第1.1章:舞台裏【新暦1243年】
番外編:なんとなくわかる多次元世界史 前編
■殺神事件の被害者
□ゲスト:多次元世界最強の神
やーん! 遅刻遅刻~!
私は<雪の眼>史書官・ラプラス。
どこにでも出没する天才美少女史書官です。
史書官の他に<おっぱいソムリエ>もしています。
本日は「なんとなくわかる多次元世界史」の収録に呼ばれたのですが、いい乳を見つけてフラフラと追っていたら収録に遅刻中です!
今回のゲストはなんと! 多次元世界の創造主!
源の魔神こと<アイオーン>様です!
源の魔神は「多次元世界最強の魔神」と謳われた魔神で、特技パワハラの狭量な御方なので遅刻がバレたら私如き、けちょんけちょんにやられてしまいます!!
幕間でアホみたいな死に方するなんて嫌ですよ!! 私のような美少女がこんな番外編で死んでしまったら多次元世界の損失――。
「貴様ァ! 救世神たる
うわーーーー! もうバレました!
これは全力疾走して良質な土下座をしなければ殺されます!
源の魔神はガチで強い魔神です! 人間なんか鼻息1つで倒せますし、世界ですらも指先1つでパァン! と壊せる恐ろしい存在です!
ごめんなさーい! もう遅刻しませーーーーん! 悪質ターーーーックル!
「ウッ…………?!」
本当にすみません! ほら、このように土下座もしますよ。
私のような聡明な美少女に土下座を強要できるのは、多次元世界広しといえど貴方しかいませんよぉ! ほら、早く許して!
アイオーン様? アイオーン様?
「――――」
し、死んでる……。
何者かに悪質タックルされて転び、頭を打って死んだ……?
多次元世界最強の魔神が!? 悪質タックルで死ぬはずが……。
え? 私が殺した? そんなバカな! 相手は源の魔神ですよ?
強力な力を持っているプレーローマの支配者であり、多次元世界を作った本物の
「――――」
いや……ちょっと待ってくださいよ……?
謎は全て解けました。私は無実です。
源の魔神は、とうの昔に死んでいるのです。
新暦1年。
多次元世界最強の魔神は、何者かに殺害されました。
源の魔神は既に死んでいますが、多次元世界史を語るうえで欠かせない存在です。今回は源の魔神について触れつつ、多次元世界史を学んでいきましょう。
「なんとなくわかる多次元世界史」スタートです!
あ、エノク。ゲストが死んだので、貴方が代わりにゲストになってください。
詳しいでしょ。多次元世界史。無駄に長生きなんだから。
「それはいいんだが、ここで死んでいるのはまさか
そんなはず無いでしょ!
源の魔神が私の悪質タックル如きで死ぬはずがありません。
「確かに。救世神が悪質タックル如きで死ぬはずがない」
でしょ? はい! 説明を続けますよ!
スタッフさーーーーん! この偽者は片付けておいてくださーーーーい!
■源の魔神について
□ゲスト:エノク
この世界がまだ1つだった時代。
後に<
「西暦の時代だな」
「当時の人類は<地球>と言う星がある世界に住んでいたらしい」
「救世神――もとい、源の魔神もそこの出身らしい。正確には少し違うが」
源の魔神は<選定の剣>を抜き、力を得ました。
選定の剣は別名を<
源の魔神は
勝利しましたが……源の魔神は人類を強く憎むようになりました。
憎んでいましたが、「人類を根絶やし」にするのではなく、「永遠に終わらない地獄」を作ることで人類に対する復讐を始めました。
これが多次元世界の
■多次元世界の誕生
□ゲスト:エノク
源の魔神は<混沌>を用い、いくつもの世界を作っていきました。
多くの世界が<地球>という星がある世界をモデルにしたため、環境などはその原型に似通っているようですが……まあその話は脇に置きましょう。
「当時の源の魔神には同胞がいた。彼らと共に源の魔神は沢山の世界を作った」
その「たくさんの世界」の総称が<多次元世界>です。
ただ、その同胞とは喧嘩別れになっちゃったんですよね?
「喧嘩どころか殺し合いだ。まあ、源の魔神の一人勝ちになったのだが――」
そもそも、何で喧嘩になったんですか?
「話すと長くなるので簡潔に言うと、『音楽性の違い』だ」
なるほど?
