過去:大海賊



■title:ミケリア・南シンドリア海にて

■from:マレニア軍・大佐


 敵の攻撃により、方舟が大きく揺れる。


 方舟が墜落しつつある。


 敵の――神器使いの攻撃によって!


「被害状況は!?」


「左舷の流体装甲が消し飛びました! 艦内部にもダメージが……!」


「第二派、来ます!!」


 新手の方舟の上空に、巨大な白鯨・・が姿を現していた。


 全長だけでも1キロ以上の巨体が、方舟のように悠々と飛んでいる。


 大気も方舟も揺らすほどの大咆哮を上げつつ、悠々と飛んでいる。


 その巨体の周囲から「小魚」の群れが飛んできた。


 小魚といっても、あの白鯨に比べれば小さいだけ。


 5メートルほどの無数の誘導弾・・・が白鯨の周囲に瞬時に展開し、雨のようにこちらに降り注いでくる。それも、四方八方から――。


 あの攻撃方法、間違いない。


伯鯨はくげいロロ……!」


 多次元世界一の海賊組織。


 <ロレンス>の首領が――大海賊が、私達を襲ってきた。




■title:ミケリア・南シンドリア海にて

■from:<ロレンス>首領・伯鯨ロロ


「ハッハァーッ!! 逃げろ逃げろマレニアのゴミクズ共ッ!! オレの愛で皆殺しにしてやらぁ!! 楽に死ねるよう祈っとけッ!!」


 敵旗艦に爆撃を行うと、第二陣で大爆発を起こし、墜ちていった。


 つまんねえ!! 雑魚が!!


「よっしゃ! 次ィ!! ムツキに負けてらんねえ!!」


『首領! ほどほどにしてくださいね!? タンブルウィードの救援に来たとはいえ、タダ働きは御免です!!』


『マレニアの方舟や機兵、混沌機関は出来るだけ奪う約束でしょう? もうちょっと加減して破壊してください! マレニア兵は鏖殺しつつ!』


「ちゅ、注文が難しいんだよ! オレの神器は殲滅専門だぞ!?」


 子分共が難しい事を言うので抗議すると、10倍の抗議が返ってきた。


 クソッ、敵の攻撃より味方の口撃がキツいぜ。


『鹵獲すればいいんですよね!? おやっさん! 俺に任せて!』


 そう言ったのはタンブルウィード残党の船団を守りにいった神器使い。


 オレの弟子のムツキだった。


 ムツキは神器を使って海水に干渉し、残党共を守っていたが――さらに水を動かし、巨大な水龍を作り上げた。


 それが敵の方舟に食らいついていく。


 敵の反撃が来たが、海水で出来た水龍だ。砲撃なんか効かねえ。多少、水が吹き飛ばされたところで海水で補修できる。


 ムツキの水龍は敵船に巻き付き、内部へと侵入していった。


 そして、敵の船員だけを海水で押し流し、方舟や内臓されている兵器群をほぼ無傷で確保していった。あとで塩水対策しなきゃだが、見事な鹵獲だ!


「おおっ! いいぞムツキ! さすがはオレ様の弟子だ!」


『…………! もっと頑張りますっ! おやっさん、見てて!!』


「おう! どぉれ! オレも手を貸してやるかぁ!」


首領オヤジィ!! ムツキの邪魔しないでくださいよ!!』


『アイツ1人だけで目的達成できますし、大儲けできるんですからね!?』


「えぇっ……!? じゃあオレ、何やりゃいいんだよ。暇だろ!?」


『えと、えっと……! じゃあ、おやっさん! 飛行機撃ち落としてください! さすがにあれは捕まえるの大変ですから……!』


「飛行機ねぇ。了解了解! 鏖殺上等ッ!!」


 神器を用い、誘導弾群ソードフィッシュを展開する。


 大量の誘導弾の群れが、タンブルウィード船団の近辺で暴れている攻撃機に食らいついていく。多少迎撃されようが、意味がねえ。


 敵機の1000倍の誘導弾群攻ミサイルサーカスだ!


 神器使いのオレなら1人で花火大会が出来る! 組織のガキ共には大好評! 敵にも大好評だ! 敵は全部ブッ殺すから、感想聞けてねえけどな!!


「飛行機来い来い! 全部撃ち落としてやる!」


『首領、今ので全機撃墜しました』


「つまんな……! マレニア軍、ショボくねえか?」


『オヤジ達が規格外過ぎなんですよ』


『神器使いに、そこらの軍隊が勝てるわけないでしょ』


「交国軍とかもっと手強いけどなぁ」


 あそこの軍隊なら神器使い無しでも、相当手こずらされる。


 腐りきってる人類連盟加盟国の中でも、指折りの気骨と練度を持ってるからな。


 マレニア軍の対処は、もうムツキに任せておいていいだろう。


 アイツはまだガキだが、どこに出しても恥ずかしくないオレの弟子だ。ブッ殺すしか能のないオレと違って、色々と器用にやってくれる。


 酒でも飲みながら観戦するのもいいが――。


「じゃあ、オレは蝿共の相手でもするかなぁ」


 マレニア軍が展開している方向とは真反対。


 何も無い海と空が広がっている空間。


 そこに向け、誘導弾を放つと――何も無い空間に誘導弾が着弾し、そこから透明になっていた・・・・・・・・方舟が姿を現した。


 隠れてオレらの争いを見物してやがったな。あの蝿共。


 どこの所属だ……?


