僕らは名誉オークになった



■title:繊三号にて

■from:死にたがりのラート


「ラートさん。お願いですから急に飛び跳ねたり、走ったりしないでくださいね」


「俺は子供か……。そんなことしねえよ~」


 疑わしそうな目つきのヴィオラに「信じてくれ~」と言いつつ、外を歩く。


 まだ怪我は治りきってないが、昨日、先生が病室の外に出る許可をくれた。


 ヴィオラは「まだ寝ててくださいよー……」と言ってたが、寝てる場合じゃねえ。俺にはやりたい事があるからな!


「クソラート。どこ行くんだよ」


「フェルグス君っ。汚い言葉を使わないの……!」


 ヴィオラに注意されたフェルグスが、不満そうな顔を見せる。


 だが、不満そうながらも訂正してくれた。


「クソ。どこ行くんだよ」


「汚いのはそっちじゃないでしょ!?」


「へへっ……。まあまあ、こっちだこっち」


 ヴィオラがフェルグスを説教し始めたのを見守りつつ、歩く。


 アルと手を繋ぎ、グローニャとロッカも連れ、繊三号の地上部を歩いて行く。


 歩いていると、繊三号の外縁部に――海が見える場所に近づいてきた。


 目的地はここではないが、気になるものが見えた。


「ラートちゃ~ん! あそこ! お船が見えるっ!」


「だな。……俺達の船だ」


 星屑隊の船である<隕鉄>は沈んだ。


 停泊中の繊三号の傍で沈んでいる。何とか激戦を戦い抜き、皆が退艦した後に沈んでいった。皆を見事に守ってくれた。


 俺は船の最期に立ち会えなかった。


 長い付き合いの船ってわけじゃないが、それでもあの船だって戦友みたいなものだ。敬礼をしつつ、「ありがとな」と心の中で呟く。


 俺が敬礼していると、皆も付き合ってくれた。


「お船、沈んじゃったね~」


「だな……。残念だ」


「バレットは『沈ませねえ』って言ってたのにさ~……」


 ロッカが口をとがらせてそう言うので、「羊飼いが強すぎたんだ。仕方ねえさ」と弁護しておく。


「ま、いいけどさ。バレットも皆も無事だったし!」


「船だけじゃなくて機兵もボロボロだけど、直せないんですか……?」


「どうだろうなぁ」


 アルの問いに曖昧な答えを返す。


 多分、無理だと思う。羊飼いにボッコボコにされたからな。


 混沌機関が無事な機兵もあるが、大半の機兵がフレームまで破壊されている。機関は再利用できても、壊れたフレームを直すのは難しそうだ。


 ウチの機兵――ダスト2、3、4は大破しちまってる。


「船も沈んじゃって……星屑隊もボクらも、どうなっちゃうんでしょう……」


「しばらく、まともに任務をこなせねえが――」


 そう言うと、皆が表情を曇らせた。


「けど心配すんな! 新しい船と機兵も支給してもらえるみたいだしさ! 今の機兵が修理できなくても、部隊は存続するんだ!」


 星屑隊おれたちも繊三号奪還を頑張った。


 上もそれを認めてくれている……はずだ!


 最終的に<神器使い>の特佐がいいとこ持って行ったとはいえ、星屑隊も第8も仕事はこなした。遊んでいたわけじゃねえ。


 隊長が作戦結果を久常中佐に報告したところ――少し時間はかかるが――船と機兵を含めた補給が約束された。上が俺達を遊ばせておいたり、裁く理由も無い。


 繊三号に長期滞在する事になるだろうが、代わりの船と機兵が届き次第、今まで通りの遊撃作戦に戻れるだろう。


 羊飼いを倒したとはいえ、タルタリカはまだまだ残っている。


 俺達の戦いは、まだまだ続く。


「羊飼いを倒したことで、ネウロン解放戦線……というか、タルタリカの軍勢も瓦解した。都市も殆ど奪還できたみたいだが、戦いは続いていく」


「まだまだこき使われるってわけだな」


「ははっ……。まだまだお前らの世話になりそうだ。すまねえな」


 裏切った交国軍人は、結局殆どいなかった。


 脅されていた奴が大半で、反乱を起こした奴なんていなかった。


 けど、上は相変わらず、現場を疑っているみたいだ。


 正確には久常中佐達かな?


