英雄召喚
■title:繊三号にて
■from:死にたがりのラート
「へ……へへっ……。やっぱ、出来るじゃねえかっ……」
フェルグスとアルが羊飼いと打ち合っている場所から離れる。
打ち合う音だけでわかる。
アルの参戦で大きく変わった。
妙案とは言えない思いつきだったが、上手くいった。隊長の持っていた通信機にアルとロッカとグローニャが憑依していた事がヒントになった。
1人で1機を操作するんじゃない。
役割分担し、2人で1機を操作・制御する。
フェルグスの近接戦闘能力は、巫術だけでは片付けられない才能だ。
混沌機関以外、全てフェルグスの思い通りに機兵を組めたら、フェルグスの才能を遺憾なく発揮出来る。<逆鱗>以上の性能すら発揮できるかもしれない。
だがフェルグス1人じゃ、「
アルなら、フェルグスを手伝える。
戦闘はフェルグスが担当。
流体装甲と混沌機関はアルが担当する。
息の合った兄弟のコンビプレーによって、機体の崩壊は完全に止まった。フェルグスが望む通りの機兵が形を保ち、さっき以上の速さで動き回っている。
それでもなお、敵の方が上手っぽいが――。
「っ、ぐっ……!!」
足がもつれ、顔面から地面に倒れる。
機兵の方は何とかなった。
俺の方は……身体から赤いものがボタボタこぼれっぱなしだ。でもまあ、まだ何とかなるだろう。まだ、意識はしっかりある。身体は動いている。
身体の操作がままならなくなっているが、まだ……戦える。
今日ほど、痛みが無いことを感謝した事はない。
「加勢……してやらねえと」
羊飼いを何とかしない限り、パイプもレンズも助けられねえ。
副長達が逃げ切るのも難しいかもしれない。
2人で足りないなら、もう1人分、力を足してやるんだ。
それで勝てなくても、持ちこたえれば勝ち目が――。
■title:繊三号にて
■from:使徒・■■■■■■
先程は、心に
だが、今は巫術師2人掛かりで機兵を動かしている。
私に対抗する体を作った。
心は最初からあった。体もこれで問題ないだろう。
『素晴らしい素質だ。少年達』
機体の崩壊が止まった事で、格段に動きが良くなった。
こちらの攻撃を大剣で受け流し、立ち向かってくる。
それだけでは我が燼器を止めきれないが、足らずは機動力で補っている。剣で時を稼いで回避し、欠けた剣は流体を注ぎ足し、即時修繕している。
それどころか――。
『喰らえ……!!』
『――――』
敵が間合いの外で大剣を振りかぶり、振り下ろした。
このままでは届かない。
そのまま見送りつつ、逆に一撃を入れる好機だが――。
『――――!』
敵の剣が
小癪な手を使う。
意図的に間合いの外から剣を振り下ろし、私の反撃を誘った。
だが、あのままでは反撃できなかった。
落ちてくる大剣の切っ先が伸び、私の胴体に傷をつけた。
『流体を操作し、さらに剣を伸ばしたか』
『オレの弟はスゲエんだ! これぐらい、余裕で出来るぜ!?』
戦闘機動は先程と同じ少年が担当している。
流体の操作は、後から来た巫術師が担当しているのだろう。
『よく合わせられるものだ』
流体の操作が僅かでも早ければ、もっと早く小細工が露見していた。
遅すぎても私に届かず失敗していた。
少年の意図を、もう1人の巫術師が完璧に読み取っている。
剣だけではなく、流体で造られた筋肉の動作も完璧に合わせている。少年が動くのに合わせて、流体を収縮・解放させて運動性能をさらに強化している。
『貴様は――いや、貴様らは、素晴らしい戦士だ』
ますます欲しくなった。
この者達を裏切らせれば、もっと上手く事を運べるだろう。
『素晴らしいが、
敵機の胸部から、流体が吹き出た。
流体が、血のように吹き出た。
■title:繊三号にて
■from:狂犬・フェルグス
『なっ……!!』
アイツ、いま、こっちの攻撃を回避しつつ、一撃入れてきたのか。
見えなかった。
速すぎて見えなかった。
つーか、その位置への一撃はマズい……!
