理外の剣術



■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:肉嫌いのチェーン


「フェルグス、まだ行けるか!?」


『オレは戦えるけど、ヴィオラ姉が!』


「あっちは機兵対応班に任せておけ! それよりこっちが――」


 船への着弾音。


 嫌な金属音の後、激しい爆発が響いた。


 羊飼いが退いた後、敵艦隊が一気に攻撃的になった。


 今までは本気じゃなかったのか? 砲弾の命中精度はそこまでじゃねえが、さっきまでとは打って変わって、殺す気で撃ってきている。攻撃の量が違う。


 隕鉄ふねの状況はかなり悪い。


 羊飼いの強襲で船の各所が悲鳴を上げている。


 まだ何とか沈んでいないが――。


「副長。船底の流体装甲展開装置に不具合発生中! 浸水も発生しているのに、流体装甲による補修が出来ません!」


「っ……!」


 このままじゃ船が沈む。


 いや、多分、最終的に沈むのは避けようがない。


 流体装甲で応急処置しようが、混沌の消費が追いつかなくなる。流体装甲で塞いだところで、一時的に誤魔化すことしかできない。


 というか、敵の攻撃が激しくて、応急処置する暇すら――。


「キャスター先生! ガキ共を頼む。最悪、ガキ共を連れて船外に逃げてくれ!」


 逃げたところで砲撃の雨が降ってくるが、まだ機兵がある。


 機兵なら何とかガキ共を船外に逃がせる可能性はある。最悪、海底経由で逃げてもらえばいい。……逃げられる人数はかなり限られるが。


 いま、巫術師が倒れるとマズい。


 繊三号における羊飼いとの戦闘に、巫術師の助力は必要不可欠だ。


「フェルグス。いざとなったら機兵か短艇ボートに移って、テメエらの身体とキャスター先生を避難させろよ」


『いざとなったら、だよな!? 敵を倒して、船を奪えばいいんだろ!?』


「そうだ。頼むぞ。向こうに加勢したいだろうが――」


『この状態でアンタらを置いて行けるかよ。……アル達なら大丈夫のはずだ』


 苦しげなフェルグスの言葉に同意する。


 そうだ、大丈夫のはずだ。


 今のところ、大筋は予定通りだ。


 船がここまでやられるのは、計算外だが……対羊飼いの本命はオレ達じゃなくて、機兵対応班と第8巫術師実験部隊。


 そして、繊三号の防衛設備だ。




■title:繊三号にて

■from:星屑隊のパイプ


 羊飼いとの戦端が開かれる。


 敵が強奪した機兵は、大半を解放するなり破壊するなりした。


 眼前の敵機兵は1機のみ。羊飼いだけ。


 こちらには第8の奮闘により、救った機兵乗りが4名いる。


 僕もダスト2とダスト3も十全の状態で戦える。


 スアルタウ君、グローニャさん、ロッカ君も敵から奪った機兵で戦える。


 10人の機兵乗りがいるんだ。これなら勝てるはず――。


『ロッカ! テメエ! ボサッと突っ立てる場合か!?』


 ダスト2の罵声が響く。


 羊飼いに向けて射撃しつつ、ロッカ君の機兵を見る。


 確かに動いていない。ロッカ君の機兵がピクリとも動いていない。


 まさか、こんな時にトラブル――?




■title:繊三号にて

■from:狙撃手のレンズ


 10人でかかるはずが、1人動いてねえ。


 ロッカの機兵が、炎上する隕鉄ふねを見て固まっている。


 まさか、羊飼いが船を襲った時に――。


「副長! ガキ共の身体は無事なんですか!? ロッカの奴、死んだんじゃ――」


『いや、そんなはずはない。全員無事だぞ!?』


 じゃあ、何でだ?


 アイツは何で動けない。




■title:繊三号にて

■from:甘えんぼうのグローニャ


『ロッカちゃん……?』


 ヴィオラ姉が地下に連れて行かれた。


 敵もいて大変なのに、ロッカちゃんが固まってる。


 魂は見える。ちゃんと生きてるはず。


『あっ、まさか――』




■title:繊三号にて

■from:水が怖いロッカ


『ぁ、ぅ――――』


 沈む。


 船が沈む。


 オレの身体、海の中に沈んじまう。


 このままじゃ、父さんと母さんみたいに死んじまう。


 アニキにも会えなくなる。


 もう、謝ることさえ出来なくなる。


『――――』


 皆が何か言ってる。


 大変なのはわかる。


 オレが、動かないと。


 敵は巫術師だ。巫術師のオレも戦うべきなんだ。


 わかってる。わかってるのに……!


