子供と大人
■title:解放軍支配下の<繊一号>にて
■from:肉嫌いのチェーン
「あのな? オレだって何もしなかったわけじゃない」
ちゃんと上に掛け合ったさ。けど、色よい返事は貰えなかった。
「上も……まだ検討しているんだ」
「検討する事、ありますか?」
「グローニャ達は
「あの子達と星屑隊が行動を共にするのは、自然な流れでしょう?」
「アイツらの扱いは、ちょっと……難しいんだよ! 他の巫術師やバフォメットとの連携もあるから、オレの一存でどうこうなる話じゃない」
上が検討中なんだ――と誤魔化す。
実際は「ダメに決まっているだろう」と言われた。
巫術師部隊はドライバ少将直轄の部隊だ。ヤドリギの件も合わせて「巫術師の有用性」を伝えると、少将は巫術師達に注目し始めた。
ネウロン旅団を手玉に取ってみせたバフォメットという「前例」があるから、「上手くやればバフォメット並みの戦力を量産できる」と考えているようだ。
さすがにそれはバフォメットが「無理だろう」と言っていたが、それでも巫術師は有用。方舟や機兵を主戦力にしている交国にとって、天敵と言っていい存在だ。
ヤドリギさえあれば、巫術師は強力な戦力になる。
だからドライバ少将は巫術師を一箇所に集め、説得を行っていた。ネウロン人と交国のオークにとって、交国は共通の敵だと説得した。
「オレはドライバ少将に目をかけてもらっているとはいえ……解放軍の幹部じゃないんだ。一言で解放軍を動かす力なんてない」
「けど、アンタは約束したでしょうが! オレらが解放軍に寝返れば、あの少将気取りの男からガキ共を引き離してくれるって……!」
「副長は、約束を破ったんだ!」
「違う! オレだって、ちゃんと……上に進言した!」
星屑隊と第8のガキ共は、一緒にいた方が効率的。
そう助言したが、ドライバ少将は巫術師の集中運用にこだわっている様子だった。……ガキ共の決意が揺らぐのも恐れているんだろう。
オレは、「あのガキ共ぐらいなら、引き抜かせてくれるかも」と思ったんだ。けど、少将は……手足まで切り落としたフェルグスを気に入ってるみたいで、自分の部下として使おうとしている。
少将の判断に、オレ如きが干渉できるかよ……。
「……やっぱ、ブロセリアンド解放軍は信用ならねえ」
「ガキ共どころか、俺達も騙しやがって……!」
オレについてきた隊員達が、誰も彼も不満げな顔をしている。
オレを睨んでくる。オレを責めてくる。……オレに守られているくせに。
「あのな、オレはお前らのこと――」
「交国に勝つためなら手段を選ばねえ。解放軍がそんな考えになる事情もわかるよ? オレらだってオークですからね! けど、だからといって……ネウロンのガキ共まで巻き込むのは反則でしょうよ……!!」
「副長、アンタ、どこまで堕ちちまったんだよ」
「違う。オレは――」
「ロッカとグローニャちゃんの手足も、切り落とすつもりか!? フェルグスを言いくるめたみたいに、あの2人も……!!」
「アンタら、あまりにも外道過ぎるぞ!」
「手術を受けたのはフェルグス自身の意志だ! アイツが言いだした話だ!」
アイツは直ぐに戦いたがった。
ドライバ少将は、それに応えてあげたんだ。
アイツのために改造手術用の医者も手配して、機材も用意して――。
フェルグスが、あそこまでやるのはさすがに……オレもビビったけど、アイツ自身の意志を尊重して何が悪い。
フェルグスが手足を切り落としたのも、解放軍に参加したのも……アイツらの意志だ! 自分で志願して参加したんだ! それを受け入れて……何が悪い。
「巫術師全員、機械に改造するつもりなんですか!?」
「全ての巫術師を機械化する予定なんて、さすがにねえよ!」
「アンタが末端の兵士だから、知らされてねえだけだろ?」
「なッ……!」
「あの
「酷いのは交国だ! 交国は、復讐されて当然の存在なんだよ!」
お前らだって被害者だ。
オレと同じ、交国の被害者なんだ。
いい加減、それを理解しろよ。復讐を優先しろよ。
いつまで……他人のガキ共に、心をとらわれているんだよ。
「ああ、わかった。お前ら、戦うのが怖いんだな!?」
「ハァ……?」
「ガキ共が勇気を出して決断したのに、お前らはビビってんだ。自分達は復讐のために立ち上がれないから、ガキ共みたいになれないから――」
「ちげーよ! アンタらが、いくら何でも外道過ぎだからキレてんだよ!!」
「ガキは守るものって、教わってこなかったのかよ!?」
「それは……! こっ……交国の、洗脳教育だろっ……!」
「交国じゃなくても、まともなとこなら同じこと言うだろうが……!」
「それに……あのガキ共は、オレらの命の恩人でもあるんですよ?」
「副長だって星屑勲章、もらったでしょ!? 嬉しかったでしょ!?」
隊員達が迫ってくる。
オレを空き地の隅っこに――壁際まで追いやってきた。
「繊十三号の戦闘を切り抜けられたのは、ガキ共のおかげだ。繊三号でも散々アイツらの力に頼ったでしょうが……!」
「それは……」
「副長は、命の恩人は見捨てろって教わったんですか? 解放軍に」
「オレは……!!」
そんなことしない。
命の恩人を――隊長を、オレが見捨てるわけがない!
