第8話 とある噂
コメントで楓と颯が分かりずらい指摘があったので颯の名前を隼人に変更しました。
※※※
私は澄風先輩のことを一旦忘れて、学校に来ていた。これ以上澄風先輩のことを考えていると、普段の生活に支障が出てしまいそうだったからだ。
委員会に行かない理由も言ってあるし、澄風先輩がこっちに来ない限りは会うことは無いだろう。
「ねぇ楓、クラスで噂になってることについてどう思う?」
今話しかけてきたのは数少ない友達の
「噂って? 私は何かをした覚えはないんだけど」
「楓が初めて男の人を家に入れたって言うことなんだけど、身に覚えあるよね? それと、その光景を見た人から聞いた話によるとその人は2年の隼人先輩だって話らしいけど」
まさか見られていたとは思わなかったが、あそこの公園は結構人が多くいるしその中に同じ学校に人がひとりいても何もおかしくはないか。ただ、ひとつ面倒なのが相手が澄風先輩だとバレていること、嫌いだということは小鳥遊先輩とその本人しか知らないはずだけど歩や他のクラスメイトに知られたら終わりだ。
「奏が遊びたいって言ってたから仕方なくね、奏が寝たあとはすぐに追い出したよ、あんな先輩」
「ふーん……でも楓が家に人を、ましてや男の子を入れるなんて初めてのことをしたからクラスの人は楓に彼氏ができたと思っているよ?」
彼氏……か、そんな関係になれていたらどれだけ楽だったことか、そうなっていたらあの時のことも謝れていて、関係も元に戻っているのだろう。ダメだ、忘れようとしても澄風先輩のことを考えてしまう。
「澄風先輩が彼氏なんて有り得ない、私は……ううん、なんでもない。とりあえず教えてくれてありがと、あとは私が何とかするから」
別に噂をどうにかするわけじゃない、そもそも1度広まった噂なんて完璧に消せないことは理解してる。そこで私がしないといけないのはその噂について聞かれても否定すること、無言は肯定という場合もあるくらいだし無視は絶対にしてはいけない。
1番気になるのがこの噂が澄風先輩の方まで届いているのか。まぁ澄風先輩なら家に行ったことは認めても彼氏なんて言わないだろう、だって私がずっと嫌いと言い続けてるんだから。
§§§
さてと、だいぶ面倒くさい噂が流れてるようだけど普通に考えてありえないんだよなぁ。俺のことが嫌いなだけ星野が俺と付き合ってるなんて有り得ないのに、家に行っただけでそんなことになるとはな。
「小鳥遊、お前はさすがにあの噂を信じてるわけないよな?」
「嫌われてる相手と付き合ってるなんて噂を流されて隼人も災難だね。まぁ楓が真っ先に否定してると思うし隼人も否定してればいずれそんな噂なんて無くなってると思うよ」
俺は別にそこまで気にしていないが星野からしたら嫌いな相手と付き合ってることにされてるんだからいい迷惑だろう。でも俺たちが噂を止めることなんて不可能に近いし、そこは時の流れに任せないといけない。
最近の子は想像力が豊かで困る、ただ星野の家に遊びに行っただけで彼氏にされるなんて。俺は違うが普通に友達だという可能性もあるだろう? なんだ、あれか噂を流した人は男と女の友情は成立しないとか思ってるタイプの人間か?
「まぁ星野が嫌がっているのなら俺が解決しに行くとするかな」
「また、すべてを背負いに行くのかい? 僕は何回も言ってるけど隼人にそんなことをする意味は無いし、責任もない。自分に不利益が積もるだけ、まぁそんなことを言い続けても隼人は聞かなかったんだけどね」
「困ってる人がいるなら自分の手が差しのべられる範囲なら助ける。その時俺にどんな不利益が振りかかろうとも俺は助けに行く、それが俺の考えだ」
綺麗事だって、偽善者だって笑われてもいい。でも俺はこの信念を曲げるつもりは無い、あの時だって助ける過程で怪我をしたが後悔はしていないし助けたあの子を責めるつもりもない。
あの時からあの子にあっていないが元気だと俺としても助けた甲斐がある。
───あれが楓ちゃんと付き合ってるっていう噂の先輩じゃない?
───こっち向いてないから分からないけど多分顔はいいよね
廊下からそんな声が聞こえてきたので小鳥遊に「行ってくるわ」と言って俺は席を立った。幸い委員会の途中で周りに他の人達はいない、まぁ図書室になんて図書委員の仕事以外で来る人なんてほとんど居ないか。
「さっきから俺たちを見てたけど何か用?」
「かっこいい……。じゃなくて、楓ちゃんの彼氏さん、ですよね?」
「はぁ、そんなのはただの噂に過ぎない、星野とはただの友達だ。星野だって噂に過ぎないって言ってただろ? そういうことだから帰った、帰った」
噂を聞き付けてここに来た1年生を対応したが、さっきの様子を見る限り結構信じちゃってる人が多そうだ。
やっぱりこのまま否定し続けて時間の流れと共に噂が消えてなくなるまで待つしかないのかもしれない。
「小鳥遊、やっぱり広がり具合的にどうにも出来ないわ。一旦星野に聞いてみることにする」
俺はスマホを取りだして星野にメッセージを送る。
『噂の件だが、星野は俺にどうして欲しい? 否定するだけでいいのか、それとも噂を消して欲しいのか』
返事は直ぐに帰ってきた。
『噂なんて消せるわけないので否定しているだけで十分です。やっぱりあの時に澄風先輩を家に入れたのが間違いでした……』
『まぁまぁ、奏ちゃんのためなんだろ? 人の噂は75日とも言うし、いずれ消えるんだからさ』
『75日もこの噂が続くと考えると、ちょっと……。どうして澄風先輩と付き合ってることにされたんでしょう……』
まぁやっぱり俺のことが嫌いなんだから噂があるのはキツイよなぁ、でも星野がこの前とは少し違う。
この前なら『ロリコン』だったり、『嫌い』だったりと直接的に俺のことが嫌いだと伝えてきていたが、今は直接的な表現がない。まぁ俺のことが嫌いなことには変わりないんだけど、マシになったと思うと俺も嬉しい。
俺が星野と連絡をとっている間に終了時間は過ぎていたらしい、扉の所で小鳥遊がこちらを見つめていた。
「悪い、すぐ行く」
鞄を担いで少し駆け足で小鳥遊の隣に移動して、そのまま小鳥遊と一緒に家へ帰った。
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