第4話
◇4◇
倉庫が綺麗になり上機嫌なフクである。
消防署の立入調査もなんの小細工もなしに受け入れ、その上できちんと対応できていると激賞され更に機嫌が良くなったフクである。
機嫌が良くなったことで、同業者の飲み会で話す。それはもう饒舌に話す。如何にうちの倉庫が綺麗か、そして経費削減になったか、棚卸が楽になったか、そのためにどれだけの苦労をしたのかを滔々と話す。
話すだけ話して、思いついたことも話す。
「あれさ、結局どこの倉庫にも使わない塗料があるってことよね。でも、他所では使わない塗料でも、うちでは使うかもしれんやろ?それを融通しあえたら良いよね」
話を聞いていた数人が、ほう面白そうだ、という顔をする。
「お互いの在庫が分かるシステムとかあればさ、発注かける前にシステム見て、お、ここに余ってる、これ安くで売ってよ、ってできれば良くない?」
おぉーーと話は盛り上がる。
「いいね、やろうやろう、お互いに無駄もなくなるし良いよそれ」
と一人が言い出す。
更に別の一人が言う。
「俺の知り合いにシステム会社いるよ。できるかどうか聞いてくるわ」
こうして小規模塗装業者間の在庫共有システムの構想が動き出したのである。2019年の年末に差し掛かろうという頃であった。
さて、話し相手はまっちゃんである。
よく話すが経営指導員としては真面目なまっちゃんは、考えを纏めるときの相手に丁度いい。だが、この日のまっちゃんはいつもと少し異なる反応を見せた。
「副会長、それ経営革新計画にしませんか?」
と、聞き慣れない言葉をフクに言う。なんのことやらわからないフクは、それは何?と聞き返す。
「えー、経営革新計画というのはですね、新規性のある革新的な取り組みを計画として申請して、お国のお墨付きを貰おうというものです。融資のメニューが増えるとか、これから補助金とかを提出するときの原案になるとかのメリットがあるんですが、これ、経営指導員毎にノルマがあるんですよ。私も今年度後2つ支援しないといけなくてですね、で、ちょっと副会長に協力いただけないかなーと思いまして。
実は大分以前に一度、副会長も申請しているんですよ、ほら、雨天時の売上確保のために生前整理と遺品整理のサービスを開始するという計画で。この提出前のチェックの仕事をしているのが、例の中小企業診断士で、その時にも話をしているでしょう?今回も書類チェックをしながらこの計画の相談ができますよ。ね、ですから、やりましょう経営革新、いいですよね?では、副会長の空いてる日をいくつか挙げていただいて…」
こうして、まっちゃんのノルマのために、あの中小企業診断士と会うことになったのである。
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