番外編:なんとなくわかる多次元世界史 後編



■メフィストフェレスの死……?

□ゲスト:エノク


 人類連盟を作ったメフィストフェレスは、突然死にました。


 なぜ死んだ? 誰が殺した? そもそもホントに他殺なのか?


 それさえ不明です。


「なぜわからないんだ」


「お前なら知っているはずだろう」


 そう言われましても……史書官とはいえ、知らないことは知らないですし。


「そういう話ではない」


 むぅ! 当時はお側にいなかったので、殆ど何も知らないんですって!


 私がお側にいたら絶対、あんな事になってなかったはずです。


 逆に問いますが、プレーローマ側が暗殺部隊を送り込んだのでは?


 プレーローマにとって、メフィストフェレスは危険人物でした。


 人類連盟発足前からプレーローマに痛手を与えていましたし、人類連盟と人類軍を作ったことは混乱期のプレーローマにとって無視できない事でしょう?


「確かに。プレーローマはメフィストの殺害、もしくは捕縛を狙っていた」


「実際に何度か試みていたはずだ。だが、お前達のガードが堅くて失敗した」


 あの時だけ成功したのでは?


「違う。当時の死には、プレーローマは関わっていなかったはずだ」


 むむむ……。そうですか。


 では、誰が殺したんでしょうね?


「身内の犯行じゃないのか?」


「お前を含む主要な護衛がいないタイミングは、身内なら知っていたはずだ」


 その可能性は否定しませんけどね。


 まあ、そもそも、死んだところで大したことでは無いのです。


 だって、メフィストフェレスという存在は――。


「大したことはあっただろう」


「メフィストフェレスの死により、人類連盟は腐敗したのだから」




■人類連盟の腐敗

□ゲスト:エノク


「人類連盟は、人類のための機関だったはずだ」


「やり方はともかく、当時の人類連盟は筋を通す組織だった」


「だが、実質的な盟主だったメフィストフェレスが死んだ事で、人類連盟は混乱状態に陥った。プレーローマが源の魔神の死で混乱期に突入したように――」


 プレーローマほど荒れてませんけどね。


 メフィスト様が死んだ後、強国の皆様が連盟を牛耳り始めましたからね。


 強国達は<常任理事国>として、人類連盟を好き勝手に弄び始めました。


 組織はそのまま。


 ただし、常任理事国じぶんたちの都合で人連を動かす。


 1人の英雄の死によって、組織の腐敗が始まりました。


「人類連盟は人類同士の諍いを調停していた」


「人類同士で戦争している場合ではない。手を取り合おう、と言っていた」


「メフィストフェレスが死ぬまでは」


 いえいえ、今も言ってますよ?


 ただ、言ってるだけになったのです。


 メフィスト様が連盟を牛耳っていた時は、強国の横暴はメフィスト様が止めていました。弱者を守っていました。けど、その抑止力メフィストがいなくなった。


 強国を止められるのは強国だけになった。


 けど、どの常任理事国も「自国を強くする」ことを望んでいました。


 そこで談合し、お互いの侵略戦争を黙認したのです。


 アレコレと理由をつけてね。


「A国はプレーローマと通じている疑いがある。軍隊を派遣して正す」


「B国はテロ組織を支援している。我が国の支配下に置き、正してやる」


「C国はD国に対し、違法な戦争を仕掛けている。だから我々が正す」


「そのような強国同士の談合を行う場として、人類連盟は利用されていった」


 今も利用されています。


 嘆かわしい事です!


 史書官としては「ふふっ、人類かわいい」と思いますけどね。


 メフィスト様の意志を知る者としては、「人類~!!」って感じです。


 弱い国が声をあげたところで、強国によってその声は握りつぶされる。


 強者の都合でルールはねじ曲げられる。


 多くの常任理事国が「対プレーローマ」は防衛戦程度にしておき、「人類文明侵略よわいものいじめ」に注力していきました。


 まあ……それによって強国の力が強まり、人類側の軍隊の質が上がり、プレーローマにある程度対抗できる力は身につきましたけどね。


「だが、時間を浪費した」


「人類が一致団結せず、談合によるイザコザを起こしているうちに、プレーローマは三大天による支配体制を確立した。混乱期は終わった」


「メフィストフェレスによる統制が完了した人類なら、プレーローマにとってもっと厄介な存在になっていたはずだ」


「奴こそが多次元世界の新秩序・・・を築く存在となっていただろう」


「それこそ、源の魔神のように――」


 プレーローマの混乱期が最大のチャンスだったんですけどねぇ……。


 人類は一致団結に失敗しました。


 メフィスト様の死により、未だに内輪もめをしているのです。


 対プレーローマのための連携する事はありますが、完璧に足並みを揃えて戦うことは出来ていません。どの国も自分達の思惑を優先しています。


 弱者を虐げ、人類同士の和を乱し続けています。


 弱者たる流民の差別も続き、差別された流民達は恨みつらみをため込んで、人連やその加盟国等への犯罪行為を繰り返しています。


 負の連鎖ですよ。


 それである程度、成り立ってしまっているのが一層救いがない!