『――カ! ロッカ!!』


 声。


 アイツの声が聞こえた。




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:不能のバレット


「大丈夫だ! 心配するなッ!!」


 額の血を拭い、通信機に向けて叫びつつ、船内を走る。


 船のダメージコントロールを急ぐ。


「船は、絶対に沈ませない! お前達も、溺れさせたりなんかしない!!」


『ば、バレット……?』


 流体装甲の生成に不具合が生じている。


 そのうえ、敵の攻撃が激しい。


 フェルグスも敵の攻撃を捌くので手一杯で、応急処置に手を回す余裕がない。


 けど、それが何だ。


 交国軍は巫術師無しでずっと戦ってきたんだ。


 巫術師が手一杯なら、交国軍人おれたちが頑張ればいいだけだ!


「俺達が船を持たせる! 沈ませない! まだ戦える!」


 これは俺達の船だ。


 アイツらが帰ってくる場所だ。


 燃えさかる炎を消し、浸水箇所を可能な限り塞ぎにかかる。


「情けねえけど、俺には船のダメコンぐらいしか出来ねえ……! だから頼む! 戦ってくれ! み……皆を、助けてくれっ!」


 声が震える。


 情けない。


 けど、俺には……これぐらいしか――。




■title:繊三号にて

■from:水が怖いロッカ


『――わかった!』


 バレットも戦ってる。


 アイツ、戦うの怖いくせに!


 ホントは、直ぐにでも逃げ出したいはずだ。


 溺れたり、炎に焼かれたり、砲弾で死ぬかもしれないのに――。


『皆ごめん!』


『大丈夫大丈夫っ! 頼りにしてるぜ、ロッカ!』


 前で戦っているラートに合流すると、ラートが笑ってそう言ってくれた。


 オレはこっちで戦うしかない。


 いま、自分の身体に戻る余裕はない。


 オレの身体のとこまで海水が来たら、泳ぐことも出来ず溺れ死ぬんだろう。


 けど、大丈夫。


 大丈夫なんだ。


 向こうには、バレットがいる。


 頼りになる整備士がいるんだ。だから絶対、船は大丈夫……!




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:整備長のスパナ


「こりゃあ、間違いなく沈むねぇ」


「整備長!? なんでそんなこと言うんですかぁっ!?」


 ずぶ濡れのバレットが情けない声を出している。


 事実だよ。船は間違いなく沈む。


 羊飼いの攻撃で致命傷を負ったからね。


 流体装甲で応急処置は出来ても、壊れた船体を完全修復する事は出来ない。


 混沌が尽きたらそこで終わりさ。


「副長。提案だ。船を一度沈めよう」


『なに言ってんすか整備長!? 何とか持たせてくださいよ!』


「持たせるための提案だ。船をもう一度、潜水艦に変えさせな」


 もう一度、海に潜らせる。


 流体装甲で船を多い、潜水艦に変形させる。


 色々と出来る流体装甲でも、こういう使い方は想定されていないが……こっちには巫術師がいる。フェルグスがいれば色々と船をこねくり回せる。


「海中で立て直すんだよ。海水で敵の砲撃の威力を減衰させて凌いで、海中でダメコンやって、もう一度戦える状態まで戻す」


『再浮上可能なんですか?』


「フェルグスがいれば大丈夫さ。やれるよ。海水に邪魔されない形で流体扱うしね」


 敵が爆雷投下してきたらキツい。


 だが、タルタリカはそこまで柔軟に対応できるのかねぇ。


 馬鹿の1つ覚えで砲撃してくるのがオチだろう。


 羊飼いの命令で爆雷を生成してくるかもしれないが、直ぐに出来ることじゃない。ある程度は猶予がある。


 副長とフェルグス達に潜行準備を任せ、手早く復旧計画を組み立てる。


 情けない顔をしたバレットが「俺、バレットに船は沈ませないって約束したんですけど……」なんて言ってきたが、「気にするな」と返す。


「向こうは向こうで手一杯だ。黙ってりゃバレないよ!」


「えぇ~っ……!?」


 船が最終的に沈むのは避けられない。


 けど、別にいいのさ。


 船ならまた作ればいい。


 人間と違って、金をかけて設計図通りに作ればいいんだからね。




■title:繊三号にて

■from:死にたがりのラート


「下手に近づくなよ! 接触したら、一瞬で乗っ取られる!」


 経験者として、解放した機兵乗り達に再忠告する。


 斬り合いは避ける。とにかく射撃戦に徹する。


 憑依が怖いだけじゃなくて、誤射も怖い。


 普段から連携して戦ってきた星屑隊おれたちなら、誰かが前に出つつ、別の誰かが射撃しても誤射はそうそう起きない。たまにやるけど!


