねぇ、毎日は無理かもしれないけど月1くらいなら大丈夫かな? 弟は人見知りだからね、そんな頻繁に連れて来れないし、だからといって1人にさせる訳にもいかないからね』


そして茅森先輩の弟がハロウィン祭の時にも居たらしいが会ったことないし名前も知らないので知らなかった。そもそもその弟が人見知りだし歳上で学校も違うんだから知る由もないか。


来羽は同じ中学生だからまだいいとして、俺は大丈夫なのか? 人見知りの人を今まで見た事ないから分からないが、年上の人は無理じゃないのだろうか。


『それって大丈夫なんですか?』


『弟の人見知りのことなら気にしなくていいよ。知らない人と話すより私と離れる……じゃなくて1人になる方が嫌らしいから』


うん、隠せてないね。つまりは来羽と似たようなん感じか、俺が1回大学になったら一人暮らしをしようかなぁとふと口に出した時に『ダメ!』と反応してきたので茅森先輩の弟も来羽と同じで離れたくないのだろう。


俺は隣にいる来羽に声をかける。


「茅森先輩の弟が同じ中学らしいけど知ってる?」


「苗字が茅森って人はクラスに一人いるよ? 男の子にしては小柄で可愛かった」


茅森先輩も小さめだし可能性はあるのかもしれない。とりあえず学校に遅刻する訳にも行かないのでそろそろ家を出るとしよう、もちろん途中までは来羽と一緒だ。



§§§



えっと、あの子が茅森くんだね。いつも独りだけど、何か友達としたいと思わないのかな? 人違いかもしれないし、もしかしたら本当に茅姉の弟かもしれない。


「ねぇ茅森くん、私と友達にならない?」


「えっ? えと、あの……」


いきなり話しかけられて友達になろうなんて言われたらこんな反応にはなるよね。まぁ人見知りだって聞いてるし、そしていちばん重要なのは茅森くんと友達になれるかなれないかだ。


「僕なんかでいいんですか? クラスの人気者である澄風さんと」


「なんでそこで自分を卑下するかなぁ……? 私がいいって言ってるんだからいいの! 文句を言ってくる人なんてどこにもいないし、居たら私がどうにかしてあげるから、ね?」


少し無理矢理感が否めなかったが茅森くんも頷いてくれたことだし、早速あのことを聞こうかな。


「茅森くんってさお姉ちゃんとかいる?」


「い、居ますよ。大学生の月奈お姉ちゃんが」


あんな距離の詰め方をしたからまだ少しぎこちない感じがあるけど、とりあえず聞きたいことは聞けた。上に大学生の月奈というお姉ちゃんがいる、つまり今日私の家に来る!


「ごめんね、人見知りなのにこんな距離の詰め方をしちゃって。友達になろうって言ったのも今日で晩に会うからなんだよね」


「月奈お姉ちゃんが今日は友達の家に食べに行くと言ってたんですけど、もしかして澄風さんの家なんですか?」


「詳しく言えば茅森くんのお姉ちゃんと私の兄のバイト先が同じで約束をしたってこと。それで人見知りって聞いてたから家に来るまでに私とだけでも友達になっていた方がいいと思って」


誰も知らない相手の家に行くより、その家に1人でも知り合いがいた方がいいのは当たり前の話だ。それに人見知りなら尚更だと思うし、同じクラスというのを利用して仲良くなった方がいい。


「今日の晩はお姉ちゃんと来るんだよね? 晩御飯を作って待ってるから」


「澄風さんが作ってるんですか?」


「うちは両親が仕事でずっと居ないからね。少し前まではお兄が作ってたんだけど、高校に入ってからは私が作ってる、だから味の方は心配しなくてもいいよ」


今日は4人分作るけど、いつか私が作った料理を家族全員で食べてみたいなぁ……。でも両親はいつ帰ってくるか分からないし、私が中学になった時のお祝いの言葉を貰ってから連絡が来ていない。


お兄のところに送ってるのかもしれないけど、お兄だったら私にも言ってくると思う。


……。両親になにかあったのだろうか?

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