「プレーローマにとっては幸いな事だな」


 トホホ……。


「常任理事国による横暴は、未だ続いている」


「ただ、彼らの支配体制が揺らぐ出来事もあった」


 交国・・の誕生ですね!




■強国「交国ちゃんさぁ。人連ぼくらをボコすのはルール違反だよねぇ!」

□ゲスト:エノク


 人類連盟の常任理事国は、長らく変わりませんでした。


 メフィストフェレス死亡後、火事場泥棒的に人類連盟を牛耳った強国が常任理事国としてふんぞり返り、談合を行っていました。


 談合は長く続いていましたが、彼らの地位を「交国」が揺るがしたのです。


 交国は新暦753年――今から490年前に生まれた国家です。


 新暦146年に人類連盟のメフィストフェレスが死亡し、強国の顔ぶれは大して変わらずにいたので、当時の交国は本当に新興国家でした。


 新興の小国だった交国は建国当時から「対プレーローマ」のために動きつつ、他の人類文明に積極的に侵略戦争を仕掛けていました。


 そうする事で勢力を拡大し、強くなっていったのです。


「当然、人類連盟・常任理事国にとって、交国は非常に目障りな存在だった」


 ですです。


 侵略戦争をガンガン行う交国は人類連盟の「人類同士仲良くしようね~」って建前上、許してはいけない存在です。


 常任理事国の「侵略戦争していいのはオレ達だけなんだよーッ!」っていう本音を考えても、メチャクチャ邪魔な存在でした。


 建国初期から交国はメチャクチャ戦上手だったので、破竹の勢いで他国を攻め落とし、なおかつ上手く統治してましたからねぇ……。


「人類連盟は交国に警告した。ただちに侵略戦争をやめろ、と」


「そして、侵略した世界を解放せよ、と告げた」


「解放後の世界は『保護』名目で人類連盟加盟国が自分達の支配下に置くつもりだった。だが、交国は人類連盟の警告を突っぱねた」


 戦争待った無しです。


 人類連盟は数で圧倒的に勝っていました。


 多くの人々が「交国は無惨に負けるだろう」と言っていました。


「実際は交国が連戦連勝。常任理事国の軍すら破り、敵首都を強襲して首脳陣を全て人質に取るという鮮やかな勝利も飾ってみせた」


「交国に負けた国の国民は――自国政府への不満が高まっていた事もあり――交国による支配を逆に喜んだほどだった」


 交国はさらに領地を広げました。


 主立った強国が対プレーローマ戦線から主力を動かせないという事情もあったのですが、それ抜きでも交国の用兵と統治は見事でしたねぇ。


 最終的に人類連盟側が折れました。


 半分ぐらい折れました。


「交国に有利な条件で停戦条約が結ばれ、交国も人類連盟加盟国となった」


「また、交国が当時の常任理事国の1つを支配下に置いていたため、その地位継承を許した。交国も常任理事国の1つとなった」


 ただ、人類連盟の強国達も負けてません。


 交国を人類連盟に加盟させる事で、手綱をつける。


 その手綱で交国をコントロールしようとしたのです!


 例えば「対プレーローマのために協力しようね!」と言い、交国に大きな負担を強いたりしました。そうすることで交国をほどほどに弱体化させ、「戦に負けたが政争で勝った」状態に持ち込もうとしたのです。


「失敗したがな」


 彼らの目論見は玉帝に粉砕されました。


 交国はプレーローマとバチバチに争いつつ、その後もアレコレと大義名分いいわけを使い分けながら対人類の侵略戦争も続けました。


 対プレーローマで疲弊するどころか、立派に戦い抜くことで威を示し、「交国の支配下においてほしい!」という国すら現れ始めました。


「当時の常任理事国は政争でも敗北した」


「結果、彼らこそが弱体化していき、常任理事国のメンツが変化していく事態に繋がった。交国以外にも成り上がりの新常任理事国が誕生した」


 人類連盟に新たな風が吹き始めたのです!


「交国も他の新常任理事国も、横暴な振る舞いは続けたがな」


 弱者にとっては大して変わってませんね!


