魔剣



■title:繊三号にて

■from:使徒・■■■■■■


『燼器解放……!』


『露と滅せよ――虹式カラド煌剣ボルグッ!』


 放つ。


 お互いに、切っ先に流体ちからを乗せ、放った。


 空中で激突した流体は一瞬鍔迫つばぜり合ったが、直ぐにこちらが押し切った。


 当然だ。


 敵の斬撃はこちらの劣化版。あるいは真似事。


 先程は不意を打たれたが、撃ち合いで私が負ける道理がない。


 敵の放った斬撃は、私の雷に飲み込まれて消えていった。


 こちらの攻撃は多少、減衰したが――。


『殲滅に不足無し』


 敵機も、その奥にいる敵船も、まとめて消し飛ばせる。


 敵船内にもう巫術師の本体はいない。誰かが逃がしたようだった


 眼前の機兵を消したところで、問題は――――。


『――――どこに行った』


 敵機兵の中に、魂が1つしか・・・・見えない。


 もう1つの魂が消えた。


 いや、いる。


 いるが……機兵の中から飛び出ている。




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:肉嫌いのチェーン


 雷光が辺りを染めた。


 だが、破滅の時は来なかった。


「なっ…………!?」


 羊飼いと船の間で、敵の雷撃が「何か」に弾かれ、四方八方に飛び散っている。


 誰かが、船への射線上で立ちはだかっている。


 大きな盾のようなもので敵の雷撃を受け止め、弾いている。


「いや、あれは……」


 盾じゃない。


 武器だ。




■title:繊三号にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


 今ならわかる。


 わかるようになった。


 さっき、真っ黒い紙に触った後から、何故か自然にわかるようになった。


 敵の攻撃は雷。


 それも普通の雷じゃない。地を這い、何もかも分解していく雷だ。


 けど、その材料は練り上げた流体・・


 つまり――。


憑依できる・・・・・!』




■title:繊三号にて

■from:使徒・■■■■■■


 敵機兵にいたはずの、もう1つの魂。


 それが、こちらの雷撃に憑依・・している。


『馬鹿な――』


 敵が放った飛ぶ斬撃。


 アレも流体によって造られし一撃もの


 流体は、機兵の装甲にも使える。


 巫術を使えば、流体装甲にも憑依できる。


 つまり、我々の攻撃も憑依可能・・・・


『先程の斬撃は、憑依強奪の足がかり・・・・かッ!』




■title:繊三号にて

■from:狂犬・フェルグス


『てめえの、攻撃なんざ……!!』


 暴れ狂う雷を、巫術で無理矢理押さえつける。


 飛ぶ斬撃を――虹式煌剣カラドボルグに憑依し、敵の雷撃にぶつかる。


 そこからさらに敵の雷撃に憑依し、流体の支配を目指す。


 これがオレ達の一の太刀・・・・


 けどさすがに、これだけの流体を完璧に支配するのは無理っ……!!


 抑えきれない雷撃が、そこら中を焼いている。


 けど、船は守れている。


 船に向かう雷は、アルが機兵を使って弾いている。


 しかも、単に弾くだけじゃない。


 敵の必殺こうげきを利用する。


 行くぜ二の太刀・・・・!!




■title:繊三号にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


 行こう、二の太刀!


『っ…………!!』


 にいちゃんに合わせる。


 にいちゃんが敵の雷を利用し、必要な流体を確保。


 ボクは、その流体かみなり大剣けんに乗せて――。


『『受けて滅せよ――溝式カレト煌剣ヴルッフッ!!』』


 打ち返す・・・・!!




■title:繊三号にて

■from:贋作英雄


『見事』


 少し力を渡しただけで、溝式煌剣をほぼ完璧に再現してみせた。


 やはり、この子達には力がよく馴染む。


 我が必殺剣の1つ――溝式煌剣カレトヴルッフ


 敵の「必殺」を剣で受け、打ち返し討つ逆撃魔術カウンター


 受け損ねれば自分が焼かれるが、上手く返せば逆に討てる。


 必殺を期した全力攻撃による隙に、敵の必殺を打ち返す業。


 この子達は一の太刀と二の太刀の連撃で、見事に再現してみせた。


 だが――。


『相手が上手か』




■title:繊三号にて

■from:狂犬・フェルグス


 打ち返した。


 打ち返せた。


 アルがやってくれた!