『にいちゃん、ゴメン! こ、混沌機関が……!!』
『お前の所為じゃねえッ! オレが避け損ねただけだ……!』
いまの斬撃で、混沌機関をスパッと斬られた。
アルが咄嗟に混沌機関を動かしてくれたから、一撃でやられるのは避けた。
けど、マズい。流体が止まらねえ。
混沌機関がどんどん弱っていくのを感じる。
『心意気は悪くない。
敵が長い剣を軽く振った。
切っ先についていた流体が――こっちの流体が、地面に飛び散った。
『だが、技術が足りない。精神と肉体が十分でも、技術という骨子が無い』
『くそっ……!』
敵の方が強い。
巫術も、戦闘能力も遙かに格上だ。
2人がかりでも、無理なのか……?
■title:繊三号にて
■from:使徒・■■■■■■
ネウロン人
ネウロン人は、安寧の首輪に飼い慣らされた家畜だ。
この少年達は、多少は牙を取り戻しているらしい。
だが足りない。
何年か後には、私に勝る実力を手に入れるかもしれない。
だが、それは今ではない。
今の貴様らでは、錆びた私にすら勝てない。
『貴様らは私より弱い。だが、なかなか面白かったぞ』
『オレ達はまだ負けてな――』
『さらばだ』
横一閃。
奴らの行った小細工を返す。
刃を流体で延長し、敵機を横一文字に引き裂いた。
■title:繊三号にて
■from:狂犬・フェルグス
『――――』
光が奔った。
雷みたいな光が、横に奔った。
目で追うのがやっとだった。
今度こそ、完全に
■title:繊三号にて
■from:兄が大好きなスアルタウ
『っ……!』
混沌機関の傷口を、流体でギュッと固めて押さえる。
そうしていると、声が聞こえた。
『貴公は正しい』
『え――――?』
にいちゃんでも、敵でも、ラートさんでもでない声が聞こえた。
……男の人の声?
■title:繊三号にて
■from:狂犬・フェルグス
『この子達には「技」の骨子がない』
横薙ぎに振られた敵の剣。
それが折れていた。
オレ達に……届いてない?
こっちの
今まで、ずっと、こっちが一方的に折られていたのに。
オレやアルが何もしていないのに、剣が勝手に動いた。
『ならば、私が「技」を担おう。この子達が、私を必要としなくなるその日まで』
声が聞こえる。
……男の声か?
知らない男の声が、直ぐ傍から聞こえてくる。
『『だ、誰…………!』』
アルと一緒に、声を上げた。
その瞬間、機兵が勝手に動いた。
また勝手に動いて、敵の攻撃を回避し、後ろに飛んだ。
『呆けるな。兄弟。敵はまだ倒せていない』
『だから、誰だよお前!? オレらの機兵を乗っ取ったのか!?』
『ふ、巫術師ですか?』
『いいや、私は
誰だ。コイツ。
オレ達の傍に、誰かいる。
誰かが勝手に、機兵を動かしている……!
■title:繊三号にて
■from:使徒・■■■■■■
『――――』
完全に倒すつもりで剣を振ったが、迎撃された。
完全解放状態ではないとはいえ、燼器による一撃だ。
それを断たれ、追撃も回避された。
『誰だ……?』
また動きが変わった。
少年らしい拙さが、一切消えた。
まるで、歴戦の戦士のような風格がある。
『――――』
敵機兵の中に、魂は
新たに手練れの巫術師が憑依したわけではない。
敵はあくまで2人。
それなのに、向こうは何故かゴチャゴチャと喋っている。
まるでそこに
■title:繊三号にて
■from:狂犬・フェルグス
『前を向け。敵を見ろ。剣を構えろ、兄弟』
『誰だお前!? マジでどこから話しかけてきてんだよ!?』
『お前達の中からだ。2人で同時に巫術行使してくれた事で、繋がりやすくなっ――――避けろッ!』
『っ…………!!』
知らねえ男の声に言われるまでもなく、避ける。
羊飼いが襲ってくる。
本気で殺しにかかってきている。
それでも、何とかギリギリ避けて――。
『ひとまず、眼前の敵に対応しようか。兄弟。話はそれからだ』
『馴れ馴れしく話しかけてくんなッ! オレ様の兄弟はアルだけだ!』
『知っているとも。だが、今は私の力が必要だろう?』
声は聞こえる。
けど、魂は見えない。
この機兵に宿っているのは、オレとアルだけだ。
何でコイツの魂は見えないんだ?