 支配者の首がすげ変わっただけです。


 ただ、濁り淀んでいた人類連盟に風穴を開けた交国の力は本物です。


 人類勢力でも指折りの巨大軍事勢力の地位をキープし続けています。


 さすがに、国内にチラホラと火種が生まれてますけどねー。


「巨大勢力だからこそ、全てを掌握出来なくなっている」


「巨大さは交国の強みであり、大きな弱みでもある」


 まあ、多少の火種があったところで、そう簡単には揺るがないでしょうけどね。


 玉帝は独裁者ですが、不正を嫌い、身内だろうが平気で処断する御仁です。


 その立ち振る舞いは国民を畏怖させていますが、「強い権力者」として信頼される流れにも繋がっています。バンバンと結果も出してますからね。


 交国を滅ぼすのは非常に難しいですよ。


「玉帝という『頭』を潰せばあるいは……と思うが」


 玉帝暗殺計画はプレーローマに限らず、人類勢力側でも何度も試みられていますが、成功した様子はありませんね。


 成功したところで、交国が変わるかどうか怪しいところです。


 玉帝に権力が集中しているのは確かですけどね。


 源の魔神が死んでプレーローマが混乱期に陥ったように――。


 あるいはメフィストフェレスの死で人類連盟が無茶苦茶になったように――。


 玉帝の死で、交国が大きく変わってしまうかは……わかりません。


 推測は出来ますが、確かなことはまだわかりません。




■まとめ

□ゲスト:エノク


「現在の多次元世界史は、ざっくりこんな感じか」


 エノク! まとめてください!


「西暦の時代、<源の魔神アイオーン>は人類に勝利した」


「そして、人類を虐げるために数多の世界――多次元世界を作った」


「だが、源の魔神が『新暦1年』に死亡し、大きな変化が訪れた」


「その変化の中、<メフィストフェレス>は人類のために動いたが死亡」


「人類連盟は腐敗し、人類はプレーローマに勝利する『絶好の機会』を逃した」


「交国は比較的新興のくせにバケモノ国家」


「こんな感じか?」


 まあまあまあ、大体そんなところでしょう。


 60点というところです。


「そうか。もう2度とゲストとして来てやらない」


 いや、必要な時は呼びますよ。


 貴方は私の護衛なので、私が呼んだら来ないと!


「理不尽だ」


 源の魔神よりマシです。




■メフィストフェレスの理想

□ゲスト:エノク


 源の魔神の死は、歴史の分水嶺となりました。


 人類連盟を作ったメフィストフェレス様の死も、分水嶺と言っていいでしょう。


「メフィストフェレスの存在は、多次元世界に大きな影響を残している」


「いや、今もなお、奴は多次元世界に爪痕を残し続けている」


「メフィストフェレスの死体は、歩き続けている・・・・・・・のだから」


 ですね。


 今代のあの御方は人類の現状、どう考えてらっしゃるのでしょうねぇ。


 人類連盟が腐敗せずにいれば、ひょっとしたらプレーローマを滅ぼせていたのかもしれないのに……ずっと膠着状態でグダグダ戦い続けているという……。


 そもそも人類連盟が腐敗してもなお、なんとか「膠着状態」を保てているのは運が良いだけです。基本、プレーローマの方が強いですからねぇ。


「メフィストフェレスは嘆いているかもしれない」


「いや、今は嗤っているか」


 かつての・・・・あの御方なら嘆いていたと思いますよ。


 交国の存在は「いいね!」と喜ぶかもです。


 交国――というか玉帝は、ブレずに対プレーローマを貫いていますからね。


 交国軍は、あの御方がかつて目指した人類軍の理想型と言っていいでしょう。


「ただ、交国軍は正義の軍勢では無い」


「魔王の軍勢だ」


 そうかもしれませんね。


 でも、それでもいいんですよ。


 人類が勝ちさえすればね。






【TIPS:メフィストフェレス】

■概要

 人類の英雄にして人類の敵。死霊術師ネクロマンサー


 単独での戦闘能力はあまり高くないが、「発明」に長けている。メフィストフェレスの存在は多次元世界の技術水準を何世代も引き上げたと言われている。


 プレーローマを憎み、人類の未来を憂いていた。人類を救うために人類連盟を作ったが、志半ばで死亡したと言われている。


 人類の味方として戦っていたが改革を急ぎすぎる事もあり、権力者達に嫌われていた。それ以外の理由もあり、現在は多くの国の歴史書から「メフィストフェレス」という英雄の名前は消されている。


 死亡したはずだが、「メフィストフェレスが死亡した」「メフィストフェレスが現れた」という話は多次元世界各地に残っている。


 メフィストフェレスを自称する模倣犯もいる。


 本物は現在も歩く死体リビングデッドとして彷徨い続けている――という伝説もある。影響力に関しては「源の魔神に並ぶ」とも言われる存在。




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