『オヤジ! あの方舟って――』


「…………。アァ、間違いねえ。交国軍・・・だ」


 姿を消していたから直ぐ気づけなかったが、風の動きに違和感があった。


 わりと当てずっぽうで撃ったが、ドンピシャリと当たるもんだなぁ。


 けど、相手がマズいな。……よりにもよって交国軍だったのか。


「多分、特佐とかその辺の特殊部隊だろう」


 泡を食っている敵船から、2人の人間がこっちに飛んできた。


 同類のお出ましだ。


「よう、ロレンス首領! やってくれたなぁ!」


「やろうとしてたのはお前らだろうが。汚え手を使いやがる」


「半魚人の海賊風情に言われたくないね」


 おそらく、この交国軍の部隊はタンブルウィード残党を見張っていた。


 そこにオレ達が救援が来ると予想し、姿を消して待ち構えていたんだろう。


「オレらがタンブルウィードの奴らを連れて、ノコノコとアジトに戻るのを追跡しようと思ってたんだろう? 陰湿野郎共め」


「ここでやるつもりは……無かったんだがね」


 こっちに飛んできた交国軍人が、苦笑している。


 そいつの背後――敵船の周囲で海門が開き始めた。


 界外に待機していた交国軍の部隊が展開し始めた。界内にいたコイツらが海門を開き、待機中の部隊を呼び出したんだろう。やる気満々じゃねえか。


「伯鯨ロロの首を取れるなら、悪くない」


「ガキが。オレがテメエら如きに――」


「「神器解放ッ!!」」


 同類メサイアが武装を解き放つ。


 呼び寄せた部隊が攻撃態勢に入る。


 神器使い2人。軍艦10隻か。


 うーん…………よりにもよって交国かぁ……。


 ちとマズい。さすがにマズい。


 アイツになんて言い訳しよう? まあ、何とかなるか。


「殺る気は買ってやるけどな」


 神器使いの攻撃を回避しつつ、1人にラリアットを決める。


 決めつつ、ラリアットと同時に神器の力を行使し、爆撃を行う。


「オレを誰だと思ってやがる」


 展開した神器を――白鯨を急降下させる。


 その一撃で敵艦隊が押しつぶされ、海に沈んでいった。


 ダメ押しの零距離爆撃で敵艦の流体装甲を一気に削り、吹き飛ばす。


 不勉強過ぎるぜ。


 もっと散開するか、尻尾を巻いて逃げるべきだったのに――。


「オレはロレンスの首領だぞ? さあ、ケジメの時間だ」


「なぁっ……!?」


 残りは神器使い2人だけ。


 片方はもう、まともに戦えないだろう。


 さっきの爆撃ラリアットが足にキてるし、骨まで砕いた。


 交国軍は手強い。


 だが、手強いだけだ。


「オレを殺したいなら、甲田か――せめて犬塚を連れてくるんだな」






【TIPS:流民るみん

■概要

 故郷を失い、放浪する者達。大抵が集団で行動している。難民の一種だが、流民は「主に混沌の海を生活の場としている」者達に対して使われる言葉。


 流民達が流民となった経緯は様々だが、流民の子と生まれ、最初から故郷も国籍も持たない流民二世達もいる。


 中には後進世界に移り住み、自分達の定住地を作って流民生活を終わらせようとする者達もいる。だが「余所者」として先住民と衝突しがち。


 そうなると「混沌の海を渡るだけの技術」を持った流民側が勝ちやすいが、先住民に勝ったところで戦いの日々が終わるわけではない。


 人類連合は――自分達が黙認していない――力による現状変更を認めていないため、流民達による「侵略行為」は人類連盟加盟国の軍勢が叩きのめしに来る。


 さすがに人連の軍相手に勝ち続けられるほど強い流民はそういないため、彼らは再び放浪の日々に戻っていく。運良く定住が許されても、低賃金で死ぬまでこき使われるほど立場が弱い。それが流民である。