ともかく、源の魔神は同胞と殺し合いつつ、多次元世界を支配しました。
混沌で数多の世界を創造し、そこに人類の種を撒く。
人類の文明がそれなりに成熟すると、圧倒的な力で滅ぼす。
なぜ、源の魔神はそんなことをしたのでしょう?
「最大の理由は、お前が言った通り『人類への復讐』だ」
「源の魔神は人類を憎んでいる。だから、人類を苦しめたかった」
「絶滅させるのは容易い。源の魔神にはそれだけの力があった。しかし、ただ絶滅させるだけだと復讐が簡単に終わってしまう」
「ゆえに源の魔神は多くの世界を作り、人類を繁栄させた。ほどよいところで滅ぼすことで、絶望に歪む人類の顔を見ながら愉悦に浸っておられたのだ」
悪趣味ですねぇ。
「あと、『混沌を生産する』という理由もあった」
「混沌は知的生命体の感情から生じる。大きな感情ほど質の良い混沌が発生する」
「世界が滅亡する。それによって生じた大量の混沌で新しい世界や<権能>を作っていた。あそこまでしなくても
だから最大の理由が「復讐」なのですね。
混沌生産は
「そうだ」
「ただ、多次元世界を作っていく中で、源の魔神は困難に直面した」
「彼の神は同胞を失い、ひとりぼっちになってしまった」
「1人で広い多次元世界を支配するのは大変なことだ」
「源の魔神なら出来ない事もないが、他にやることもあったから『人類に対する復讐』と『混沌の生産』を任せる相手が欲しいと考えるようになった」
その結果、生まれたのが――。
「天使」
「そして、
「我々――もとい、天使とは源の魔神の代行者として創造されたのだ」
■プレーローマ全盛期
□ゲスト:エノク
「源の魔神は天使を創造し、自身を頂点とする組織を作った」
それがプレーローマですね。
天使達は源の魔神の手足として、「多次元世界の管理」「人類への神罰」を与える役目を担っていきました。
「他、諸々の雑務も与えられた」
例えば?
「話し相手になる。<転生機構>の開発を手伝うとかだな。多岐に渡る」
「主立ったものは、お前が言ったものだ」
同胞とは上手くいかなかった源の魔神ですが、プレーローマの運営は結構上手くいっていたみたいです。
源の魔神のコミュニケーション能力に難があったため、歪みもあったようですけどね。息を吐くようにパワハラを行う方だったようですから。
「神とはそのような
そうなんですかねぇ……。
まあともかく、プレーローマは多次元世界を支配していました。
当時のプレーローマと源の魔神は向かうところ敵無し! 無敵でした!
「少し違う。無敵ではない」
「確かに当時のプレーローマは非常に強かった」
「しかし、源の魔神でも手を焼く厄介な存在もいた」
虚の魔神や夢葬の魔神ですね。
「そうだ」
「虚の魔神の強さは大龍脈防衛に限り、夢葬の魔神は現世への干渉を避け、夢の中でのみ活動していたが……奴らはプレーローマでも対処し難い相手だった」
「それでも、当時のプレーローマには源の魔神がいた」
「多次元世界全体を支配するだけの力があった」
源の魔神自身が強いですし、手下の天使達も強いですもんねぇ。
当時こそが「源の魔神」と「プレーローマ」の全盛期だったはずです。
しかし、その全盛期に……
■源の魔神の死
□ゲスト:エノク
新暦1年。
最強と謳われた源の魔神が死亡した。
その知らせは多くの方々を喜ばせました。
……プレーローマ側でも喜んでいる方がいたとか?