 それよりもっと上の人達は、冷静に判断してくれているらしい。


 隊長が「背嚢型タルタリカ」の存在を報告し、裏切ったとされていた交国軍人の弁護もしてくれている。裏切り者扱いのまま死んだ軍人の名誉も回復するはずだ。


 繊三号奪還成功には、俺達以外の交国軍人の活躍も大きく影響した。


 アル達を連れて繊三号に潜入した隊長は、タルタリカに脅されている交国軍人達を解放していった。解放された交国軍人は、命がけで・・・・抵抗してくれた。


 殆どが死んじまったが……隊長は「彼らの助力がなければ、繊三号は解放できなかった」と言ってくれている。弁護も請け負ってくれている。


 死んじまった軍人も……遺された家族も、きっと報われるはずだ。


「グローニャ達、ラートちゃんやレンズちゃんたちと、まだ一緒にいられるの?」


「もちろん。これからも一緒だ!」


 第8とお別れになる可能性もあった。


 技術少尉が「星屑隊が行動できない以上、第8は別の部隊と行動して実験を続ける」って言いだしたからなぁ……。


 けど、隊長が説得してくれた。


 技術少尉だけではなく、上も説得してくれた。


 そう話すと、グローニャだけではなく他の子も喜んでくれた。


 フェルグスも少しだけ笑顔を浮かべてくれた。俺の視線に気づくと「なんだよ」と言いたげな不機嫌そうなツラを作ったけど……喜んでくれてる!


「ちっ! あ~あ! これからもこのウザいオークとの船旅が続くのか! やだなぁ~。今回の活躍で、もっと待遇いいとこに移れると思ったのにぃ」


「そう言うなよフェルグス。お前も星屑隊のこと、気に入ってくれてんだろ?」


「気に入ってねーし!」


 フェルグスは「イ~!」と歯をむき出しにし、嫌そうな顔をした。


 その後、少し暗い顔になり、ため息をついた。


「今回マジでがんばったのに、ご褒美無しっておかしくね? エラい奴ら、オレらのこと使い捨ての道具だと思ってんのかね」


「いや、そんな事は――」


「まあ思ってるから特別行動兵として使ってんだよな」


「大丈夫。これから見返していけるよっ!」


 落ち込むフェルグスに対し、ヴィオラが握りこぶしを作りながら声をかけた。


 フェルグスと反対に、ヴィオラの表情は活き活きとしている。


「フェルグス君達は、繊三号奪還で大活躍した。羊飼いを倒すためには、キミ達の力が必要不可欠だった。それだけスゴい力を持っているんだから、直ぐにでも交国の偉い人達を見返していけるよっ!」


