理外の剣術
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:肉嫌いのチェーン
「フェルグス、まだ行けるか!?」
『オレは戦えるけど、ヴィオラ姉が!』
「あっちは機兵対応班に任せておけ! それよりこっちが――」
船への着弾音。
嫌な金属音の後、激しい爆発が響いた。
羊飼いが退いた後、敵艦隊が一気に攻撃的になった。
今までは本気じゃなかったのか? 砲弾の命中精度はそこまでじゃねえが、さっきまでとは打って変わって、殺す気で撃ってきている。攻撃の量が違う。
羊飼いの強襲で船の各所が悲鳴を上げている。
まだ何とか沈んでいないが――。
「副長。船底の流体装甲展開装置に不具合発生中! 浸水も発生しているのに、流体装甲による補修が出来ません!」
「っ……!」
このままじゃ船が沈む。
いや、多分、最終的に沈むのは避けようがない。
流体装甲で応急処置しようが、混沌の消費が追いつかなくなる。流体装甲で塞いだところで、一時的に誤魔化すことしかできない。
というか、敵の攻撃が激しくて、応急処置する暇すら――。
「キャスター先生! ガキ共を頼む。最悪、ガキ共を連れて船外に逃げてくれ!」
逃げたところで砲撃の雨が降ってくるが、まだ機兵がある。
機兵なら何とかガキ共を船外に逃がせる可能性はある。最悪、海底経由で逃げてもらえばいい。……逃げられる人数はかなり限られるが。
いま、巫術師が倒れるとマズい。
繊三号における羊飼いとの戦闘に、巫術師の助力は必要不可欠だ。
「フェルグス。いざとなったら機兵か
『いざとなったら、だよな!? 敵を倒して、船を奪えばいいんだろ!?』
「そうだ。頼むぞ。向こうに加勢したいだろうが――」
『この状態でアンタらを置いて行けるかよ。……アル達なら大丈夫のはずだ』
苦しげなフェルグスの言葉に同意する。
そうだ、大丈夫のはずだ。
今のところ、大筋は予定通りだ。
船がここまでやられるのは、計算外だが……対羊飼いの本命はオレ達じゃなくて、機兵対応班と第8巫術師実験部隊。
そして、繊三号の防衛設備だ。
■title:繊三号にて
■from:星屑隊のパイプ
羊飼いとの戦端が開かれる。
敵が強奪した機兵は、大半を解放するなり破壊するなりした。
眼前の敵機兵は1機のみ。羊飼いだけ。
こちらには第8の奮闘により、救った機兵乗りが4名いる。
僕もダスト2とダスト3も十全の状態で戦える。
スアルタウ君、グローニャさん、ロッカ君も敵から奪った機兵で戦える。
10人の機兵乗りがいるんだ。これなら勝てるはず――。
『ロッカ! テメエ! ボサッと突っ立てる場合か!?』
ダスト2の罵声が響く。
羊飼いに向けて射撃しつつ、ロッカ君の機兵を見る。
確かに動いていない。ロッカ君の機兵がピクリとも動いていない。
まさか、こんな時にトラブル――?
■title:繊三号にて
■from:狙撃手のレンズ
10人でかかるはずが、1人動いてねえ。
ロッカの機兵が、炎上する
まさか、羊飼いが船を襲った時に――。
「副長! ガキ共の身体は無事なんですか!? ロッカの奴、死んだんじゃ――」
『いや、そんなはずはない。全員無事だぞ!?』
じゃあ、何でだ?
アイツは何で動けない。
■title:繊三号にて
■from:甘えんぼうのグローニャ
『ロッカちゃん……?』
ヴィオラ姉が地下に連れて行かれた。
敵もいて大変なのに、ロッカちゃんが固まってる。
魂は見える。ちゃんと生きてるはず。
『あっ、まさか――』
■title:繊三号にて
■from:水が怖いロッカ
『ぁ、ぅ――――』
沈む。
船が沈む。
オレの身体、海の中に沈んじまう。
このままじゃ、父さんと母さんみたいに死んじまう。
アニキにも会えなくなる。
もう、謝ることさえ出来なくなる。
『――――』
皆が何か言ってる。
大変なのはわかる。
オレが、動かないと。
敵は巫術師だ。巫術師のオレも戦うべきなんだ。
わかってる。わかってるのに……!
