発端

 森の中を僕は歩いている。

「この後はどうするつもりなの?」

「湖に行こう。今の時期は花が水面に映って綺麗なはずだよ。」

 それを聞いたアイモは少し微笑んだ。彼女は僕と話す時、時折そういう顔をする。どんな気持ちなのかは分からない、だが嫌いでは無かった。

 半年前、戦力が不足した軍部は徴兵の年齢の引き下げを決定した、玉砕上等の中等部隊だ。僕達五人はそこで出会った。訓練や実戦も互いに励まし合った。

 しかし、ユウもリュウヤもソメトも既にこの世にいない。僕達が生き残っているのは運が良かっただけだ。

 少し開けた場所に出た。大きく息を吸い込むと気持ちが良い、それが最後だった。

 銃声が響き、僕の体は崩れ落ちる。一瞬で己の生命の終わりだけを理解した。

 こんなことになるなら彼女を巻き込むべきでは無かったのだろうか。どうにか生き延びてほしい――

 最後に心配を少しだけすると、僕の意識は胸から流れ出る血と共に溢れ出して二度と戻らなかった。

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瞳を閉じて願え それは叶わない 淵野アタリ @hutinoatari

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