 基地で解放した味方機兵乗りとは、今日が初対面。


 顔すら合わせた事がない。


 そういう奴らと近接戦闘含めた連携をやるのは難しい。最悪、誤射覚悟でやらないといけない事もあるが……そりゃあくまで最終手段だ。


『ラートさん! ヴィオラ姉ちゃんが繊三号の奥深くに連れて行かれてます!』


「魂は見えるんだな!?」


『はいっ!』


「なら生きてる。それならまだ救える……!」


 羊飼いが何で、ヴィオラを殺さず捕まえたのかはわからん。


 わからんが、生きているなら取り返せる。


銃身形成バレルロード散弾装填スキャッター


 両手に散弾銃を生成し、連射する。


 他の機兵もそれぞれの武器を連射し、羊飼いに弾丸の雨を降らせている。


 だが、敵は致命傷を受けていない。


 こっちの立ち位置を見ながら流体装甲を水のように変化させ、装甲の形を適時変えている。傾斜を作り、弾いている。


 多少、流体装甲が削れたところで、新しい流体を補充して直している。


『こ、このバケモノ、倒せるのか!?』


「行けるさ! 敵の流体にも限りがある! このままでも削りきれる!」


 弱気なことを言う友軍機を元気づける。


 確かに致命打は与えられていない。だが、確実に流体を削れている。


 今は、俺達の射撃に集中させればいい。


 敵の処理能力に負荷をかけていけば、本命が通る。


 その本命だんがんが放たれる。




■title:繊三号にて

■from:甘えんぼうのグローニャ


『行くぞ』


『うんっ!』


 レンズちゃんの合図こえ


 ダイジョーブ……グローニャ、カンペキにできるよっ!




■title:繊三号にて

■from:使徒・■■■■■■


 正面からの鋭い狙撃。


 それをかろうじて回避したが、その後に飛んできた狙撃ものは無理だった。


『良い腕をしている』


 最初の狙撃を囮に回避行動を取らせ、背後から本命の狙撃が突き刺さった。


 優秀な狙撃手が2人いる。


 かなり重い一撃だった。


 だが――。




■title:繊三号にて

■from:狙撃手のレンズ


「…………!?」


 あれを防ぐかよ……!!


 グローニャの狙撃を囮にし、回避行動を取らせる。


 その回避先を読んで狙撃砲を撃ったのに、こっちを見ずに剣で防御した!


 さすがに剣はブッ壊れたが、砲弾を見事に逸らされた。


 奴本体は全くの無傷だ。バケモノめ……!