『――カ! ロッカ!!』
声。
アイツの声が聞こえた。
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:不能のバレット
「大丈夫だ! 心配するなッ!!」
額の血を拭い、通信機に向けて叫びつつ、船内を走る。
船のダメージコントロールを急ぐ。
「船は、絶対に沈ませない! お前達も、溺れさせたりなんかしない!!」
『ば、バレット……?』
流体装甲の生成に不具合が生じている。
そのうえ、敵の攻撃が激しい。
フェルグスも敵の攻撃を捌くので手一杯で、応急処置に手を回す余裕がない。
けど、それが何だ。
交国軍は巫術師無しでずっと戦ってきたんだ。
巫術師が手一杯なら、
「俺達が船を持たせる! 沈ませない! まだ戦える!」
これは俺達の船だ。
アイツらが帰ってくる場所だ。
燃えさかる炎を消し、浸水箇所を可能な限り塞ぎにかかる。
「情けねえけど、俺には船のダメコンぐらいしか出来ねえ……! だから頼む! 戦ってくれ! み……皆を、助けてくれっ!」
声が震える。
情けない。
けど、俺には……これぐらいしか――。
■title:繊三号にて
■from:水が怖いロッカ
『――わかった!』
バレットも戦ってる。
アイツ、戦うの怖いくせに!
ホントは、直ぐにでも逃げ出したいはずだ。
溺れたり、炎に焼かれたり、砲弾で死ぬかもしれないのに――。
『皆ごめん!』
『大丈夫大丈夫っ! 頼りにしてるぜ、ロッカ!』
前で戦っているラートに合流すると、ラートが笑ってそう言ってくれた。
オレはこっちで戦うしかない。
いま、自分の身体に戻る余裕はない。
オレの身体のとこまで海水が来たら、泳ぐことも出来ず溺れ死ぬんだろう。
けど、大丈夫。
大丈夫なんだ。
向こうには、バレットがいる。
頼りになる整備士がいるんだ。だから絶対、船は大丈夫……!
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:整備長のスパナ
「こりゃあ、間違いなく沈むねぇ」
「整備長!? なんでそんなこと言うんですかぁっ!?」
ずぶ濡れのバレットが情けない声を出している。
事実だよ。船は間違いなく沈む。
羊飼いの攻撃で致命傷を負ったからね。
流体装甲で応急処置は出来ても、壊れた船体を完全修復する事は出来ない。
混沌が尽きたらそこで終わりさ。
「副長。提案だ。船を一度沈めよう」
『なに言ってんすか整備長!? 何とか持たせてくださいよ!』
「持たせるための提案だ。船をもう一度、潜水艦に変えさせな」
もう一度、海に潜らせる。
流体装甲で船を多い、潜水艦に変形させる。
色々と出来る流体装甲でも、こういう使い方は想定されていないが……こっちには巫術師がいる。フェルグスがいれば色々と船をこねくり回せる。
「海中で立て直すんだよ。海水で敵の砲撃の威力を減衰させて凌いで、海中でダメコンやって、もう一度戦える状態まで戻す」
『再浮上可能なんですか?』
「フェルグスがいれば大丈夫さ。やれるよ。海水に邪魔されない形で流体扱うしね」
敵が爆雷投下してきたらキツい。
だが、タルタリカはそこまで柔軟に対応できるのかねぇ。