 何もかも消し飛ばしていく雷を、逆に敵が喰らって――何で生きてんだ?




■title:繊三号にて

■from:使徒・■■■■■■


『――見事』


 今のはさすがに、ヒヤリとした。


 我が燼器による必殺。


 敵はそれを防ぐどころか、打ち返してきた。


 巫術と、それ以外の「技術」によるものだろうが――。


『悪いが私も、似たような芸当は出来る』


 返ってきた雷撃を燼器で受け、流す。


 敵と同じく、巫術で雷撃を――流体を支配・制御する。


 打ち返しまでは出来ず、空に受け流す事しか出来なかった。


 だが、こちらは無傷。


 敵機兵の中には、巫術師1人分の魂しかない。


 先程の逆撃で、1人が出て行ってしまった。


 二連続・・・で燼器を受けるのは不可能だ。


『惜しかったな』


『そっちが、ですっ!』


『何――――』


 不意に、足下・・が消失した。


 何かに飲まれる。


 空間に穴が開いた・・・・・


 これは、まさか――――。


海門ゲート……!!』




■title:繊三号にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「間に合った……!?」


「捉えた。そのまま海門を維持しろ!」


 隊長さんに手伝ってもらい、辿り着いた海門の・・・制御室。


 繊三号は巨大な浮島。巨大すぎて、独力で混沌の海を航行できない。


 けど、海門を開く機能がある。


 界外から来る輸送船を迎え入れるために海門を開く機能がある。


 制御室ここなら、海門を開ける!


 安全に出入りする海門を開くなら、世界の内外両方から開いた方がいい。


 でも、今は安全性なんて度外視でいい!


 これは攻撃手段としての海門ゲート利用。


 敵を混沌の海に追い出して、海門を閉じれば……勝てる!


「そのまま落ちて!」


 フェルグス君達が時間を稼いでくれた事で、敵の足下に海門を開けた。


 敵はそこから落ちていったけど――。




■title:繊三号にて

■from:使徒・■■■■■■


『…………!』


 流体を操作し、ワイヤーを伸ばす。


 完全に海門に落ちきる前に、海門の外を掴む。


 今、界外に追いやられるわけにはいかない。


 一度追いやられたら、私の独力で戻るのは不可能どころか――。




■title:繊三号にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


『スアルタウ特行兵。敵を上がらせるな!』


『はいっ!!』


 にいちゃんはさっきの反撃で、身体の方に戻っちゃった。


 けど、まだボクが機兵を動かせる!


