交国軍特佐



■title:繊三号にて

■from:狂犬・フェルグス


『な、なんだぁ!?』


 ラート達を助けるために、アルと一緒に流体甲冑を使って走る。


 走っていたんだが、足下が――繊三号がグラグラと揺れた。


 羊飼いは倒したはず。それなのに、繊三号が揺れて――。


『にいちゃん! あれ……!』


 狼に変身したアルに言われ、繊三号の外側を見る。


 巨大な何かが海を歩いている。


『機兵……?』


 機兵にしてはバカデカい。……普通の機兵の十倍以上のデカさに見える。


 さっきまで、あそこには何もいなかったはず。


 羊飼いの機兵よりもずっとデカい人型の何かが、繊三号に向けて攻撃を始めた。


 攻撃を始めたけど――。


『あれっ……? タルタリカが蹴散らされてる……?』


 タルタリカの魂が消えていくのが観えた。


 ラートのところに群がっていたタルタリカが、次々と数を減らしていく。


 繊三号の外に――海に現れた人型の何かが、タルタリカの群れを倒し始めた。




■title:繊三号にて

■from:星屑隊隊長


「スアルタウ特別行動兵。フェルグス特別行動兵。地上部に飛び出ず、そこで待機しろ。流体甲冑を纏っていると、敵と誤認されて殺されかねん」


 ヴァイオレット特別行動兵がハッキングした基地の監視カメラ越しに、地上の様子を見る。……タルタリカが次々と殺されている。


『隊長! なんだよ、アレ!』


『う、海にすごくおっきな機兵が……!』


「あれは神器・・の創造物だ。おそらく、交国軍の増援だ」


 あの神器には見覚えがある。


 一応、友軍のものだ。


 久常中佐が呼びつけたものではない。彼にそこまでの権限はない。


 おそらく本国の上層部が派遣を決定していたのだろう。上も今回の件を重く考え、早期解決のために<神器使い>を派遣してくれたらしい。


 ……よりにもよって、奴が来たのは気に入らないが――。


「…………」


 繊三号最寄りの陸地が、大きくえぐれている。


 あの神器は確か、周囲の物質を材料に創造を行うもの。


 神器で大地を抉り、材料とし、巨大な「機兵モドキ」を作ったのだろう。


 それが暴れ回る様をカメラ越しに見ていると、フェルグス特別行動兵が話しかけてきた。ラート軍曹救援のために動く許可を求めてきた。


『味方なら大丈夫だろ。オレ達、ラート達を助けなきゃ――』


「待て。流体甲冑を纏った貴様らは、それをよく知らない者にはタルタリカと間違えられる可能性がある」


『あっ、なるほど』


「私が向こうに連絡を取る。そこで待機していろ。直ぐ、次の指示を出す」


 連絡を急ぐ。


 いま戦っている神器使い本人との話は出来なかったが、その部下への通信は通じた。やはり交国軍の増援で間違いないらしい。


 こちらの状況を伝え、助けてもらえるよう頼む。


「ところで、いま戦っているのは――」


『カトー特佐です。特佐御自身が神器を使用し、戦闘中です』


 やはり、特佐のカトーか。


 来るならもっと早く来い――と言いたかったが、向こうも色々事情があるのだろう。久常中佐が情報を隠していなければ、もっと連携出来たはずだが……。


「…………」


「隊長さん、どうしたんですか!? ラートさん達を助けにいかないと……!」


「ああ。すまん」


 少し考えていると、焦っているヴァイオレット特別行動兵に話しかけられた。


「ラート軍曹達のところに行くのは後だ。我々は先に、場所と物資を確保する」


 あちらにはひとまず、フェルグス特別行動兵達を向かわせる。


 特佐が神器で暴れた後なら、彼らでも軍曹達のところに辿り着けるはずだ。


 ただ、辿り着いたところで、その場で治療するわけにはいかない。繊三号内の医療スペースも確保しておかなければ。


 ラート軍曹は大怪我を負っている様子だった。


 大量の出血もしていた。


 輸血用の血が、繊三号に十分残っていればいいが――。




■title:繊三号にて

■from:狂犬・フェルグス


『――――』


 隊長に「もう少し待て。特佐が敵を倒すまで」と言われたから、待つ。


 待ちながら、繊三号の外を見る。


 やってきた増援が――神器が、敵を蹴散らしていく。


 繊三号にいるタルタリカを虫でも潰すように倒していき、海でオレ達を襲ってた船も軽くやっつけている。……大人と子供の戦いみたいに、蹴散らしている。


 バカデカい機兵も攻撃されているけど……まるで効いている様子がねえ。羊飼いはもういないけど、オレ達がそれなりに苦労した敵が、次々と倒されていく。


『これが、神器の力……』


 羊飼いが振るっていた力とは、まったく別の強さを感じる。


 圧倒的な力に、息を飲む。


 オレ様にも……神器あれがあれば……あんな風に――。






【TIPS:特佐】

■概要

 交国軍の佐官。ただし、通常の交国軍の指揮系統から独立した存在であり、状況次第で独自の判断で動く許可が与えられている特佐もいる。


 特佐の任務は多岐に渡り、他の交国軍兵士らと共に戦闘に参加することもあれば、特殊な作戦に身を投じる事もある。他、捜査権を与えられ、交国の内外で事件捜査や情報収集を行っている者もいる。


 交国軍事委員会も捜査権を持っているが、一部の特佐達が与えられている捜査権の方が上位に当たるため、「特佐案件」となると軍事委員会の捜査官が現場から追い出される事もある。


 そのため軍事委員会は特佐達を煙たがっている。



■特佐の所属と<特佐長官>

 特佐達は交国軍所属だが、通常の指揮系統から独立している。彼らは玉帝の直属の部下である<特佐長官>の指示で動いている。


 現在の特佐長官は宗像かい。玉帝の子供の1人で、長年に渡って玉帝の懐剣として特佐達を取り仕切っている。



■特佐の戦闘能力

 特佐達の中には<神器>あるいはそれに準ずる兵器を持つ者が複数人所属している。「特佐達は単騎で国を滅ぼせる」と言わている。


 捜査能力等を評価され、戦闘能力は他の軍人らと変わりない者もいるが、一騎当千以上の活躍をする特佐は少なくない。


 宗像特佐長官の指図で、特佐達が一斉に反旗を翻せば「交国は滅ぶ」と言われている。それだけの力の持ち主達が「特佐」という地位に集っている。


 プレーローマも交国の特佐達の力を驚異に感じており、その動向は注視されている。ただ、特佐達は「完全単騎」あるいは「少数精鋭」で動いている者が多いため、動向を掴みにくい。


 だからこそ、特佐達は効果的な奇襲を行う事が可能となっている。もちろん、奇襲に限らず拠点防衛でも大いに活躍できる力を持つ特佐も多い。



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