馬鹿の1つ覚えで砲撃してくるのがオチだろう。
羊飼いの命令で爆雷を生成してくるかもしれないが、直ぐに出来ることじゃない。ある程度は猶予がある。
副長とフェルグス達に潜行準備を任せ、手早く復旧計画を組み立てる。
情けない顔をしたバレットが「俺、バレットに船は沈ませないって約束したんですけど……」なんて言ってきたが、「気にするな」と返す。
「向こうは向こうで手一杯だ。黙ってりゃバレないよ!」
「えぇ~っ……!?」
船が最終的に沈むのは避けられない。
けど、別にいいのさ。
船ならまた作ればいい。
人間と違って、金をかけて設計図通りに作ればいいんだからね。
■title:繊三号にて
■from:死にたがりのラート
「下手に近づくなよ! 接触したら、一瞬で乗っ取られる!」
経験者として、解放した機兵乗り達に再忠告する。
斬り合いは避ける。とにかく射撃戦に徹する。
憑依が怖いだけじゃなくて、誤射も怖い。
普段から連携して戦ってきた
基地で解放した味方機兵乗りとは、今日が初対面。
顔すら合わせた事がない。
そういう奴らと近接戦闘含めた連携をやるのは難しい。最悪、誤射覚悟でやらないといけない事もあるが……そりゃあくまで最終手段だ。
『ラートさん! ヴィオラ姉ちゃんが繊三号の奥深くに連れて行かれてます!』
「魂は見えるんだな!?」
『はいっ!』
「なら生きてる。それならまだ救える……!」
羊飼いが何で、ヴィオラを殺さず捕まえたのかはわからん。
わからんが、生きているなら取り返せる。
「
両手に散弾銃を生成し、連射する。
他の機兵もそれぞれの武器を連射し、羊飼いに弾丸の雨を降らせている。
だが、敵は致命傷を受けていない。
こっちの立ち位置を見ながら流体装甲を水のように変化させ、装甲の形を適時変えている。傾斜を作り、弾いている。
多少、流体装甲が削れたところで、新しい流体を補充して直している。
『こ、このバケモノ、倒せるのか!?』
「行けるさ! 敵の流体にも限りがある! このままでも削りきれる!」
弱気なことを言う友軍機を元気づける。
確かに致命打は与えられていない。だが、確実に流体を削れている。
今は、俺達の射撃に集中させればいい。
敵の処理能力に負荷をかけていけば、本命が通る。
その
■title:繊三号にて
■from:甘えんぼうのグローニャ
『行くぞ』
『うんっ!』
レンズちゃんの
ダイジョーブ……グローニャ、カンペキにできるよっ!
■title:繊三号にて
■from:使徒・■■■■■■
正面からの鋭い狙撃。
それをかろうじて回避したが、その後に飛んできた
『良い腕をしている』
最初の狙撃を囮に回避行動を取らせ、背後から本命の狙撃が突き刺さった。
優秀な狙撃手が2人いる。
かなり重い一撃だった。
だが――。
■title:繊三号にて
■from:狙撃手のレンズ
「…………!?」
あれを防ぐかよ……!!
グローニャの狙撃を囮にし、回避行動を取らせる。
その回避先を読んで狙撃砲を撃ったのに、こっちを見ずに剣で防御した!
さすがに剣はブッ壊れたが、砲弾を見事に逸らされた。
奴本体は全くの無傷だ。バケモノめ……!