 敵を追って海門に飛び込んで、そのまま追い出す。


『出てって!』


 体当たりする。


 けど、受け止められた。


 伸ばしていたワイヤーは、ボクの体当たりで全部切れた。


 でも、新しいワイヤーを作られた。


 このままじゃ、追い出せな――――。




■title:繊三号にて

■from:使徒・■■■■■■


 ぶちんっ、とワイヤーが切れる感触がした。


 敵機兵の体当たりは、かろうじて凌いだ。


 だが、その後で飛んできた銃撃は・・・凌げなかった。


『貴様ら……!!』




■title:繊三号にて

■from:死にたがりのラート


「大人しく、落ちやがれ……!!」


 壊れかけの機兵を何とか動かし、最後の力で銃撃させる。


 敵が新たに生成したワイヤーを破壊した。


 羊飼いが、アルと共に海門に落ちていった。


 アルは憑依を解けば、直ぐ身体に戻れる。


 だが、敵は本体で戦っていた。


 逃れようがない。




■title:繊三号にて

■from:使徒・■■■■■■


 頭上で海門が閉じていった。


 もう戻れん。


 界外に――混沌の海に追い出された。


『此度の戦、私の負けだな』


 高濃度の混沌は、強いエネルギーに反応して襲いかかってくる。


 その圧は、最新鋭の方舟すら破壊する威力だ。


 ……混沌がやってくる。


 私の燼器に反応し、波濤の如くやってくる。


『――だが、次は、』




■title:繊三号にて

■from:死にたがりのラート


 羊飼いは消えた。


 海門から、混沌の海に消えていった。


 アレだけビカビカと雷バラ撒いていた奴だ。


 多分、混沌があの雷の残滓に反応して襲いかかっている。


 追い出せただけじゃなくて、死んだはずだ。


『オレ様達の勝ちだっ!』


「あぁ…………その通りだ」


 通信機越しに、フェルグスの歓声を聞く。


 アルの声も聞こえる。


 無事、身体の方に戻れたらしい。


 コイツらの力がなきゃ、羊飼いには勝てなかっただろう。


 ……勝てて良かった。


『ラート軍曹。早くそこから逃げろ』


 隊長からの通信。


 けど、その命令には従えない。


 何とか、「すみません」と返すことは出来た。


 もう動かない機兵の操縦席で、そう呟くことしか出来なかった。


『ラートさん、逃げてください! 羊飼いは倒しても、まだタルタリカが――』


 ヴィオラからの通信。


 焦った様子の声だった。それに返す余裕もない。


 口からは、ぜぇぜぇという声しか出てこない。


 さすがに……血、流しすぎた……。


 けど、大丈夫。まだ耳は生きている。


 タルタリカが狂い叫び、こっちに迫っているのはよくわかる。


 パイプと、レンズは……まだ生きているかな。


 生きてて欲しいなぁ……。


「は……はっ…………」


『ラートさんっ! 返事してくださいっ!! ラートさん!?』


『クソラート! 何とか持ちこたえろ! 直ぐに助けに行って……!』


『機兵、ないですか!? 混沌機関でもいいんです!!』


 俺は、ここまでだ。


 ……十分、やりきったよな。


 昔の俺なら、満面の笑みを浮かべて肯定してくれたと思う。


 けど、今は……ちょっと、微妙かな。


「…………」


 俺はまだ、ヴィオラとの約束を果たしていない。


 アイツらの安全を見届けていない。


「…………」


 でも、俺……まあまあ頑張った、よな?


 何とか守れた。


 これも、アルに貰えたお守りのおかげかな。




■title:繊三号にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


『ラートさんっ! ラートさんっ!! ラートさんっ!!』


 流体甲冑を纏い、走る。


 でも、ラートさんが遠い。


 繊三号下層ここよりずっと上に、ラートさんの魂が見える。


 そのラートさんの周りに、たくさん、タルタリカの魂が――――。




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:肉嫌いのチェーン


「邪魔すんな……!!」


 羊飼いは倒したっていうのに、まだ暴れている敵船に射撃する。


 だが、こっちの射撃以上に飛んできた砲撃に押される。


 マズイ。


 まだタルタリカがいるのに。


 このままじゃ、ラート達が――。


「――なんだ?」


 甲板上に倒れた状態で上空を見上げる。


 上空そこに何かいた。


 繊三号上空を、飛行機らしき影が高速で通り過ぎて行った。


 その飛行機から、「何か」が飛び降りてくるのが見えた。




■title:繊三号上空にて

■from:元テロリスト


「特佐! お待ちください、特佐っ!」


「うるせえ、邪魔ばっかしやがって! ちょっと行ってパッと倒してくるだけだ! その辺で待ってろ!」


 うるさい副官を押しのけ、輸送機から飛び降りる。


 飛び降り、目的地に――繊三号に向かう。


 敵がワンサカいる!


 聞いていた通りの化け羊タルタリカが、機兵の残骸を襲っている。


 襲ってるって事は、あそこにまだ生存者がいるのか?


 そいつは助けてやらねえとなぁ!?


「蹴散らせ! 神器解放・・・・ッ!!」



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