第6話

◇6◇

 しかし、予想は的中する。

 それは、システム開発が始まってすぐのことであった。

 あの後、中小企業診断士はこう説明した。


「そもそも、他の2社と社長の会社はスタート地点が異なるでしょう?社長の会社は、既に5Sを終え、システムを入れる体制が整っている。つまり、システムが入れば何がどこまで楽になるか想像がついているということです。

 他の2社にはそれがない。具体的に想像できないでしょうから、モチベーションの維持も大変です。更にシステムの話をしながら5Sを始めなければならないわけで、本格的にやるなら社長が経験した社内からの突き上げもあるんですよ。その上、コスト削減前にシステムに投資するわけで、その余裕がどこまであるかもわからない。

 おそらく小さな規模の会社のはずで、事務に奥さんが関わってるのではないですか?投資効果がわからないのにお金がかかることは奥さんが嫌がるはずです」


奥さんが怖いは、確かに思い当たる節がある。フクも奥さんが少し怖い。自分の少しは他の人の“とても”に値するかもしれないが、まぁ怖い。横でまっちゃんもコクコクと頷いている。彼も恐妻家で有名だ。


「そういうことで、最終的に社長とシステム会社とプログラマーの3者間でシステム開発をすることになると思います。システムも、在庫共有システムではなく、在庫管理システムとなり、在庫共有機能を残すならそれはシステムの機能の一部となるでしょうね」


「ははぁ、しかし在庫管理システムとなると、いろんな業種に売れそうでより儲かりそうですね」

と明るい声言ったのはまっちゃんである。しかし、中小企業診断士はその意見を否定する。


「それはやめた方がいいな。在庫管理システムと言っちゃうと世の中にたくさんあるよ。それよりも、現場の声を活かして、まさに小規模の塗装業者が作った塗装業者のための在庫管理システム、とした方がいいよ。システムの売りも対象の業種も会社規模も明確になるし」


 一人になったフクはまっちゃんに愚痴を聞いてもらいに行く。大いに話して盛り上がり、フクの気が晴れたと見て取ると、まっちゃんはフクに言う。


「じゃあ、副会長、頑張りましょう。きっと何とかなります。私も愚痴くらい聞きますから!」


 幾分気が晴れたフクはその言葉を背に会社に戻る。


 フクがやらなければならない作業は、使用するすべての塗料のリスト化である。フクの会社が大きければ、塗料メーカーもリストをデータで出してくれたかもしれないが、残念ながら中堅企業に届かない中小企業ですらない小規模企業であるフクの会社だとそうもいかない。

 せめて小規模企業を脱していれば、従業員から誰か担当を決めることもできたかもしれないが、フクの会社にはそんな余裕もない。社長自らリスト化するしかなかったのだ。

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