第7話
◇7◇
ということで、仕事終わりや休日に時間を見つけては、フクは倉庫に籠る。
そんなフクに職人の一人が声をかける。
「社長、何してるんですか?」
「今度はシステム作ろうと思ってね、ほら、持ち出すのも戻すのもシステムになってたら楽じゃない?だから、塗料をリスト化してるのよ」
「ああ、なんか楽そうですね」
とその職人は言い、そして目をそらす。
その作業を振られてはたまらない、という気持ちが伝わってくる。
別の日、事務所で女性事務員がフクに声をかける。
「社長、なんか倉庫に籠ってるって聞きましたよ。何をしているんですか?」
「システムを作ろうと思って、塗料をリスト化してるのよ。倉庫にどれだけの塗料があって、総額いくら、というのが事務所からも即分かればいろいろと楽じゃない?」
「ああ、なんか楽そうですね」
とその事務員は言い、そして目をそらす。
その作業を振られてはたまらない、という気持ちが伝わってくる。
かくして、フクは一人で作業を続ける。猛暑の夏である。汗を滝のように流しながら、空気がこもり外気温よりもさらに高温となった倉庫の中、一人で作業をしているとさすがに心が折れそうになる。家に帰るとフクは妻に声をかける。
「なぁ、頼みがある。以前朝ドラやってたろ?インスタントラーメン作るやつ。あれのDVDを借りてきてほしい。インスタントラーメンを作るのに試行錯誤する週から、完成して喜ぶところまで。あれを見れば俺の心が保てる気がする」
このDVDは良かった。試行錯誤する主人公の姿が自分に重なり、よし、自分もやってやろう!という気分になる。
そして、DVDの効果が切れる頃、季節は冬になっていた。かじかむ手をさすりながら、底冷えする倉庫の中、一人で作業をしているとさすがに心が折れそうになる。
一人孤独な作業がひと段落したところで、帰宅しようと倉庫の外に出ると満天の星である。田舎の空は星がよく見える。
星を見つめていると、フクの心の中に有名な曲が聞こえてきた。家に帰るとフクは妻に声をかける。
「なぁ、頼みがある。プロジェクトXの曲あるだろ?中島みゆきのやつ。あれのCDを買ってきてほしい。作業しながら聞くから。今度はあれがないと俺の心が保てない」
このCDも良かった。昔プロジェクトX放送時に見た数々の挑戦と苦労それを乗り越えて達成した夢がフクの胸に去来し、背中を押す。
こうして、いくつかの季節を超えたころ、塗料のリスト化は終了した。2021年になっていた。
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