『いいぞ、ダスト2! その調子で頼む!』


 一番負担のデカい前衛を張っているダスト3が――ラートが敵の攻撃を回避しつつ、世辞を飛ばしてきやがった。


「武器を一時的に破壊しただけだ。その武器も、もう再生成しやがった」


 流体装甲があれば武器も修復できる。


 そのうえ、奴の修復はやけに早い。


 おそらく巫術で流体形成を補助し、通常よりも早く再生成したんだろう。


『だが、敵の流体は削れてる。敵にとってもテメエの狙撃砲いちげきはキツいはずだ。綱渡りを強要してやってくれ。絶対にいつか当たる!』


「わかってる。わかってるけど……!」


 こっちは10機で取り囲んでいるんだぞ。


 流体装甲の防御があっても、普通の相手ならもう倒してる。


 敵の操縦技能は、オレ達を上回っている。


 こっちもこっちで綱渡り中だ。


 敵の振るう切っ先がかすっただけで、憑依されかねない。


 憑依されたら一発アウトだ。


 それに、敵は羊飼いだけじゃねえ。


「巫術師! 周囲のタルタリカは――」


『近づいてきません! 遠巻きにボクらを見てます……!』


「舐めてやがんな。タルタリカ無しでオレ達に勝てるってか……?」


 敵はまだ全力を出していない。


 ガチで勝ちに来るなら、タルタリカの群れもけしかけてくるはずだ。


 それなのに、タルタリカは戦闘に参加してこない。羊飼いが来るまではオレ達に襲いかかってきてたのに、今は遠巻きに見ているだけ。


 闘技場の観客みたいに、オレ達を包囲しているだけだ。


『舐められてるなら、そこが付けいる隙になる。前向きに行こうぜ!』


「ケッ! 仕方ねえ、油断の代償は取り立ててやるか……!」


 こっちは機兵10機だけじゃねえ。


 他の戦力もあるんだ。火力で押し切ってやる……!




■title:繊三号にて

■from:使徒・■■■■■■


 悪くない状況だ。


 錆びた我が身を研ぐのに、ちょうど良い研石達がやってきた。


 果敢に挑みかかってくる前衛ラート。良い腕をしている。


 斬りかかろうにも、味方の攻撃も利用して私を止めてくる。私が他の機兵を倒そうと動くと、私の背中に容赦なく散弾の雨を降らせて妨害してくる。


 他の機兵を倒すフリをして油断させ、斬りかかろうにも完璧に動きを読まれている。今まで会った交国軍の中で、一番優秀な兵士かもしれない。


 それと、2人の狙撃手が厄介だ。


 立ち回りは拙いが、射撃能力だけは本物の狙撃手グローニャがチョロチョロとうろつき、ちょくちょく狙撃してきている。


 振るう得物は狙撃銃。


 撃たれた後でも流体装甲を操作し、受け流すことは出来るが……常に狙撃を警戒しないといけないのは面倒だ。怠ると大きな代償を支払う事になる。


 もう1人の狙撃手レンズが一番恐ろしい。


 振るう得物は狙撃砲。


 威力は申し分ないが、使いづらい得物だろう。だが、それを感じさせない立ち回りで、常に圧力プレッシャーをかけてくる。


 チョロチョロ動き回っている狙撃手と違って、狙撃の位置取りが完璧だ。


 私に巫術による感知がなければ、とうの昔に胴体を射貫かれているだろう。狙撃砲による狙撃は、そう簡単には受け流せない。


 機兵乗りとして警戒するのは、その3人だろう。


 他は機兵乗りは平凡だ。足を引っ張っている者もいる。


 だが、前衛ラートや厄介な狙撃手レンズが凡人共を上手く援護している。援護しつつ、奴らの事も活かして私を追い詰めてくる。


 久しく本物の戦場から遠ざかり、錆びていた身が研磨されていくのを感じる。


 微温湯ぬるまゆではなく、灼熱こそが私を磨き、剣として蘇らせてくれる。


『貴様ら。邪魔立てするなよ』


 タルタリカ共を下がらせ、割り込ませないようにしておく。


 いまはわたしを磨くことが優先だ。


 地上の敵は私だけで十分。手持ち無沙汰で地下に入っていける者は、地下で暴れている何者かを始末しに行け。


 重要な目的の1つも確保した以上、多少の遊びは許されるだろう。


『――――』


 効率的に勝利を狙うなら、先程の船を完全に沈めるべきだったのだろう。


 だが、何故かそれが出来なかった。


 あの船には巫術師の本体が乗っていたはずだ。


 おそらく、4人ほどいる。


 うち3人が、いま相対している機兵のどれかにいる。


 本体を壊したところで、しばらくは憑依先で生き足掻く事が出来るが、遠からず死ぬのが巫術師だ。それも巫術師の弱点だ。


 奴らも私の本体を狙っているのだろう。


 だから、効率的に勝利するなら本体を潰すべきだった。


 だが、何故か――。


『――――――――いや、大したことではないか・・・・・・・・・・


 今は眼前の好敵手とぎいしを楽しもう。


 ほどほどのところで切り上げ、地下の援護に向かおう。


 あの子を避難させた区画と、地下で暴れている何者かがいる区画は別の場所だが、あの子の重要性に気づいて奪還に来る可能性はある。


 地上の敵も、地下の敵も、全て私が殺してやる。


 目の前の機兵達は、3機を除けば大した相手ではない。


 大した相手では、無いはずだが――。


『……貴様は、なんだ?』


 平凡どころか、やや劣っている機兵が少し気になる。


 射撃は素人に毛が生えた程度。


 体捌きは悪くない。おそらく、巫術師だろう。


 しかし、概ね素人だ。


 良い研石になる3人とは比べものにならないほど弱い。


 直ぐ蹴散らせるはずだ。


 だが、妙に気になる。


 貴様は何だ。何者だ?