オレは、大事な人を誰1人見捨てない。
…………。
見捨てたく、なかったんだ。
でも、状況が……世界が、それを許してくれなかっただけで――。
「とにかく……! お前らはオレに従え! お前らはもう解放軍の兵士なんだ!」
ガキ共は、自分達で「解放軍入り」を選んだ。
自分達で「復讐」を選んだ。
お前らも、いい加減……腹をくくれよ。
「ガキ共もお前らも、同じ解放軍の兵士になったんだ。同じ軍の兵士として戦い続けていれば……そう遠くないうちに、同じ戦場で戦えるよ!」
「だから……! オレ達はアイツらを戦わせたくねえんですよ!」
「ガキを守ろうとして何が悪いんですか!?」
「ラートみたいなことを言うなよ……! テメエらもガキかよ!」
「ガキで結構! ラートを見習って、ガキ共守るためにガキらしく戦いますよ!」
レンズが鼻息荒く宣言した。
他の隊員らも同じ意見のようだ。
オレと同じ軍学校を出た後輩のバレットですら……同じ意見らしい。
「…………」
バレットが、責めるような目つきでオレを見てくる。
お前……。オレは、お前の命の恩人だぞ……!?
オレが拾い上げてやらなきゃ、お前……交国本土に送り返されて、殺処分されていたんだぞ? 戦えなくなったお前を、オレが拾ってやったのに……。
オレだって、お前らのこと……助けてやってたのに……!
「羊飼いや解放軍が言ってることを信じるなら、ガキ共は無実だ! 特別行動兵として戦う理由もない! じゃあ、もう戦わせなくていいじゃないですか!」
「奴らにも、復讐の義務がある!」
「そりゃあアンタらの都合だろうが! それを押しつけてるだけだろ!?」
「ガキ共が自分で望んでんだよ!! 悪いのは交国なんだよッ!!」
「そう吹き込んで、奴らを駆り立てたのは解放軍だろうが……!!」
レンズが手を伸ばし、オレの首を掴んで壁に押しつけてきた。
その手を殴って払いのけ、「いい加減、目を覚ませ!」と言ってやる。
オレ達は、交国の用意した
夢の中じゃなくて、現実で戦うべきなんだ。
「いつまでも、ガキの理屈をこねてんじゃねえよ。悪いのは交国なんだ!」
「アンタだって、汚え大人の理屈こねてんじゃねえか……! 悪いのは交国の一点張りで、自分達の都合をガキ共に押しつけてんじゃねえか……!」
「副長だって、オレ達にウソをついてきた! ガキ共の件でウソをついた!」
「アンタらは交国と同じだな! 交国と同じ……外道のウソつきだっ!」
「ッ……!!」
拳銃を抜き放ち、発砲する。
空に向けて威嚇射撃すると、さすがにバカ共も身の程をわきまえはじめた。
表情を強ばらせ、オレから距離を取った。
「オレの、言うことを聞け」
「……結局、そういうのに頼るのか。交国政府と気が合いそうっスね」
「黙れ。……オレは、お前らとの約束を破ってない! まだ、破ってない」
約束はまだ履行中なんだ。
上には一度断られたが……ちゃんと、説得してやるさ。
けど、このままじゃ説得できない。
「お前らはこのまま解放軍の兵士になってもらう。後戻りは許さん」
「約束を守らねえアンタに従う義理ねえだろ。オレらは整備長のところへ――」
「そうか、その場合、お前らが約束を破った扱いだからな」
荷物を手に宿泊所に戻ろうとしたバカ共に言葉を投げる。
バカ共が眉間にシワを寄せたまま、振り返ってきた。
「ガキ共の引き抜きは、お前らの解放軍加入ありきの話だ」
「……けど、解放軍に入っても約束守ってくれねえんじゃあ――」
「今から守るんだよ! お前らが加入したっていう交渉材料で、ドライバ少将にかけあってやる! ガキじゃねえんだから……もう少し……ガマンしろっ!」
何とかバカ共を説得する。
ブツクサと「詭弁じゃねえか」などと言うバカもいたが、何とか従わせる。
全員、不満げなままだが……「ガキ共の引き抜きを継続する」という約束で残ってくれる事になった。……これでコイツらの事も守れる。
元王女って立場がある整備長と違って、コイツらはただの交国軍人だ。
勧誘を頑なに断って、解放軍と交国軍の戦いが本格的に始まった時……繊一号で暴れ出されるとマズい。ドライバ少将達なら「捕虜に対する見せしめ」としてコイツらを殺すぐらい……やるかもしれない。
「これは……お前らを守るためにも必要な事なんだ」
そう説得する。
全員、冷ややかな目つきのままだ。
クソがっ……。なんでオレが、同胞にこんな目で見られなきゃいけないんだよ。
納得いかない。
だが……オレが大人の対応をしてやるしかない。
コイツらは、所詮はガキだ。図体だけデカいガキだ。
ガキの頃から交国政府に利用されてきたバカの集まりなんだ。オレの正論を受け止められなくて、だだをこねるのは……ガキだから仕方ねえ。
「……ガキ共の件は、必ず何とかする。まだ上と交渉中なんだ。交渉材料である『星屑隊の解放軍加入』が行われなきゃ、交渉のテーブルにすらつけない」
「…………」
「だから、大人しくしておけ。オレの指示を聞けよ……!」
「アンタはもう、交国軍人じゃない。オレらの上官じゃねえ」
レンズが冷たい声色で、突き放す言葉を投げてきた。
「アンタに従う義理はない」
「レンズ……!!」
「けど、わかったよ。もう少し……ガマンする」
ふてくされた顔のレンズが、そう言って戻ってきた。
他の奴らも、似たような顔つきと目つきで戻ってきた。
クソガキ共が。……ガキだから、
けど、お前らもいつか大人になると信じている。
いつか、「副長が正しかった」と言ってくれると……信じているからな。
「皆で一緒に、交国に復讐しよう」
「「「「…………」」」」
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