第7話 嫌いになった理由

私はあの時、とある事件に巻き込まれた。ニュースにでも結構な話題になった人質を取った強盗事件、その人質にされたのが私だった。


親や警察、周りの市民たちもいっぱい来ていたけど私が人質にされている以上は下手に近づけず、長い間睨み合っていた。その時に私は死を悟った、もうすぐこの人に殺されるんだって。


「この娘を殺されたくなかったらこちらの要求を全て飲んでもらう!」


「うるさい! 武器を捨ててこちらに投降しろ! さもないと撃つぞ!」


そんな警察と強盗犯の怒号が響き渡る中、1人だけこちらに近づいてきている高校生ぐらいの男の子がいた。私は正直、馬鹿なんじゃないかと思った。


歳をとった人が若いものを助けるために命を張ることならまだドラマとかでもよく見るし自分の残り短い人生より先の長い若者の人生を助けるというのは理解出来る。でも高校生の男の子、まだまだ人生はこれからなのに自分の命を無駄にして……そういう自分を大切に出来ない人は嫌いだ。


この時はまだこの男の子が今後再会することになる澄風先輩だということは知らなかった。


私はこの子が私を助けてくれるかもしれないというほんの小さな希望を抱きながら、人質にされているという恐怖心に駆られる。


カランッ──────


後ろから物音が聞こえて、そこには水筒が転がっていた。強盗犯も物音がした方向を凝視する、そこはさっきまであの男の子がいた場所だ。


強盗犯が首を傾げながら振り返るが、警察から目を離したからか、外に居た警察がいなくなっていた。恐らく目を離していた隙に中に入ってきたのだろうか?


「おい、姿を表さないとこの娘を今すぐにでも殺すぞ!」


ナイフの先が私の首元にあたって血が流れる、警察たちも私が殺される可能性も見込んでなかなか動けないのだろう。そんな中でその高校生の男の子だけが動いて、強盗犯の背中を蹴り飛ばした。


私は強盗犯の腕から解放されて、急いで外に逃げる。そのまま警察の人たちも高校生に続いて強盗犯に向かっていった。


だけど強盗犯も抵抗して、一番最初に向かっていった高校生の男の子がナイフで切られてしまった。


「いつっ! ナイフで切られた時ってこんな痛みなのか、ガチで痛いな……。あとは警察の人に任せようかな、それと君、大丈夫だった?」


「私、自分を大切にできないあなたのことが嫌いです」


違う、本当はそんなことを言いたいわけじゃないのに。


「一応君を助けたつもりだったんだけどなぁ、もしかして男性恐怖症とかその辺の人? それだったら俺は邪魔だね、とりあえず無事でよかったよ。あと、あの強盗犯は君を殺すつもりはほとんどなかった、人質なんて正直なんの意味もないただの時間稼ぎ。本当に殺そうとしてる奴なら目に見えたやつを全員殺してる。まぁこんなこと言ってもなんの意味もないね、じゃあ」


「まっ!」


『待って』と口にしようとした頃には既にその高校生の人は見えなくなっていて、お礼を言えないまま、『嫌い』とだけ言ってその人との会話は終わった。どうして嫌いなんて言ったのだろう、確かに私は自分を大切にしない人は嫌い、でもあの人は自分の命を無駄にして私を助けようとしてくれたのに。


命の恩人に『嫌い』なんて言うなんて、私最低だ……。


「君、首元から血が出てるから病院に行こう。怖かったよね、あの高校生の協力もあったからもう大丈夫だよ」


「はい……」



§§§



また出会ったらありがとう、そしてごめんなさいというつもりであの後過ごしていた。そしてまた出会うのはすぐのことで、私が入学した高校にその高校生はいた。


さらに幸運なことに委員会でその高校生と一緒になれた、ここが全てのチャンスだったのに私は──────。


「あなたのことは、あの時からずっとずっと……嫌いでした」


「なんかこの子、隼人のことを知ってるみたいだよ? それで嫌われてるらしいけど、何かした?」


「知らないって、俺はこの子に会ったことすらないし。というか小鳥遊なら俺に女の子の知り合いがいないことを知ってるだろ」


再会して最初に貴方が『嫌い』と言ってしまって、それからはお礼も、謝ることも出来ずに澄風先輩が嫌いと自分に嘘をつき続けるしかなかった。その結果、澄風先輩が嫌いな自分と澄風先輩に謝りたい自分の2つが生まれて、どっちが本物の自分なのかが分からなくなった。


澄風先輩と出会っても目を逸らして、隣にいた小鳥遊先輩とだけいつも話して、私は澄風先輩を除け者にした。私が1番しては行けないことなのに、あの時に『嫌い』と言ってしまったからもう後に引けなくなってしまった。


「俺は君に何かした覚えはないし、君に見覚えは無い。でも君が俺が嫌いで、それが何かされたという理由なら俺は謝るよ」


謝らないといけないのは私の方なのに……。


それから数ヶ月過ぎても私は、ずっと自分に嘘をついたままでいた。今更弁解をしても遅いのかなとも思ってきた、でも言わないといけない、そう頭ではわかっていても私は……未だに行動に移せないままだった。


「私はいつ、自分の気持ちに素直になれるんでしょう……。すでに手遅れだということはわかっています。恐らく澄風先輩は私のことが嫌いになっているんでしょうね……」


きっとそうだ、ずっと嫌いと言ってきたんだ向こうが嫌いにならないわけが無い。昨日、家に来てくれたのだって奏が遊びたいと言ったからだ。


その時に言うチャンスは沢山あった、なのに澄風先輩に早く帰ってと言って自らチャンスを壊してしまった。


「私は、これからどうすればいいんでしょう……」

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