■流民の生業

 混沌の海を彷徨う流民の中には、交易を生業にする者もいる。


 運良く方舟、あるいはそれに類する移動方法を手に入れれば、異世界の物品をやりとりして金を稼ぐ事もできる。


 ただ、流民というだけで立場が弱いので、取引先には足下を見られがち。


 流民による交易は人類連盟が「違法取引」として罰しているため、交易というよりは密輸になりがち。余程上手くやらないと苦しい現状は変えられない。


 何をやっても差別されるため、流民の多くは犯罪行為に手を染めざるを得ないのが現状である。


 密輸などまだ可愛いもので、あちこちの世界で略奪を行っている流民達もいる。傭兵稼業を行いつつ、その合間に略奪を行う者もいる。



■流民が差別される理由:戸籍・流行病

 流民達は故郷も戸籍も持たない者が多いため、人間扱いされない事もある。


 また、流民達は十分な疾病対策を用意しづらいので、複数の世界を渡り歩いているうちに保菌者になり、流行病で訪問先の世界に甚大な被害をもたらす事もある。


 流民があちこち行くことで免役も作られていった歴史もあるが、流民が持ち込んだ病で滅んでしまった国もあるため、「異邦人」である流民達との接触を恐れる者は少なくない。



■流民が差別される理由:深人ふかびと

 流民達はとある事情で、元々の種族とは別の存在になる事がある。


 具体的にどのような存在になるかというと、<深人>という存在になる。


 深人達は「魚類」のような身体的特徴を持っており、それを恐れ、気持ち悪がる者達に「半魚人」と呼ばれ、蔑まれている。


 深人化は悪いことばかりではないのだが、「普通の人間」とは異なる外見で「流民がなりやすい」ものなので、流民差別の理由になっている。

 


■人類連盟による流民対策

 人類連盟加盟国の多くは、流民の虐殺を行っている。「殺処分」によって流民の存在によって発生する問題に対処しようとしている。


 短絡的に殺しているだけではなく、流民を受け入れて居住地を与えても――プレーローマが世界を滅ぼすなどの影響で――また新しい流民が生まれ、全ての流民を受け入れきれないという事情もある。


 自国民に「流民対策より自国のために金を使え」「異邦人より自国民を大事にしろ」と突き上げを食らう事情もあり、「人道的な流民対策」を諦めてしまっている国も少なくない。


 実際、流民を「真っ当に」受け入れたところで、治安悪化などの問題も発生するため、流民対策はどの国も苦慮している。


 流民は国籍等を持っていない事が多い。そのため殺したところで国際問題に発展しづらい。そのことが流民への厳しい対応に繋がっている。


 流民も人類の一員であり、「流民虐殺は人道問題」と捉える者達もいる。しかし流民は立場が弱いため、蹂躙されがち。



■流民が方舟を手に入れる方法①

 本来、流民のような存在が<方舟>を手に入れるのは難しい。


 それなのに多次元世界の流民達は方舟や、方舟相当の移動手段を持ち、混沌の海を彷徨っている。これにはプレーローマが関わっている。


 プレーローマは「流民による社会問題」が人類文明にダメージを与えると知っているため、流民達にあえて方舟を渡し、流民に仕立て上げている。


 人類の文明圏を彷徨う流民達が行く先々で問題を起こす事が「対人類工作活動」に繋がるため、プレーローマはわざわざ流民用の方舟を供給し続けている。


 このようなプレーローマの所業は人類文明を悩まし続けているが、「流民の方舟を強奪する」事によって「方舟が手に入る」という報酬もあるため、自国で混沌機関を作れない人類文明等は積極的に流民狩りを行っていたりもする。



■流民が方舟を手に入れる方法②

 流民が方舟を手に入れる方法は、プレーローマ供与以外の方法もある。


 別の方法というのが<根の国>という多次元世界の底に存在する世界で作られた方舟に相当する輸送手段を貰い受ける事である。


 根の国由来のとある物により、流民達は移動手段だけではなく、食物も手に入れる事に成功した。ただ、これが<深人化>という異常を作ってしまっている。



■流民の英雄:伯鯨ロロ

 犯罪組織<ロレンス>は海賊行為を主な生業としており、その首領である「伯鯨ロロ」は人類連盟加盟国から蛇蝎の如く嫌われている。


 ただ、伯鯨ロロは流民達にとっては英雄的存在である。


 伯鯨ロロが率いるロレンスは殆どが流民で構成されており、ロレンスの海賊行為で生かされている流民は少なくない。


 やっている事は犯罪行為だが、自分達を受け入れない人類文明に「海賊行為」という手段で抗い、多くの流民を養う基盤を作った伯鯨ロロは暗黒英雄ダークヒーロー的な扱いで流民達の希望の星になっていた。


 だが、新暦1233年。


 伯鯨ロロは<カヴン>の内部抗争の最中、殺害された。


 下手人は加藤睦月カトームツキと言われており、伯鯨ロロを慕っていたロレンス構成員達は、加藤睦月に対する復讐を渇望している。


 加藤睦月は伯鯨ロロの死後、交国に渡った。強奪した「ロロの遺体」と「ロロの神器」を手土産に玉帝に取り入り、交国臣民として迎え入れられている。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る