誰かが通信機使って遠くから話しかけてきているわけじゃない。
『私の力は、まだお前達に継承されていない。ゆえに、手を伸ばせ』
『何に!?』
『見えるはずだ。真黒の紙が』
『――――』
見える。
一枚の紙が見える。
■title:繊三号にて
■from:兄が大好きなスアルタウ
見える。
一枚の真っ黒い紙が見える。
目をこらしてみると、何かがビッシリと書かれている。
大量の文字が書かれているから、真っ黒に見える。
『それに手を伸ばせ。そうすれば、お前達と私が完全に繋がる!』
『ワケわかんねーこと言ってんじゃねえ!!』
『――手を伸ばしたら、皆を守れますか?』
にいちゃんが叫んでる中、知らない人に問いかける。
その人の顔は見えない。声しか聞こえない。
けど、笑っているように感じた。
笑顔で「守れるさ」と言ってくれたように感じた。
『守るためには力が必要だ。汝、力を欲するか? ならばそれを掴め!』
『『――――』』
掴む。
にいちゃんと、一緒に。
掴んだ瞬間、また、知らない声が聞こえてきた。
『接触を確認――
どこかから、女の人の声が聞こえてきた。
『単一の
にいちゃんと、同じ
その紙はドロリと溶けた。
『
真っ黒い紙が溶け、真っ黒いインクみたいになって、ボクらの中に入ってきた。
そんな感触がした。
今のボクらは魂だけで、身体は船の方にあるのに――。
『ようこそ、連星の
貴方達が紡ぐ、新たな可能性を――――』
■title:繊三号にて
■from:狂犬・フェルグス
『繋がった! これで正式に力を渡せるぞっ!』
『だからテメーは誰なんだよ!? さっきの女の声、なんだよ!?』
なぜか嬉しそうな男の声にイラッと来る。
いや、イラッとしてる場合じゃねえ。
羊飼いが来る。
後ろに高台があって、もう下がる場所が――。
『構えろ兄弟! 早速、キツい一撃をお見舞いしてやろう!』
『勝手に決めんな!』
機兵が動く。
今度は、ちゃんとオレの意志通りに動いた。
けど、変だ。
オレ、何をして――。
『『露と滅せよ――』』
■title:繊三号にて
■from:使徒・■■■■■■
敵機の流体の流れが変わった。
先程と同じ、間合いの外からの刃の延長。
動きが明らかに変わったと思ったが、同じ技など――。
『『露と滅せよ――
違う。
同じ技ではない。
これは、むしろ、
■title:繊三号にて
■from:死にたがりのラート
「おわっ……!?」
アルとフェルグスが戦っている方が、急に光った。
光った後、周りの建物を吹き飛ばす
それも、斬撃の形をした一撃だった。
■title:繊三号にて
■from:使徒・■■■■■■
『…………!?』
敵の斬撃をまともに喰らった。
正面装甲がほぼ全壊に追い込まれた。
即死は避けた。即時修復可能。
だが、なんだ、今の攻撃は。
間合いの延長ではない。
『貴様ら、いま、
■title:繊三号にて
■from:狂犬・フェルグス
『オレら、いまなにやったんだ!? なんか出来たぞ!?』
『わ、わかんないよ、にいちゃんっ!』
わかんねーけど、身体が勝手に動いた。
アルが流体を練って、一番いい状態でオレの
あとはオレが上手くバランス取って放つと、斬撃が飛んだ。
敵がバカデカい雷を放った時の感覚と、よく似ていた。
アレよりずっと規模が小さいけど、今までで一番、羊飼いにダメージが入った。
オレ達が混乱していると、謎の男の声が聞こえてきた。妙に嬉しそうだった。
『先程のは我が剣技だ。魔力――もとい、流体を練り上げ、放つ剣技だ』
『お前がやったのか!?』
謎の声にそう聞いたが、「私ではない」と言われた。
『お前達がやったんだ。兄弟。私の業を
『意味わかんねえ!』
『諸々の事情は、後で説明しよう。……まずは敵を倒すぞ』
剣を構える。
謎の声の正体は、何にもわからねえ。
でも、何故か力がわいてくる。
どうすればいいのか、考える前に身体が動く。
オレとアルの中に、正体不明の
この
戦える。
これなら、勝て――――。
■title:繊三号にて
■from:死にたがりのラート
「今度はなんだよっ……!?」
地面が――繊三号が、大きく傾いていく。
崩れかけの機兵にしがみつき、何とか耐える。
ここだけ傾いているわけじゃねえ。
繊三号全体が、大きく傾いている……!?