■title:繊三号にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


『うっ…………』


 羊飼いに、見られている感じがする。


 この感じ、雷がゴロゴロ鳴ってる時と……似た感じ。


 怖い。


 怖くて、憑依を解除しちゃいそう……。


 でも、そんなのダメ。


 いま逃げたら、絶対にダメ!


 にいちゃん達が船を守ってくれてるんだ。


 ボクも必死に戦わないと。


 勝たないと、ヴィオラ姉ちゃんを助けられない。


 ボクらが勝たないと――。


『ぁ――――』


 巫術の眼で、敵を観る。


 敵の魂が「ぬらり」と動いた。


 機兵から足下・・に魂が移り、魂が地を走り始めた。


 繊三号は大きな島。


 人工の・・・島。


 だから、地面そこに憑依可能……!!


『皆、跳んで!!』




■title:繊三号にて

■from:死にたがりのラート


 アルの合図で跳ぶ。


 地面から離れる。


 そうだ。そうだよなぁ。


 やっぱり・・・・、その手は使うよなぁ!?


「全機、一斉射撃・・・・!!」




■title:繊三号にて

■from:使徒・■■■■■■


『ぬ……?』


 殆どの敵が一斉に、跳躍した。


 僅かに遅れた機兵もあったが、こちらの憑依が届く前に逃れた。


 空に逃れ、一斉に射撃してきた。


 急ぎ、防御する。


 致命傷は負わずに済んだが、斉射で流体装甲を一気に剥がされた。


 機兵の射撃だけでも、それなりのダメージが入ったが――。


『邪魔だな』


 繊三号の防衛設備が射撃してくる。


 流体装甲によって砲台や銃座を作成しているため、繊三号の内側に向けて射撃も可能。この戦闘に割り込んでくる事も可能となっている。


 繊三号からの射撃は、そこまでの圧はない。


 変幻自在の防衛設備とはいえ、出せる位置は決まっている。把握している。


 狙撃砲使いの狙撃手の方が、よっぽど怖い。


 ただ、機兵10機以外にも撃ってこられると少し面倒だ。


 流体装甲の防壁を作り、機兵達を守ってくるのも面倒だ。


『貴様は黙っていろ』


 防壁に剣を突き刺し、力を行使する。




■title:繊三号にて

■from:死にたがりのラート


『機兵部隊! 注意してくれ! そこの防衛設備が焼かれた・・・・!』


 繊三号の防衛設備制御室にいる軍人から、そんな警告が飛んできた。


 羊飼いが防壁に剣を突き刺した次の瞬間、奴が光った。


 奴が黒い電撃を纏った次の瞬間、繊三号の一部の流体装甲形成装置に不具合が発生したらしい。あくまで一部で、まだ使える場所はあるが――。


「電撃で、回路を焼き切ったのか……!?」


 そんな攻撃を機兵が使うなんて、初めてみた。


 隊長が警戒していた巫術以外の切り札か!




■title:繊三号にて

■from:使徒・■■■■■■


 基地の流体装甲を程々に黙らせておく。


 神器を失い、弱くなった身とはいえ、この程度は簡単にできる。


 流体装甲そのものを破壊しても、混沌が尽きない限りは再生する。


 だが、装甲を形成する装置を破壊したら、混沌があっても再生は出来ん。


 あまりやりすぎると、繊三号が弱体化してしまうが……最終的に放棄するつもりだ。防衛設備を全て壊してしまっても問題はない。


 私がいる。


 私が敵を倒せば良い。


 しかし――。


『先程の回避、見事だ』


 繊三号経由で直接憑依しようとしたが、見事に回避された。


 おそらく、敵巫術師が私の魂をよく観ていたのだろう。


 こちらの手も、当然予測済みか。


 では、これはどうだ。


 あの子から、教わっているか?


『――丘崎新陰流』


 剣を逆手で構え、振る。


旋糸せんし




■title:繊三号にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


『えっ?』


 気づいたら、目の前に地面が迫っていた。


 転んだ?


 なんで?




