真白の使徒



■title:繊三号にて

■from:繊三号守備隊員


「っ、と……!」


 敵が素早い動作で短剣を投げてきた。


 弾き、防御する。


 その程度、どうってこと――。


「あ、れっ……?」


 俺の胸から、刃が生えている。


 なんだぁ、これ…………??




■title:繊三号にて

■from:死にたがりのラート


『ラートさん! 敵が移りました!』


「っ…………!」


 右手の散弾銃を捨て、斧を生成しつつ羊飼いとの距離を詰める。


 さっき、敵が流体の短剣を投げた。


 味方機はそれを弾いたが、おそらく、その拍子に憑依された。


 巫術師達はそれに気づいた。


 憑依された機兵はもう厳しいが、本体させ倒せば……!!


「喰らえッ!!」


 斧を振り下ろす。


 敵は、味方機兵に憑依中。


 つまり、本体ほんたいは無防備――。




■title:繊三号にて

■from:狙撃手のレンズ


「…………!?」


 羊飼いがダスト3の斬撃を弾きつつ、オレの狙撃も回避した。


 憑依中のくせに、何で本体で動ける……!?


 いま、機兵を憑依で奪っているくせに――。


「もう本体に戻ったのか!?」


『戻ってないよ!? まだ憑依続けてる!』


 巫術の眼で確認したチビが、そう教えてくれた。


 アイツは、普通の巫術師とは違う。


 遠隔憑依なんて反則技を使える時点で、それはわかっていた。


 けど、さらに反則技を持っていたのか。


『敵ちゃん、憑依しながら本体も動かせるんだ!』


「マジか……!」




■title:繊三号にて

■from:エルフの機兵乗り


『味方機が乗っ取られた! 近づくな!』


「どういう事……!?」


 短剣の攻撃を弾いた機兵が、何故かこっちに襲いかかってくる。


 ついさっきまで味方だったのに、何で……!


「きゃっ!?」


 銃撃を防御していたら、バランスを崩した。


 羊飼いが剣を振るっていた。足の関節を切られた。


 まずい、これじゃ逃げられない――。


「ちょっ! 何をして……!」


 乗っ取られたらしい味方機が、覆い被さってきた。


 抵抗したらあっさり押しのける事ができたけど、こっちの機兵は壊れたまま。


 このままじゃ良い的――。


「っ……ぶっ…………?!」


 操縦席の壁が蠢き、そこから剣が生えてきた。


 それが、私の喉を掻ききっ…………、――――。




■title:繊三号にて

■from:甘えんぼうのグローニャ


『わっ、わっ……!?』


 羊飼いちゃんが、どんどん憑依先を変えていく。


 1機、2機とやられて、その中にいた魂が消えていく。


『ダメッ! やめて!』


 狙撃銃で狙撃したけど、簡単に弾かれた。


 な、なんでっ……!? なんでここまで強いの!?


 こっちの方が、数が多いのにっ! 皆、がんばってるのにっ!


『ダメっ!』


 また1つ、味方の機兵が憑依で取られちゃった。


 こ、このままじゃ…………。




■title:繊三号にて

■from:死にたがりのラート


『た、助けてくれぇっ! 操縦できねえッ!!』


「ぐっ…………!」


 また1機、味方機兵が乗っ取られた。


 下手に撃つことが出来ないのに、そいつが俺に襲いかかってくる。


 体当たりを回避しつつ、足関節を切り、転倒させる。


 これで行動不能に追い込んだが――。


『ぎゃあああああああああッ!!?』


「くそっ……!」


 もう1機、アル達が解放してくれた機兵が羊飼い本体にやられた。


 蹴り倒され、操縦席に刃を叩き込まれた。


 瞬く間に戦力が半減した。




■title:繊三号にて

■from:使徒・■■■■■■


『残り5機』


 敵機から怯えが伝わってくる。


 動きに迷いが生じている。


 巫術は対兵器戦闘で強力な「矛」になる。


 ただ、弱点もある。


 普通の巫術師なら、憑依中は本体を動かせない。


 私は動かせるが、貴様らには無理だ。


 私に、巫術師としての弱点は無い。


『続けるぞ。抗え』


 貴様らには、それしか出来ん。




■title:繊三号にて

■from:死にたがりのラート


「ロッカ。パイプの機兵に移ってくれ!」


 数で押し切るつもりだったが、見立てが甘かった。


 機兵の数を減らしても、対巫術の防御を固める。


「アル、ロッカ。お前達は対巫術防御に専念してくれ」


『『了解!』』


 ロッカがダスト4に移り、機兵1機が沈黙する。


「グローニャ、お前もレンズに――」


『必要ねえ。近づかなきゃ、オレは大丈夫だ』


「でも……」


『ダスト3、この場の仕切りはオレに任されてるんだ。従え』


 レンズは対巫術防御を拒み、独りで戦う道を選んだ。


 確かに、近づきすぎなければ大丈夫のはず。


 敵の遠隔憑依は、避雷針で封じている。


 さっきまでの攻撃は攻撃経由の直接憑依だ。


 戦力もまだある。


 いま動いている機兵はあと4機だけだが、繊三号の防衛設備がある。


 対策はした。したけど……それでも正面から押し切られるのかよ……!


