お山の杉の子

山口遊子

第1話 お山の杉の子


 村に残る言い伝えをお話ししたいと思います。私はもう長くはありませんので、あなたさまが、次の世代にこの言い伝えを残して頂ければ幸いでございます。



 昔々、


 そのころは村のはずれを出ますと、しいの林が広がっておりました。しいの林ではたくさんの山菜やきのこが取れ、しいの実を食べる鳥や動物たちもたくさんいて、そういった山の幸を村の者たちは頂いていました。


 そのしいの林のそばには、小いさなお山がありまして、


 お山のふもとまでしいの林でおおわれていましたが、そのお山には一本の木どころか草さえも生えておらず、全くのはげ山。


 これを不憫ふびんと思ったお日さまが、ある日こうおっしゃいました。


「これこれ、杉の子。起きなさい」と。 


 お日さまのお声に答え、一斉に杉の木がお山に生えてきました。それはもうにょきにょきと。


 にょきにょき、にょきにょき。


 お山だけにとどまらず、杉の木はふもとまでどんどん増えていき、気付けばそこら中が杉林。今ではしいの木を見ることもありません。


 そのころからでしょうか。春先になると村で盛んにくしゃみをするもの、目をかゆがるもの、鼻をすするもの、のどを悪くするもの、そういった人たちが数多く出るようになったそうでございます。


 それでも、梅雨つゆのころになると、自然と治ってしまうので、それほど困る人もいなかったのでしょう。


 ただ、村の周りに椎の木がなくなり杉の林になってからは、山の幸を頂くことが大変難儀たいへんなんぎなことになったそうでございます。


 私の名前ですか? 私は堀口明日香ほりぐちあすかと申します。



 お日さまと言えども、むやみに感情だけで生態系せいたいけいに手を加えてはいけないというお話でした。世の中、微妙びみょうなバランスで成り立っているんですね。



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お山の杉の子 山口遊子 @wahaha7

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