■title:繊三号にて

■from:死にたがりのラート


「アルっ……!?」


 敵が剣を振るった次の瞬間、アルの機兵が倒れた。


 両足と右腕が、叩き切られていた。


 いや、ホントに切られたのか……!?


 羊飼いとアルの機兵は、20メートル以上離れていた。


 剣も届いていないはず。


 射撃ならともかく、剣が届くはずがない!




■title:繊三号にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


『わっ、うっ……!?』


 機兵が壊れた?


 敵が来る。


 振り上げた剣で、ボクを襲ってきて――。


『アル! こっちに来いッ!!』


『…………!!』


 まだ動く手で、流体のワイヤーを投げる。


 ラートさんの機兵に向かって投げて、ワイヤー経由で憑依先を移す。


 ボクがラートさんの機兵に移った次の瞬間、羊飼いの剣が、ボクが使っていた機兵を破壊した。多分、機兵の混沌機関が破壊された。


『ご、ごめんなさいっ! ボク、やられちゃって……!』


「大丈夫だ。謝らなくていい。今のは敵が上手――」


 羊飼いが再び剣を振るった。


 こっちに向けて。


 向こうの剣は全然届いていないのに、ラートさんの持っていた武器が切られた。




■title:繊三号にて

■from:死にたがりのラート


「…………!?」


 両手の散弾銃と、機兵の指が切れ、飛んだ。


 切られた衝撃で散弾銃が爆発する。


 マズい、と思いながら後退したが、爆煙の中から羊飼いが来て――。


「――――!」


 こちらに斬りかかってきた羊飼いが、横に向けて剣を振るった。


 ダスト2がいる方向。


 狙撃砲の一撃を剣で迎撃した。


 敵は剣を再生しつつ、俺から距離を取ってくれた。


 ダスト2の狙撃がなけりゃ、俺も致命傷負ってたな……!


『ダスト3。無事だな』


「何とか! 助かった!」


『あの野郎、さっき、何しやがった? 間合いの外に攻撃が届いてたぞ』


「わかんねえけど――多分、斬撃を飛ばしたんだ」


『お前、正気か?』


「それなりに! そうとしか言えねえよ!」


 敵が剣を振った次の瞬間、俺達の機兵が斬られた。


 敵の剣そのものは届いていなかったが、斬撃だけが届いた感覚だ。


 ただ、そこまで重い斬撃には見えなかった。


「全員、剣の間合いの外でも注意してくれ! 敵は斬撃を飛ばしてくるぞ」


『飛ぶ斬撃とか……どうやってんだ!?』


『防御する方法はあるのか……!?』


「流体剣をそのまま叩き込まれるよりはマシだ。剣の形をした銃だと思ってくれ。射線上に盾を構えれば、防ぎきれるはずだ」


 破壊されたアルの機兵を見つつ、そう言う。


 多分、敵の斬撃はそこまで痛くない・・・・


「アルの機兵は関節部をキレイに斬られてる。脆い部分なら断ちきられるが、装甲でしっかりと防御したら大丈夫のはずだ! 多分!」


『多分って……!』


「敵を過剰に恐れる必要はない。冷静に対処していこうぜ!」




■title:繊三号にて

■from:使徒・■■■■■■


 厄介な前衛に向け、再び旋糸を放つ。


 だが、今度は防がれた。


 比較的破壊しやすい武器を狙ったが、こちらの「飛ぶ斬撃」をしっかり把握し、装甲の硬い部分で防いでみせた。


『対応が早いな』


 旋糸は、そこまで強力な技ではない。


 ただ斬撃を放てるだけ。


 剣そのもので斬りつけるより、威力も低い。


 私程度の腕では、機兵の脆い部分を斬れる程度だ。


 旋糸これを教えてくれたシシンも「旋糸は曲芸だ。強者相手には牽制程度の役にしか立たねえ」と言って笑っていた。


 そう言いながら奴は、旋糸だけで方舟を叩き切っていたが……奴ほどの芸当、私には出来ない。だが、しかし――。


『とりあえず、一機潰した』


 残り9機。


 潰した機兵から魂が移動するのが観えた。


 やはり、巫術師の1人が憑依していた。


 ……あの厄介な前衛と巫術師が合流したのは少々マズいが、それはそれで望むところだ。さらに抗え。さらに私を研いでくれ。


『では、もう一段階上げる・・・ぞ』


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