ドアのない部屋で

ドアのない部屋に男が立っていた。男は部屋の中央に置かれた蛇の置物を見つめていた。置物の目が光った気がした。


男は置物に話しかけた。「お前はどうやってこの部屋に入ったのか。」


置物は考え込んでいるのか、身動き一つしなかった。男は沈黙の意味を理解した。


「ああ、君もか。」


男はもう数分返答を待ったが、置物は答えなかった。


男はこのドアのない部屋に自分がどうやって入ったのか覚えていなかった。出る方法もわからない。


そのまま7年ほど過ぎたある日、男は思った。「ここからどうやって出ればよいのか。」


蛇の置物はすでに部屋を去っていた。置物にも生活がある。7年も男に付き合う義理はない。


男は急に不安になった。ここから一生出られないのではないか。ここで何年も過ごすことになるのではないか。男はあらゆるネガティブな想像をした。


そのうち7年が過ぎた。その間、男は四六時中ネガティブな想像をして過ごした。そしてネガティブな想像をし尽くすと、それ以後、ネガティブな想像は浮かばなくなった。


その日から男は安心感に包まれた過ごすことができた。(終)

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不条理の季節 @absurdist

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