■title:繊三号にて
■from:使徒・■■■■■■
『おわぁっ……!?』
地面が傾く中、敵に跳び蹴りを放つ。
敵はこちらの蹴りでバランスを崩し、滑り、繊三号の外縁部に落ちていく。
これほどの巨体。完全制御するのは難しい。
だが、一部の流体装甲を操作し、大量の装甲を形成して「重り」にする。
それによって繊三号全体を傾け、敵に隙を作るぐらいなら造作も無い。
傾かせ攻撃し、敵のバランスを崩したことで――。
『良い位置だ』
敵が、繊三号の中心部ではなく、外側を背負う位置に移動した。
この位置なら撃てる。
『――我は武士なり。侍る者なり』
■title:繊三号にて
■from:狂犬・フェルグス
『我は光なり。闇夜切り裂く灯火なり』
魂だけなのに、肌が「ぞくり」とする感触がした。
敵が
あの動作、さっきの攻撃だ。
さっきの雷が、また来る。
『我は
『っ…………!』
繊三号が急に傾き始めたから、上手く踏ん張れない。
機兵の足にトゲを生やし、それで何とか踏みとどまる。
あの雷をまともに喰らったら、今度こそ負ける。
何とか避けて、持ちこたえねえと……!
『アル! ギリギリまで引きつけて、ギリギリのところで避け――』
『ダメ!!』
アルの言葉に身体が固まる。
『避けたらダメ!』
『なんでだよ! あれ喰らったら――』
『ボクらの後ろに、
『――――』
傾いた繊三号から、後ろを見る。
オレ達の船が――星屑隊の船が見える。
オレ達の真後ろってことは、敵の雷の射線上にいる。
あの山羊野郎――。
『この位置に、オレらを誘導したのか……!?』
■title:繊三号にて
■from:使徒・■■■■■■
『我は
避けてもいいぞ。
避けられるものなら、避けてみろ。
船いる仲間達を、見殺しにするがいい。
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:肉嫌いのチェーン
「ああっ……。クソっ……!」
繊三号に、黒い稲光が灯る。
またあの
しかも、今度はオレ達の方に向けて――。
「先生とガキ共は――」
『何とか繊三号に逃げ込みました!』
「そうか」
じゃあ、アイツらは大丈夫だな。
こっちが吹き飛んだところで――。
■title:繊三号にて
■from:兄が大好きなスアルタウ
『おい、テメエッ!!』
にいちゃんが叫ぶ。
『力を貸せッ!!』
剣を構えつつ、叫んだ。
■title:繊三号にて
■from:贋作英雄
『力を貸せッ!!』
『承知』
元より、そのつもりだ。
この子達を助けるために、私はここにいる。
『何をすればいいか、わかるな?』
『ああ! アルも、力を貸してくれ!』
『うっ、うんっ!』
敵の雷撃の正体は、流体。
爆発的な流体の奔流だ。
対処のために、まずは――――。
『『露と滅せよ――』』
一の太刀を振るおうか。
■title:繊三号にて
■from:使徒・■■■■■■
敵機は踏みとどまった。
回避を捨てている。
だが、無駄だ。
貴様らごと、消し飛ばしてやる。
『罪人よ、音に聞け――――我は
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