『いいぞ、ダスト2! その調子で頼む!』
一番負担のデカい前衛を張っているダスト3が――ラートが敵の攻撃を回避しつつ、世辞を飛ばしてきやがった。
「武器を一時的に破壊しただけだ。その武器も、もう再生成しやがった」
流体装甲があれば武器も修復できる。
そのうえ、奴の修復はやけに早い。
おそらく巫術で流体形成を補助し、通常よりも早く再生成したんだろう。
『だが、敵の流体は削れてる。敵にとってもテメエの
「わかってる。わかってるけど……!」
こっちは10機で取り囲んでいるんだぞ。
流体装甲の防御があっても、普通の相手ならもう倒してる。
敵の操縦技能は、オレ達を上回っている。
こっちもこっちで綱渡り中だ。
敵の振るう切っ先がかすっただけで、憑依されかねない。
憑依されたら一発アウトだ。
それに、敵は羊飼いだけじゃねえ。
「巫術師! 周囲のタルタリカは――」
『近づいてきません! 遠巻きにボクらを見てます……!』
「舐めてやがんな。タルタリカ無しでオレ達に勝てるってか……?」
敵はまだ全力を出していない。
ガチで勝ちに来るなら、タルタリカの群れもけしかけてくるはずだ。
それなのに、タルタリカは戦闘に参加してこない。羊飼いが来るまではオレ達に襲いかかってきてたのに、今は遠巻きに見ているだけ。
闘技場の観客みたいに、オレ達を包囲しているだけだ。
『舐められてるなら、そこが付けいる隙になる。前向きに行こうぜ!』
「ケッ! 仕方ねえ、油断の代償は取り立ててやるか……!」
こっちは機兵10機だけじゃねえ。
他の戦力もあるんだ。火力で押し切ってやる……!
■title:繊三号にて
■from:使徒・■■■■■■
悪くない状況だ。
錆びた我が身を研ぐのに、ちょうど良い研石達がやってきた。
果敢に挑みかかってくる
斬りかかろうにも、味方の攻撃も利用して私を止めてくる。私が他の機兵を倒そうと動くと、私の背中に容赦なく散弾の雨を降らせて妨害してくる。
他の機兵を倒すフリをして油断させ、斬りかかろうにも完璧に動きを読まれている。今まで会った交国軍の中で、一番優秀な兵士かもしれない。
それと、2人の狙撃手が厄介だ。
立ち回りは拙いが、射撃能力だけは本物の
振るう得物は狙撃銃。
撃たれた後でも流体装甲を操作し、受け流すことは出来るが……常に狙撃を警戒しないといけないのは面倒だ。怠ると大きな代償を支払う事になる。
もう1人の
振るう得物は狙撃砲。
威力は申し分ないが、使いづらい得物だろう。だが、それを感じさせない立ち回りで、常に
チョロチョロ動き回っている狙撃手と違って、狙撃の位置取りが完璧だ。
私に巫術による感知がなければ、とうの昔に胴体を射貫かれているだろう。狙撃砲による狙撃は、そう簡単には受け流せない。
機兵乗りとして警戒するのは、その3人だろう。
他は機兵乗りは平凡だ。足を引っ張っている者もいる。
だが、
久しく本物の戦場から遠ざかり、錆びていた身が研磨されていくのを感じる。
『貴様ら。邪魔立てするなよ』
タルタリカ共を下がらせ、割り込ませないようにしておく。
いまは
地上の敵は私だけで十分。手持ち無沙汰で地下に入っていける者は、地下で暴れている何者かを始末しに行け。
重要な目的の1つも確保した以上、多少の遊びは許されるだろう。
『――――』
効率的に勝利を狙うなら、先程の船を完全に沈めるべきだったのだろう。
だが、何故かそれが出来なかった。
あの船には巫術師の本体が乗っていたはずだ。
おそらく、4人ほどいる。
うち3人が、いま相対している機兵のどれかにいる。
本体を壊したところで、しばらくは憑依先で生き足掻く事が出来るが、遠からず死ぬのが巫術師だ。それも巫術師の弱点だ。
奴らも私の本体を狙っているのだろう。
だから、効率的に勝利するなら本体を潰すべきだった。
だが、何故か――。
『――――――――いや、
今は眼前の
ほどほどのところで切り上げ、地下の援護に向かおう。
あの子を避難させた区画と、地下で暴れている何者かがいる区画は別の場所だが、あの子の重要性に気づいて奪還に来る可能性はある。
地上の敵も、地下の敵も、全て私が殺してやる。
目の前の機兵達は、3機を除けば大した相手ではない。
大した相手では、無いはずだが――。
『……貴様は、なんだ?』
平凡どころか、やや劣っている機兵が少し気になる。
射撃は素人に毛が生えた程度。
体捌きは悪くない。おそらく、巫術師だろう。
しかし、概ね素人だ。
良い研石になる3人とは比べものにならないほど弱い。
直ぐ蹴散らせるはずだ。
だが、妙に気になる。
貴様は何だ。何者だ?