「マジでヴィオラの言う通りだ! これから見返していこうぜ!」


「あ、暑苦しい……」


 ヴィオラと2人でフェルグスに迫ると、フェルグスはまた嫌そうな顔になった。


 ただ、今度は苦笑していた。


 苦笑しつつ、「まあ、これからだよな」と呟いた。


「つーか、今日は『これからの話』をするんだよな? 隊長が『星屑隊と第8巫術師実験部隊は集合』って言いだしたから、どっかの部屋に行くんだよな?」


「おっと! そうだった。遅れたらマズい。行こうぜ!」


 そういう名目・・・・・・で皆を連れ出したんだった。


 他の星屑隊隊員が手伝ってくれた事もあり、もう準備は終わっている。


 繊三号の基地の一角に歩いて行き、そこにあった建物に入ると――。


「わっ!?」


「ひゃっ……!?」


 第8の皆に向けて、破裂音が響いた。


 クラッカーの破裂音だ。


 火薬が爆ぜる音の後、紙の糸や紙吹雪が飛んだ。


 それが第8の皆に降り注ぐ中、周囲で拍手が鳴り響き始めた。


 暗闇に光が灯り、そこにいた星屑隊の面々が拍手しているのがよく見えるようになった。第8の皆は状況がわからず、ポカンとした表情を浮かべている。


「お前らよくやった!」


「よっ! ネウロンの星!」


 星屑隊の隊員らにそう言われても、ヴィオラも子供達も状況を掴めていない。


 ずっとポカンとしていた。


 そんな中、隊長の咳払いが響くと、拍手が止んでいった。


 華やかだった場の空気が、厳かなものになる中、隊長が口を開いた。


「これより、第8巫術師実験部隊隊員への勲章・・授与式を始める」


「は? え? なに?」


「名前を呼ばれた者から、私のところに来なさい」


「勲章……?」


「フェルグス特別行動兵。前へ」


 未だ戸惑っているフェルグスに向け、手を伸ばす。


 手を引き、隊長のところまで連れて行く。


 すると、隊長はフェルグスに勲章を渡してくれた。


 他の子供達の名前も次々と呼ばれ、真新しい勲章が渡されていく。


「ヴァイオレット特別行動兵。前へ」


「はえっ? は、はいっ……?」


 ヴィオラにも、子供達とお揃いの勲章が渡された。


 バレットと整備長達が作ってくれた星型の勲章が授与された。


 勲章といっても、公式のものじゃないけどな!


「あのぅ……。これは、一体どういう……?」


「繊三号攻略作戦の功労者である諸君の活躍を讃えるために用意された勲章だ」


 隊長はそう言い、チラリと俺を見ながら「考案者はラート軍曹だ」と言った。


「ラート軍曹が『頑張った第8の皆にもご褒美があるべきだ』と言い出してな」


「勲章の名前は『名誉オーク勲章』だ!」


 胸を張り、第8の皆に言う。


「交国軍において、オークは前線部隊の中核を担う存在だ。そんな俺達を助けられるほど大活躍したお前らは『名誉オーク』と言っても過言じゃない!」


 フェルグスは「ふーん」と言いつつ、勲章を指で弄んでいる。


 けど、アルは目をキラキラさせて勲章を触りつつ、俺達を見てきた。


「ボク達が、ラートさん達みたいになれるって証なんですね!?」


「なれるというか、もうなってるさ!」


 今回の作戦、第8の助けがなければ成功しなかった。


 最終的に神器使いのカトー特佐が戦いを終わらせたが、特佐が楽に勝てたのは、第8の活躍ありきのものだ。


「スアルタウも、フェルグスも、ロッカもグローニャも……そしてヴィオラも俺の英雄だ。俺達の大事な戦友だ」


 そう言うと、アルは笑顔で「大事にします!」と言ってくれた。


 ロッカもグローニャも、笑顔になってくれている。


「その勲章は、あくまでラート軍曹発案で作られた手作り勲章だ。交国軍が正式に用意したものではない」


 隊長はいつも通りの威厳のある声でそう言いつつ、背後を手で示した。


 そこはカーテンで区切られていたが、隊長の合図でカーテンが開かれると――。


「手作り勲章に加え、ささやかながら宴席を用意した。これも楽しんでくれ」


 星屑隊の皆が協力してくれた宴会。その会場が、隊長の背後に隠れていた。


 繊三号が奪還出来たとはいえ、まだ色々とバタバタしている。宴会を開けるだけの物資を集めるために、皆が奔走してくれた成果がそこにある。


「ゼリーパンは無しだぜ。隊長!」


「ゼリーパンは我々だけが食べる。諸君らには星屑隊総員が奔走して捕まえてきた魚介と、各種缶詰がある」


「目玉はこれかな?」


 隊長の傍にやってきた副長が、持っていた箱を開けた。


 そこに入っていたのは缶詰。


 ただ、中には甘いケーキが入っている。


 子供達はそれに群がり、ワイワイと騒ぎ始めた。


「なにこれ!? おいちいの?」


「おっ! これ、この間のアップルパイと同じマークが書かれてる!」


「林檎食品のマークだな」


「ここにあるの、どれ食べていいの!?」


「おう! 食え食え! 全部食って、楽しんでくれ!」


 子供達が歓声を上げる。


 歓声を上げた後、笑顔のヴィオラに促され、皆にお礼を言ってきた。


 お礼を言われた星屑隊隊員みんなも笑い、笑顔の輪が広がっていった。


 第8の皆は、前から頼りになる存在だった。


 けど、この作戦を通じ、真の戦友になった。……そんな気がした。



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