プリズム

朝凪空也

プリズム

 まずはじめにわたしたちのプリズムについておはなしします/

 わたしたちにとってプリズムはとても大切なものです/

 プリズムを光にかざすと白い光は三角柱のなかでさまざまな色に分かたれてその分かたれた帯はスペクトルと呼ぶとわたしは知っていますがみんなはただ虹と呼んでいます/

 わたしたちはみんなひとりにつきひとつのプリズムを持ち人工太陽にそれをかざしてはやっと目に見える光の帯に感謝や願いや祈りをささげます/

 人工太陽の光はそのまま見ると目がつぶれてしまうので必ずプリズムを通して見なければならないというのがわたしたちの決まりです/

 目がつぶれるのは嫌なのでみんな守ります/

 今日の朝時間にも同じ家に暮らすみんなで外の光の差し込む窓辺に集まって祈りました/

 昼時間はそれぞれのいる場所で祈り夜時間になると寝台の上で朝時間と昼時間の光に感謝してやっぱりプリズムに祈るのです/

 人工太陽の光が見えなくても感謝することは大切です/

 プリズムもスペクトルもとてもきれいなのでわたしはお祈りの時間が好きです/

 わたしたちはみんなちがう姿形をしているけれどもずっといっしょにいるとスペクトルに分かれる前の人工太陽の光のようにひとまとめになってしまってそれは良くないことなのでわたしたちは五千時間ごとに居住区に住む人の半分が別の居住区へと移動しなければなりません/

 その半分が選ばれるのは無作為なので次はわたしなのかもしれないし違うかもしれません/

 選んでいるのは機械だとみんな知っています/

 なぜなら目覚めたときにみんなそれを習うからです/

 だけど人はそれをプリズムの導きと呼んで感謝したり嘆いたりしています/

 移動してきた人たちが街にまざるのはまるで豆のスープにミルクをたらしてもらったときにそっくりだとおもいませんか/

 豆のスープやミルクは工場区にある食品工場で作られると習いますがわたしはまだ豆のスープを作る人に会ったことはありません/

 大きい人たちはたくさんの試験に合格すると工場見学をすることができますが工場のことは誰にもはなさない決まりです/

 大きい人たちにはわたしたちよりたくさんの決まりがあります/

 前の五千時間にわたしはとても仲良くなった人がいましたがその人は選ばれてわたしは選ばれなかったからわたしはまだここにいてここにいるみんなは同じ人工太陽の下にいるので仲間と呼びます/

 同じ人工太陽の下にいるあいだわたしたちはみんな仲間です/

 仲間にはやさしくしなければいけません/

 わたしは二千時間ほど前に雨を降らせる人になりたいと言ったらなれるわけがないと言って笑った人がいてそれを言われたときわたしの頭はとても熱くなって今にも大声を出して悪い言葉を使いたくなりましたが雨を降らせる人になるために我慢しました/

 仲間にやさしくできない人は悪い人なのでそういう人は雨を降らせる人や風を吹かせる人にはなれないのです/

 もうずっと前にずいぶんひどい喧嘩をした人たちがいましたがその人たちはすぐにいなくなりました/

 そんな悪いことをする人はめったにいません/

 ここは良いところです/

 今日わたしは川へ行きました/

 わたしがよく行く川です/

 わたしの好きな川です/

 どんな川かというとその川は純水が流れている川なので水しかありません/

 居住区の中には草が生えていて魚がいる川が見られるところもあります/

 その川はとても小さいです/

 純水の川はとても大きいです/

 わたしは水がごうごう流れるのをずっと眺めていました/

 流れる水は光を反射して光ります/

 この川は街の周りをぐるりと流れてそしてきらきらきらきら光って眩しくてそれはプリズムのかわりをするのです/

 そうして街は守られています/

 これがわたしたちの暮らしです/

 こんな風に暮らしていました/

 これらは思い出です/

 もう終わりました/

 これはわたしのプリズムなのでわたしのデータが全て入っているそうです/

 もういらないので送ります/

 わたしはプリズムが好きなのでいらなくても持っていたいけれど大きい人が送るようにと言うので送ります/

 わたしの声は良くきこえましたか/

 あなたはわたしの言葉がわかりますか/

 あなたはどんな暮らしをしていますか/

 あなたのところの光はプリズムにかざすとどんな色が見えますか/

 教えてくれると嬉しいです/

 さようなら/


***


 ぼくがそれを拾ったのはぼくのうつわの中だった。

 水くみ場でぼくのうつわに水をためているときにぽちゃんと中に入ったのだ。

 それは触ったことのない形をしていた。

 ひんやり冷たくてすべすべつるつるで、だけどすごくとがっている。

 匂いはしなかった。

 ぼくはそれがクリスタルかもしれないとおもってどきどきした。

 クリスタルはめずらしいから集めている人がいて、そういう人は食べ物やほかのめずらしいものとクリスタルを引き換えてくれることがある。

 ぼくはぼくが知っている中で一番の物知りのおばあさまのところへそれを持っていった。

 お水もちゃんと持っていったよ。

 おばあさまにそれを渡すとおばあさまはこれは天上から来たものに違いないと言った。

 天上というのは真っ白でヒカリというものがあってこことは何もかもが正反対の世界なのだと言い伝えられている。

 遠い昔に天上を目指した人々の物語はここでは誰もが話すことができる。

 おばあさまはその天上から来たものを大切にしなさいと言った。

 ぼくはクリスタルじゃなくてちょっぴりがっかりしたけど本当に天上から来たものならクリスタルよりももっともっと宝物だからやっぱりうれしくなった。

 眠る前にぼくはそれをにぎって形を覚えたり頬に当ててみたりもう一度かいでみたりした。

 そうしてうとうとしてきたころ突然それから音がした!

 ぼくはびっくりしてとびあがった。

 音は小さかったけどぼくのねどこのあなぐらも小さいから音がぼわんぼわんと広がった。

 ぼくはまわりのみんなが気づきませんようにとおもいながらそれの上にうつわをかぶせておなかのしたにうずめてなんとか音がもれないようにした。

 そうして落ち着いてから音にじっと耳をこらすとそれは小さい人がなにか話しているみたいに聞こえた。

 何を言っているのかはわからなかったけど確かに人の話し声みたいだ。

 この天上の宝物には小さい人が入っているのかもしれない!

 ぼくはあわててそれをおなかのしたのうつわから取り出して誰かいるのってそっときいてみたけれど返事はなかった。

 耳にひっつけたけどもう何も聞こえなかった。

 ぼくはまた横になって、それをなくさないようにぎゅっとにぎったらちょっと痛かったからふんわりにぎり直してまた眠ることにした。 

 起きたらまたおばあさまに聞きにいってみよう。

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プリズム 朝凪空也 @asanagikuya

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