第12話 未来の俺らは

ハロウィン祭から数日、例の噂も耳にすることが少なくなってきた。この後に噂を再度活性化させるような出来事がなければこのまま噂は消えるはずだ。


あの時は特例で家に行っただけだし、今は委員会にも来てないしで星野の関わる場面はないのでそのような出来事は起こらない。まぁ現実なんて予想外なことばかりなので絶対に起こらないと言い切れる訳じゃないが八割くらいは星野が俺に関わりに来ることは無い。


ひとつ間違ってはいけないのがあくまでも耳にすることが少なくなってきただけで、未だに話してるやつは一人や二人見かける。別に俺が芸能人とかじゃないんだからさ、そんなに噂を長引かせる必要ないじゃん? え、もしかして星野の方が有名人とか有り得る?


そう思ってスマホを開いて星野に聞いてみたのだが『そんなことあるわけないじゃないですか、私も親も一般人です』と俺の予想は散っていった。……俺もそうだとは思ってなかったけどさ。


「たーかーなーしー」


「何……? 噂をほとんど聞かなくなってここに来る人もいなくなったから暇で寝てたんだけど……」


「いや、一応仕事中だからな? 寝るなよ、先生に見つかったらいつもの時間に帰れないかもな」


図書室になんて何か調べ物をする時にしか来ないし、そもそもとして今はスマホがあるしわざわざ図書室に調べに来る必要も無い。確かに誰も来なくて今なんだけど、さすがに寝るのはねぇ……体が小柄なことを活かしてちゃっかり俺の影に隠れて寝てたし。


「別に家に帰っても暇なんだよねぇー、隼人とか楓みたいに相手がいるわけじゃないからさ」


「勉強したら俺との差を広められるんじゃないのか?」


「いやぁ、僕はこれ以上学力を求めてはいないし学力をあげたら先生の方から上に大学を勧められるじゃないか。隼人と同じ大学に行くなら今のままでいいんだよ」


小鳥遊は今から本気で勉強すればもっと上の大学にいけると思うのだが俺と同じ大学がいいらしい。俺としても小鳥遊とは同じ大学がいいし今のままで居てくれると俺が死ぬ気で勉強する必要が無くなるので助かる。


「小鳥遊と同じ大学に行きたいと言ってた俺が言うことじゃないが、俺に合わせなくてもいいんだぞ?」


「長い付き合いだしね、そもそも今までは隼人の方が僕の進学先に着いてきたんだから今回は僕が着いていくよ。まぁ本音は5歳からの幼馴染と離れたくない」


小鳥遊とは幼稚園の時から友達で、今まで別の学校に行くことも無く一緒に進学をしてきたんだ、今更別々の学校にいきたいと思う方がおかしいか。昔はよく小鳥遊を家に呼んで来羽との3人で遊んだものだ、来羽が5年生くらいの時から今の面影が出てきたので小鳥遊を家に呼ぶことも少なくなってきた。


「未来でさ、僕と隼人が同じ大学に入って、シェアハウスとかしてそうだよね」


「まぁ同じ大学に入れたのならありそうだよな、正直そういうの憧れてるタイプの人間だし。あーでも来羽を1人にさせるのは……」


「……君はシスコンと言われても文句は言えないと思うな」


───解せぬ。


まぁ俺がシスコンかどうかは置いておいて、来羽を1人にさせるとか以前に親がシェアハウスを許してくれるかだ。そもそもまだ未来の話だし大学に合格できるかすら分からないのにこんな話をしてるのはどうかと思うが、まぁいいだろう、これは未来の俺らがどう過ごしてるかの予想でしかないんだから。


「俺たちが大学2年生になった時に星野が───いや、今のままでは到底ありえない話だな、なんでもない忘れてくれ」


「そこまで言ったのなら最後まで言って欲しいところだけど、隼人の言うありえないことは限られてるから僕もだいたいわかったよ。未来でそうなってると楽しそうだね」


「あぁ、今考えられる未来の理想形だろうな」


俺は途中で口を閉じたがおそらく俺が何を言おうとしたか小鳥遊には伝わったのだろう。現状を考えれば到底叶いはしないし、そもそもそれは星野の意思次第だ。


星野が嫌だという可能性の方が高いし、星野が俺たちとおなじ大学に来るなんて分からない。ただ、もし星野が同じ大学に来たのなら3人でシェアハウスでも出来たら楽しそうだなと、そう思っただけだ。


そのためには俺が星野に嫌われているこの現状をどうにかしないといけないが、すぐに解決できるなんて思っていない。人が人を嫌いになったらそこからまた好感度を戻していくのはなかなかに難しい。


自分がどれだけ優しくしようとしていても、行動を起こす前に離れられたらそれで終わりだし、今みたいに話すら出来ない場合もある。幸い俺には委員会が同じというアドバンテージがある、星野の親が出張から帰ってきて委員会に戻ってきた時にどう動くかが重要だろう。


「まぁ確定してない未来のことを考えるより、今を考えないとな。そもそもとして今話していた未来の予想は俺たちが大学に合格してる前提の物だ、その予想を本当にするためにも勉強だ、勉強」


「それもそうだね。じゃあ土曜日に僕のバイト先に来てよ、店長には話をしておくからさ」


小鳥遊のバイト先と言えばあの綺麗なカフェか。あそこならゆっくりと勉強できそうだし、俺はその話に乗ることにした。

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