■title:繊三号にて
■from:兄が大好きなスアルタウ
『うっ…………』
羊飼いに、見られている感じがする。
この感じ、雷がゴロゴロ鳴ってる時と……似た感じ。
怖い。
怖くて、憑依を解除しちゃいそう……。
でも、そんなのダメ。
いま逃げたら、絶対にダメ!
にいちゃん達が船を守ってくれてるんだ。
ボクも必死に戦わないと。
勝たないと、ヴィオラ姉ちゃんを助けられない。
ボクらが勝たないと――。
『ぁ――――』
巫術の眼で、敵を観る。
敵の魂が「ぬらり」と動いた。
機兵から
繊三号は大きな島。
だから、
『皆、跳んで!!』
■title:繊三号にて
■from:死にたがりのラート
アルの合図で跳ぶ。
地面から離れる。
そうだ。そうだよなぁ。
「全機、
■title:繊三号にて
■from:使徒・■■■■■■
『ぬ……?』
殆どの敵が一斉に、跳躍した。
僅かに遅れた機兵もあったが、こちらの
空に逃れ、一斉に射撃してきた。
急ぎ、防御する。
致命傷は負わずに済んだが、斉射で流体装甲を一気に剥がされた。
機兵の射撃だけでも、それなりのダメージが入ったが――。
『邪魔だな』
繊三号の防衛設備が射撃してくる。
流体装甲によって砲台や銃座を作成しているため、繊三号の内側に向けて射撃も可能。この戦闘に割り込んでくる事も可能となっている。
繊三号からの射撃は、そこまでの圧はない。
変幻自在の防衛設備とはいえ、出せる位置は決まっている。把握している。
狙撃砲使いの狙撃手の方が、よっぽど怖い。
ただ、機兵10機以外にも撃ってこられると少し面倒だ。
流体装甲の防壁を作り、機兵達を守ってくるのも面倒だ。
『貴様は黙っていろ』
防壁に剣を突き刺し、力を行使する。
■title:繊三号にて
■from:死にたがりのラート
『機兵部隊! 注意してくれ! そこの防衛設備が
繊三号の防衛設備制御室にいる軍人から、そんな警告が飛んできた。
羊飼いが防壁に剣を突き刺した次の瞬間、奴が光った。
奴が黒い電撃を纏った次の瞬間、繊三号の一部の流体装甲形成装置に不具合が発生したらしい。あくまで一部で、まだ使える場所はあるが――。
「電撃で、回路を焼き切ったのか……!?」
そんな攻撃を機兵が使うなんて、初めてみた。
隊長が警戒していた巫術以外の切り札か!
■title:繊三号にて
■from:使徒・■■■■■■
基地の流体装甲を程々に黙らせておく。
神器を失い、弱くなった身とはいえ、この程度は簡単にできる。
流体装甲そのものを破壊しても、混沌が尽きない限りは再生する。
だが、装甲を形成する装置を破壊したら、混沌があっても再生は出来ん。
あまりやりすぎると、繊三号が弱体化してしまうが……最終的に放棄するつもりだ。防衛設備を全て壊してしまっても問題はない。
私がいる。
私が敵を倒せば良い。
しかし――。
『先程の回避、見事だ』
繊三号経由で直接憑依しようとしたが、見事に回避された。
おそらく、敵巫術師が私の魂をよく観ていたのだろう。
こちらの手も、当然予測済みか。
では、これはどうだ。
あの子から、教わっているか?
『――丘崎新陰流』
剣を逆手で構え、振る。
『
■title:繊三号にて
■from:兄が大好きなスアルタウ
『えっ?』
気づいたら、目の前に地面が迫っていた。
転んだ?
なんで?
■title:繊三号にて
■from:死にたがりのラート
「アルっ……!?」
敵が剣を振るった次の瞬間、アルの機兵が倒れた。
両足と右腕が、叩き切られていた。
いや、ホントに切られたのか……!?
