人機一体



■title:繊三号にて

■from:死にたがりのラート


 何とか敵の攻撃を凌いだものの、フェルグスは未だ防戦一方。


 隊長の指示でフェルグスが立ち位置を変えると、敵はあの雷を再度放ってくる事はなくなったが……電撃を纏った刃で、フェルグスの装甲をスパスパ裂いている。


 ヴィオラの策が上手くいく前に、フェルグスが持たない。


 何か方法は――。


『ラートさん! 機兵……まだ使える機兵、ありませんかっ!?』


「まともに動きそうなのは、さすがに……」


 タルタリカ共が雷にビビって離れていった。


 おかげで機兵の残骸にも近づきやすくなった。


 だが、無傷の機兵はさすがに見つからねえ。


 アルと一緒に探しているんだが――。


「1、2発、射撃できそうなのがあるだけだ」


『それでいいです! ボク、それに憑依して戦います!』


 それじゃダメだ。


 多分、それだけじゃ勝てねえ。


 星屑隊の機兵対応班と第8巫術師実験部隊。そして敵から解放した機兵乗りの力を借りてもなお、勝てなかった相手だ。


 壊れかけの機兵が参戦したところで、一蹴されるのがオチだ。


「何か――」


 何かないか?


 俺の携帯端末に取り付いているアルに、「何か妙案がないか」と問いかける。


 問いかけようとしたが――。


「……いや、待てよ」


 あるじゃねえか。


 アルが憑依するのに、うってつけのものが!


 気絶しっぱなしのパイプを隠しつつ、アルに声をかける。


 今回の作戦が始まる前の事を――隊長がアル達を連れ、繊三号に潜入した時の事を思い出しつつ、「どうするべきか」をアルに語る。


『そ、そんな方法……。試したことが……』


「これしかねえ! アル、お前がフェルグスを助けるんだ!」


『ぼ、ボクがにいちゃんを? む――ムリですよ!』


「無理じゃない。お前なら出来る!」


『でも――』


「無理だと思っても、『無理じゃない』と言え!」


 パイプを隠した後、目的の場所に急ぐ。


「キツい時こそ不敵に笑え! 『出来る!』って笑え!」


『でっ、でもっ! ボクなんかじゃ、にいちゃんの足手まとい――』


「お前は強い!」


 足手まといになったりしない。


 フェルグスの力になれる。


「不敵に笑え! 自分を信じろ! 『面白くなってきた』って言いながらな!」


 アルなら出来る。


 コイツがいなきゃ、模擬戦でレンズに勝てなかった。


 コイツなら――いや、コイツらなら、勝てる!


 アルとフェルグスがいるからこそ、勝てるんだ!


「俺は信じる。お前らなら出来るって」


『――――』


「だから、お前も俺を信じてくれ」




■title:繊三号にて

■from:狂犬・フェルグス


『っ…………!!』


 敵の剣をこっちの剣で受けたのに、受けきれなかった。


 機兵の胴体ごと、敵の刃でバッサリと斬られた。


 さっきの雷を撃ってこないだけマシだけど、あの剣、防ぐことが出来ねえ。


 避けるしかねえのに……!


『ぐおっ……!?』


 敵の脚が縄のように振られた。


 流体を巫術で操作し、素早い蹴りでこっちを転ばせてきた。


 切り裂かれつつ、無様に転がりながら追撃を回避する。


 まだだ。


 まだ持たせないと。


 ヴィオラ姉の言っていた方法には、もうちょっと時間が――。


『フェルグスーーーーッ!!』


『――――』


 クソ忙しいのに、バカが来た。


 ラートが、生身で駆け寄ってきている。


 よりにもよって、敵の傍を駆け抜けて――。


『バカ!! 来んなッ!!』


『こいつを! 受け取れッ!!』


 バカが何かを投げてきた。


 投げた瞬間、羊飼いが剣を振り下ろした。ラートに向けて。


『バカ野郎ーーーーッ!!』


 ラートが投げてきた何かを受け取りつつ、羊飼いに斬りかかる。


 あの山羊野郎! ラートを殺しやがった!!




■title:繊三号にて

■from:使徒・■■■■■■


 鬱陶しい蝿が足下をうろついていたため、潰しにかかる。


 囮のつもりだろうか。私の気を引いて、隙を作ろうとしたのか?


『バカ野郎ーーーーッ!!』


『浅はかな』


 激高した少年が斬りかかってくる。


 何度やっても無駄――。


『――――』


 迎撃が失敗した。


 敵は突如、速度を上げ、剣を盾にしながら体当たりを仕掛けてきた。


 敵の勢いを借りながら後退する。


 何だ。今の速度。


 先程までと、まるで違う。


 異なるのは速度だけではない。


『――――』


 敵の姿が変わっている。


 先程まで流体が溶け出していたのに、止まった。


 流血の如く流れ落ちていた流体が、ピタリと止まっている。


 そして――。


『まさか…………』


 敵機の中に、2つの・・・の魂が見えた。




■title:繊三号にて

■from:狂犬・フェルグス


 死んだ。


 殺された。


 ラートの野郎が殺された。


 お……オレが強けりゃ、こんな事には――。


『にいちゃん、大丈夫! ラートさん、まだ生きてるよ!』


『えっ……?』


 直ぐ傍から弟の声が聞こえた。


 アルの言葉に突き動かされ、巫術の眼でよく確認する。


 生きてる。ラートの野郎、確かに生きてる。


 敵の攻撃で吹っ飛ばされ、倒れていたみたいだが、身体をガクガク震わせながらなんとか立ち上がろうとしている。


 そんで、オレに――いや、オレ達に・・・・向け、不敵な笑みを浮かべてる。そんなラートに向け、アルが「下がってください!」と叫んだ。


 その声は、オレの直ぐ傍から聞こえた。


 アルの魂が、オレの直ぐ傍に――オレの機兵に宿ってる。


『アル? お前、なにやった?』


『にいちゃんの機兵に憑依してるの! ラートさんが運んでくれたの!』


 さっき、ラートが投げたのはアイツの携帯端末だったらしい。


 それにアルが憑依していて、受け取ったオレの腕経由に憑依してきたらしい。


『流体装甲と混沌機関のお世話は、ボクがやる!』


 気づくと、機兵が溶けなくなっていた。


 オレの理想通りの機兵が立っている。


 アルが・・・機兵オレを立たせてくれている。




■title:繊三号にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


 ラートさんは言っていた。


 巫術師は、1つの物体に2人以上憑依する事も可能。


 隊長さんが繊三号に突入する前、隊長さんの持っていた通信機にボク達が憑依していた。3人で憑依しても問題なく憑依を維持出来た。


 それと同じことをすればいい。


 にいちゃんの作った機兵に、ボクも憑依する。


 ボクが混沌機関と流体装甲をお世話をする。


 そして、にいちゃんが機兵を動かす。


 巫術師2人で役割分担。それがラートさんの考えた妙案!


『ボクじゃ、にいちゃんの足を引っ張るかもだけど……! 頑張るから!』


『んなわけねえだろ』


 にいちゃんが口を開く。


 多分、その口元は不敵な笑みを浮かべている。


 そんな声色だった。


『お前が足を引っ張るなんて、ありえねえ』


『にいちゃん……』


『2人で……いや、皆で倒すぞ。アル! 装甲と機関の制御は任せた!』


『うんっ!』


 勝とう。


 2人で。皆で。



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