『ダスト3、ダスト4。近づきすぎるなよ』


『いや、これはもう捨て身で行かなきゃ』


 パイプの言う通りだ。


 俺とパイプには、アルとロッカがついている。


 一瞬で機兵を強奪される事はない……はずだ。


 即時強奪されなきゃ、抵抗の余地はある。


「大きな隙を作る。ダスト2、グローニャ。後は頼む」


『わかった。だが、指定地点に誘導してくれ。そこだと少し、位置が悪い』


 事前の取り決め通り、アレを使う。


 二重狙撃で、羊飼いを仕留める!




■title:繊三号にて

■from:狙撃手のレンズ


 繊三号の防衛設備の援護射撃や防壁を活用しつつ、ダスト3とダスト4が羊飼いに挑みかかる。


 敵が防衛設備の流体生成装置を直接破壊していくため、繊三号からの火力支援は散発的なものになりつつあるが……まだ使える。まだ頼れる。


『レンズちゃん! ラートちゃん達がやられちゃうよぅ!』


「まだだ。お前はもう、本命の狙撃まで撃つな」


 チビの射撃技術うでまえは、敵にも開示した。


 射撃技術だけに限れば、チビはオレ並みに撃てる。


 敵もそれを理解したはずだ。


 理解し、狙撃を警戒しているはずだ。


「その位置をキープしろ。そこがいい」


 警戒しているからこそ、位置をよく把握している。


 敵は巫術師ドルイド。巫術で魂の位置を把握してくる。


 狙撃手おれたちの位置も完璧に把握し、いつ撃たれても対処できるよう備えている。流体装甲と武器で対応してくる。


「狙撃手の仕事は、弾を当てることじゃない」


『…………!』


「味方を勝たせるのが、狙撃手の仕事だ」


 ラート達が追い詰められ、焦っているチビに説く。


「だから、お前はまだ撃つな。味方を信じろ」


 奴らが絶好の機会をくれる。


 それまで潜む。


 仕込み・・・はもう、終わってる。




■title:繊三号にて

■from:使徒・■■■■■■


 狙撃砲の狙撃手。


 狙撃銃の狙撃手。


 2人の狙撃手が潜み始めた。


 だが見えている。巫術の眼が魂の位置を捉え続けている。


 仮に煙幕を張ったところで無駄だ。無意味だ。


 無意味だが……。


『やはり、本命は狙撃――』


 四方に厚い防壁が立ち上がる。


 私を逃がすまいと、檻のように防壁が立ち上がる。


 防壁の向こうから、前衛2機が仕掛けてくる。


 そのままだと防壁にぶつかるが――。


『――――』


 防壁が「どろり」と溶けていく。


 液状化した流体の中を突っ切りつつ、前衛2機が2方向から来る。


『小癪』


 弱い方の前衛の機銃を受けつつ、蹴り飛ばす。


 もう一機に対しては刃を振るい、断つ。


 敵の斬撃を右の刃で受け流しつつ、すれ違いざまに左の刃を振り抜く。


『事を焦ったな』


 厄介でやりがいのある前衛の機兵を、腹から真っ二つにする。


 突撃してくる直前、装甲を厚く変えていたが、隙間があった。


 そこを断った。


 これで残りは実質3機――。




■title:繊三号にて

■from:死にたがりのラート


「やれっ! スアルタウ!!」


『はいっ!!』


 距離は詰めた。


 重装甲に変えたフリをしつつ、装甲の内側に貯めていた未成形の流体を辺りにブチ撒けつつ、後はアルに頼む。


 アルが大量の流体を巫術で操り、大量のワイヤーを作り上げた。


 それを使い、羊飼いを拘束しにかかる。


 俺も、ワイヤーを引いて拘束を強化する。


「今だ! やれッ!!」


 動きは止めた。


 いまが、狙撃トドメの好機!




■title:繊三号にて

■from:使徒・■■■■■■


『小癪と言った』




■title:繊三号にて

■from:狙撃手のレンズ


「――――」


 ラート達が作った隙を狙い、撃った。


 流体のワイヤーが敵の腕を絡め取り、武器による防御を封じてくれた。


「…………!?」


 だが、弾かれた。


 新しい腕・・・・を生成し、それで狙撃砲の一撃を弾きやがった。


 新しい流体の腕は破壊したが、敵本体はほぼ無傷。


 オレの狙撃は失敗した。


 予想通り・・・・失敗した。




■title:繊三号にて

■from:使徒・■■■■■■


 貴様らの目論見はわかっている。


 本命は狙撃手。


 だから、狙撃手達のために好機を作りたがるとわかっていた。


 結末ゴールがわかっていれば、逆算して経路ルートを読めばいい。


 迷路と同じだ。結末がわかれば、逆算で手立てを予想できる。


『――――?』


 わかっていた。


 だが、1つ予想外の出来事が起きた。


 予想通り、狙撃砲の一撃が来た。


 だが、もう1人は・・・・・撃ってこなかった。


 建物の陰に隠れ、止まって――――。




■title:繊三号にて

■from:狙撃手のレンズ


「お前の負けだ」




■title:繊三号にて

■from:甘えんぼうのグローニャ


『こっちの勝ちだっ!』




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