「いたな。さすがにおおっぴらに祝杯をあげる者はいなかったが、源の魔神はプレーローマ内でも独裁者として恐れられていたからな」
「誰も勝てなかった
エノクも何度か殺されたんですよね。源の魔神に。
「ああ。だが、何度も蘇生してもらったからここにいる」
「気難しい御方だったが、私は嫌いではなかった」
多くの天使が「お前、イカレてるよ」と言いそうですねぇ。
ともかく、源の魔神は新暦1年に「何者か」に殺害されました。
これによってプレーローマは混乱期に突入しました。
「絶対的な支配者がいなくなったからな」
「源の魔神に代わり、誰かが皆を率いていかなければならない。『誰が救世神の後継者になるか』については、かなり揉めたな」
「源の魔神は強い。戦闘能力だけではなく、様々な能力に長けていた」
「戦闘能力はともかく、全てにおいて『源の魔神の代わり』になる存在などいなかった。源の魔神は唯一無二の存在だった」
それでも後継者いないとまとまりませんよねー。
個人で好き勝手にやってるならともかく、プレーローマは大組織ですから。
「順当にいけば……プレーローマを実質的に取り仕切っていた<三大天>の誰かが後継を務めるのが筋だが――」
三大天。
源の魔神が創造した3体の天使さん達ですね。
一種の兄弟関係にあるものの、仲が悪いそうですね。
「音楽性が違うからな」
「現在は『三大天の合議制』に落ち着いているが、当時は本当に荒れた。三大天以外の派閥の長達も『源の魔神の後継者』争いに参加してきたからな」
源の魔神は遺言とか遺してなかったんですか?
「そんなものを遺す御方ではない」
せめて遺言でもあれば、混乱期が早く終わっていたかもしれないのに。
源の魔神の死は、プレーローマを大きく揺るがしました。
多次元世界全体の支配をしている暇がなくなり、殆どの世界を放棄したぐらいだったんですよね。その世界が滅ぶように仕向けつつ。
細菌兵器を撒いたりとか、天候兵器を起動したりとか、海門開けっぱなしにして海の水抜いたり、人類同士の争いを煽っておいて滅んでもらおうとしたりとか。
「あの時はかなり慌ただしかったから、大半が失敗した」
「誰も殺せない事もあれば、総人口の7~8割ほどしか殺せない事もあった。実際に滅びた世界もあるが、生き残った世界も多くあった」
「人類は弱いが強いからな。彼らも生きるのに必死だった」
源の魔神が死ぬ前から、プレーローマは多くの人類を殺してきました。
本当にたくさんの人間が死にました。死んでも死んでもプレーローマが新しい人類を作るので、人々の絶望で<
プレーローマの所業は大きな禍根を残しました。
人類虐殺は、元はといえば源の魔神が命じたことです。全ての天使達が嬉々としてやっていたわけではなく、源の魔神が怖くて嫌々やっていた方もいました。
しかし、実際に沢山殺されている以上、生き残りの人類としては<プレーローマ>という存在自体が憎いのです。人類の敵として恐れ、憎んでいるのです。
源の魔神が死んだ事で、プレーローマは全盛期の強さを失った。
この隙に乗じ、多くの人類勢力が台頭していきました。
ただ、混乱期に入っていてもなお、プレーローマは内紛の片手間に人類をボコすほど強かったので……人類は一致団結する必要がありました。
人類の敵・プレーローマを倒すために。
人類をまとめるために、1人の勇者が立ち上がりました!
「あれは『勇者』なのか? 『魔王』の類いだと思うが……」
■人類連盟発足
□ゲスト:エノク
人類は連合軍を結成し、プレーローマに攻め入りました。
ただ、当時の連合軍は全然足並みが揃っていなかったので、プレーローマに各個撃破されていきました。連携も質も悪かったのです。
そこであの御方が――勇者<メフィストフェレス>が立ち上がりました!
「何度も言うが、あれは勇者などではないだろう」
それは貴方個人の感想ですよね?
「勇者<メフィストフェレス>とやらの名は、人類史のどこに残っている?」
雪の眼の歴史書には残ってますとも!
「だが、多くの国が存在を抹消した。アレを忌み嫌い、忘れていった」
ぐぬぅ……。
まあ、いいんですよ! 真実の歴史は雪の眼が把握していますから。
メフィストフェレス様は、プレーローマを大きな脅威と見ていました。
そして、「倒すなら今だ」と思っていました。
「プレーローマは混乱期に入っていたからな」
それでも人類はプレーローマに勝てませんでした。
半端な共同作戦では足並みが揃わない。
人類全体で連携する必要がありました。
そこでメフィスト様は<人類連盟>を発足しました。
天使達が身内で争っている中、人類は人類同士で争う事もあったので「人類同士の争いを調停」「人類の敵に抗うために連携」をするための組織を作ったのです。
「調停と連携は出来たのか?」
……ある程度は!
いや、途中までは上手くいってたんですよ! ホントに!
あんなことが起きていなければ……あの御方が人類を支配していたのです!