羊飼いとアルの機兵は、20メートル以上離れていた。
剣も届いていないはず。
射撃ならともかく、剣が届くはずがない!
■title:繊三号にて
■from:兄が大好きなスアルタウ
『わっ、うっ……!?』
機兵が壊れた?
敵が来る。
振り上げた剣で、ボクを襲ってきて――。
『アル! こっちに来いッ!!』
『…………!!』
まだ動く手で、流体のワイヤーを投げる。
ラートさんの機兵に向かって投げて、ワイヤー経由で憑依先を移す。
ボクがラートさんの機兵に移った次の瞬間、羊飼いの剣が、ボクが使っていた機兵を破壊した。多分、機兵の混沌機関が破壊された。
『ご、ごめんなさいっ! ボク、やられちゃって……!』
「大丈夫だ。謝らなくていい。今のは敵が上手――」
羊飼いが再び剣を振るった。
こっちに向けて。
向こうの剣は全然届いていないのに、ラートさんの持っていた武器が切られた。
■title:繊三号にて
■from:死にたがりのラート
「…………!?」
両手の散弾銃と、機兵の指が切れ、飛んだ。
切られた衝撃で散弾銃が爆発する。
マズい、と思いながら後退したが、爆煙の中から羊飼いが来て――。
「――――!」
こちらに斬りかかってきた羊飼いが、横に向けて剣を振るった。
ダスト2がいる方向。
狙撃砲の一撃を剣で迎撃した。
敵は剣を再生しつつ、俺から距離を取ってくれた。
ダスト2の狙撃がなけりゃ、俺も致命傷負ってたな……!
『ダスト3。無事だな』
「何とか! 助かった!」
『あの野郎、さっき、何しやがった? 間合いの外に攻撃が届いてたぞ』
「わかんねえけど――多分、斬撃を飛ばしたんだ」
『お前、正気か?』
「それなりに! そうとしか言えねえよ!」
敵が剣を振った次の瞬間、俺達の機兵が斬られた。
敵の剣そのものは届いていなかったが、斬撃だけが届いた感覚だ。
ただ、そこまで重い斬撃には見えなかった。
「全員、剣の間合いの外でも注意してくれ! 敵は斬撃を飛ばしてくるぞ」
『飛ぶ斬撃とか……どうやってんだ!?』
『防御する方法はあるのか……!?』
「流体剣をそのまま叩き込まれるよりはマシだ。剣の形をした銃だと思ってくれ。射線上に盾を構えれば、防ぎきれるはずだ」
破壊されたアルの機兵を見つつ、そう言う。
多分、敵の斬撃はそこまで
「アルの機兵は関節部をキレイに斬られてる。脆い部分なら断ちきられるが、装甲でしっかりと防御したら大丈夫のはずだ! 多分!」
『多分って……!』
「敵を過剰に恐れる必要はない。冷静に対処していこうぜ!」
■title:繊三号にて
■from:使徒・■■■■■■
厄介な前衛に向け、再び旋糸を放つ。
だが、今度は防がれた。
比較的破壊しやすい武器を狙ったが、こちらの「飛ぶ斬撃」をしっかり把握し、装甲の硬い部分で防いでみせた。
『対応が早いな』
旋糸は、そこまで強力な技ではない。
ただ斬撃を放てるだけ。
剣そのもので斬りつけるより、威力も低い。
私程度の腕では、機兵の脆い部分を斬れる程度だ。
そう言いながら奴は、旋糸だけで方舟を叩き切っていたが……奴ほどの芸当、私には出来ない。だが、しかし――。
『とりあえず、一機潰した』
残り9機。
潰した機兵から魂が移動するのが観えた。
やはり、巫術師の1人が憑依していた。
……あの厄介な前衛と巫術師が合流したのは少々マズいが、それはそれで望むところだ。さらに抗え。さらに私を研いでくれ。
『では、もう一段階
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