第4話 あ
「バター溶けきったぞ!」
「耳元で叫ばないで!ここからはもうまじで一瞬ですよ」
シュワァッと音を立てて卵液がフライパンに滑り落ちる。ボウルを置く前に一瞬で縁が黄色く焼ける。すぐ後ろで紫藤が焦っているのが可愛らしい。
可愛らしい?
すぐに脳内蓮斗が首を振る。確かに美人ではあるし初対面のくせに俺の扱い方をよくわかってる。
けど横暴だし人使いは荒いし多分世間知らずでお嬢様な箱入り娘だ!俺の好みではない!!
断じて!!!
「フライパンは前後に揺らしながら、菜箸でぐるぐるかき混ぜていきます」
落ち着け蓮斗。今は目の前のたまごに集中。
「で、ここからヘラに持ち替えます」
「トントントンってしないのか?」
「オムライスのプロじゃないんだから無理ですよそんなの」
ヘラで卵を二つ折りにしフライパンの奥に追いやる。半熟ぷるぷるのオムレツは抵抗を続けるが、努力虚しく蓮斗のヘラの下に屈した。
「1番奥にヘラを入れて、せーのっ」
「おぉー!」
焦げることも破れることもなく、無事、綺麗なオムレツの完成!
「のっけまーす」「はーい」
洋風な平皿にはレモン形に整えられたケチャップライス。その上にオムレツを乗せて…
「はいっ!完成ですよ」
「おぉー!材料調達からずいぶん長かったな」
「誰のせいでしょうね」
「ハハハハハ、いただきます!」
美景が包丁と完成したオムライスを持ってカウンターに逃げていく。逃げなくても、二人分あるんだから取って食ったりしないのに。自分の分の卵を割り混ぜ、雑に液体をぶち込みフライパンにバターをひきなおす。
「いいですか、撫でるように上だけ切るんですよ。紫藤さんの包丁切れ味悪いからちょっと頑張らないと綺麗にできませんからね」
「何回テレビで見たと思っているんだ、それに私は器量好しと地元では有名だったんだぞ?これくらいなんとmアツッッッッッッッ」
「え今オムレツ触りました?!バカかよ、出来立てですよ?!」
「これどこ押さえればいいんだ?」
「お皿持つんですよ!アッツ、バターが跳ねた!」
「なるほどな!よし、見てろ?見てるんだぞ??」
「心配してくれないんですね!!」
蓮斗を完全無視して、暴走する包丁がオムライスに添えられる。見ていられない。オムライスへの慈愛を込めて蓮斗は菜箸からヘラに持ち替える。
スチャンッ
「あ」
聞き間違いだろうか?刃物が皿に当たる音と、"やらかした時"のか細い声。急いでオムレツをライスに乗せカウンターに回ると、そこには、無惨にも平皿ごと真っ二つに割られたオムライスが居た。
その記憶、お預かりします。 1 花崎つつじ @Hanasaki-Tsutsuji
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