■人類軍発足……失敗!
□ゲスト:エノク
メフィスト様は人類連盟を作った後、「人類軍」を作ろうとしました。
人類で連合軍を結成するのではなく、単一の巨大な軍隊を作ろうとしたのです。複数の軍の連合では指揮系統を整えるの大変ですからね。
「そのために人類連盟加盟国に対し、『既存の軍隊を解体し、人類軍として再編成しましょう』などという戯言を言い出したんだったな」
戯言とはなんですか!
必要なことでしょう!?
「各国が国軍を持ち、自衛していたのにその国軍を『解体しろ』と言うのは無茶だろう。各国の意志で軍を動かせないのは都合が悪いはずだ」
「実際、殆どの国がその提案を拒否したのだろう?」
そうですよ。そうなんですよ!
プレーローマを倒すためには、連携を急ぐべきだったのに~!
「やりたい事はわかるが、さすがに無茶だ」
「ただ、奴は加盟国の拒否に対し、一計を講じた」
そうです。
あの御方の策により、人類は一致団結し始めたのです!
「アレは一致団結とは言えないと思うが――」
■自費で人類軍発足! 加盟国を脅すぞ★
□ゲスト:エノク
勇者・メフィストフェレスは人類のために「会社」を作りました。
そしてそこで様々な画期的な発明品を作り、販売し始めたのです!
「流体装甲も、その当時の発明品だな」
そうです!
現在、人類側どころかプレーローマでも使用されている<流体装甲>はメフィスト様が開発し、広く普及させていった発明品です。
メフィスト様は製造の難しい混沌機関も量産し、それらを販売して得たお金で人類軍を作りました! 最初の規模は私兵部隊に毛が生えた程度ですけどね。
「ただ、奴はそこをとっかかりに、本物の軍隊を作ってみせた」
「メフィストフェレスの発明品は、人類文明にとって垂涎の品だった」
「奴は何世代も先の技術を先取りしていた。メフィストの息がかかった製品に手を出さなければ『時代に置いていかれる』ほど優れたものを作っていた」
メフィスト様は、数々の商品を手に人類連盟加盟国と交渉しました。
これが欲しい? 欲しいよねぇ! 欲しいなら人類軍強化に協力してよ、と。
「その要求を飲まなければ、技術面で大きな遅れを取る事になる」
「だが、要求を飲めば軍事力を失う」
その代わり、人類軍が皆さんをお守りしますよ!
「軍事力を失えば、主権を失っていく」
「何かあった時、自力で自国を守れなくなるからな」
「常に人類軍が守ってくれるとは限らないし――」
そんなことないですよ! 人類軍は皆さんを出来るだけ守ります!
「他国や異世界への侵略を行えなくなる」
だから、そんなことしちゃダメなんですってば!
そういうのを止めるためにも「人類軍結成」と「既存の軍隊解体」が必要だったのです。そうしないと各国が好き勝手やるんですから~。
「だが、メフィストフェレスが行おうとしたのは人類の支配だ」
必要な統制ですよ。
プレーローマに滅ぼされるよりずっとマシでしょう?
「魔王の所業だ。やはり」
まあまあまあ……これでもかなり譲歩した方なんですよ。
既存軍隊の即時解体・再編成を推し進めるのではなく、段階的な解体と再編成で良しとしましたからね。メフィスト様もかなり譲歩したのです。
人類連盟加盟国の中でも発言力ある方々がスクラム組んで、「メフィストフェレスの言いなりにならないようにしよう!」「抜け駆け禁止な!」って連携してましたが……メフィスト様は加盟国を次々と切り崩していきました。
立場の弱い国から切り崩していきました。
メフィスト様は嫌われ者の勇者でしたが、加盟国の強国の中にも嫌われ者は沢山いましたからねぇ。勢力拡大のために同じ人類文明に侵略する国も沢山いました。
だから弱い国から切り崩し、自分の味方を増やしていきました。
強国が軍事力で脅しをかけてきても、圧倒的な技術力で脅しをはね除けました。
技術による切り崩しは、概ね予定通りに進んでいきました。
人類はメフィストフェレスと人類連盟の下で、まとまろうとしていました。
「だが、最終的に失敗した」
はい……。
残念ながら、人類連盟を作ったメフィストフェレスは死亡しました。
突然、何者かに殺されたのです。
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