７年前、僕らは名誉オークだった

守るための戦い

■title：繊三号にて

■from：狙撃手のレンズ

　高台に登り、狙撃で味方の援護をする。

　狙撃砲で敵機兵の腰を吹っ飛ばし、巫術師（ガキ）共の機兵にトドメを任せる。

「機兵は粗方、片付いたか」

　まだ地下に機兵がいるかもだが、そこまで多くはないだろう。

　繊三号にいた機兵の数と、行方不明の機兵の数で敵機兵の数は大体わかる。

　ガキ共が機兵乗り達を解放していったし、それに――。

「防衛設備がちゃんと稼働したら、何とかなるもんだな」

　隊長が無茶やってくれたおかげで、繊三号の防衛設備はこっちの味方だ。

　流体装甲が地上部に砲塔を作り、それがタルタリカや敵機兵を狙ってくれている。こちらが指定した地点に防壁や高台も作ってくれている。

　タルタリカを含めた数なら負けているが、地の利はこっちにある。

　地の利は、繊三号の流体装甲で作れる。

「……まだしぶといのがいるみてえだが」

　振り返り、高台に登ってきた敵機兵に狙撃砲をブッ放す。

　ドスドスと音を鳴らして近づいてこられたら、オレでも気づく。

　この程度の敵なら巫術不要で接近を察知できる。

　狙撃砲をモロに食らった敵機の腰が吹っ飛び、無様に倒れていった。

『レンズちゃん！　あぶなああああい！』

「はぁ～……？」

　グローニャ（チビ）がやってきた。

　敵から奪った機兵で高台に登ってきて、高台の上でオレが倒した敵機兵を「ゲシゲシ！」と足蹴にしている。敵機兵は完全に動かなくなった。

　多分、巫術で敵の魂を追い出したんだろう。

『グローニャが来たからには、もうダイジョーブ！』

「アホ。そいつはもうオレが倒したんだよ」

『倒せてない！　魂を追い出せてないと、倒せてないよっ！　グローニャ達と違って、レンズちゃん達の機兵はタッチされるだけで憑依されるんだよ！？』

「わかってるよ……。身に染みてなぁ……！」

　一丁前の口をきくガキに対し、舌打ちをしたくなったが堪える。

　ガマンガマン……。苛立ちは敵にブツけよう。

『グローニャ、狙撃得意だからここから２人でバンバン撃とう！』

「オレ、別の高台に移るわ」

『なんでぇ！？』

　移る前に、機銃でタルタリカの群れを撃って憂さ晴らしをする。

　なんで戦場でガキのお守りしなきゃならねえんだ？

『いまは別の機兵使ってるけど、レンズちゃんはグローニャと組んでるでしょっ？　仲良くしようよ～……！』

「うるせえ、通信が聞こえな――」

　副長達がいる隕鉄（フネ）の方から、切迫した様子の通信が届いた。

　別働隊と戦闘中のはずの羊飼い。それがウチの船を襲っているらしい。

　どういう事だ……？

「ダスト３、ダスト４。味方引き連れて船の援護に行け！」

『『了解！』』

「オレとグローニャも、直ぐに追う！　ここらの敵を片付けた後で！」

　ラート達が船の援護に行けるよう、雑魚共を請け負う。

　うるさいチビも、さすがに空気を読んで狙撃に集中し始めた。

　お互いに狙撃しつつ、言葉を交わす。

「チビ。羊飼いは例の方法を使うぞ」

『うん！　わかってる！』

　チビの機兵が、オレの機兵の背中を指さしてくる。

　オレが使っている狙撃砲とは別に装備した２門目の狙撃砲。

　それを指さしてきた。

『狙撃砲（それ）使って、２人で同時狙撃！』

「２方向から狙えば、手練れでも避けきれねえはずだ」

　相手は巫術師。

　巫術の観測能力を使うことで、全方位の魂の位置を把握できる。

　ガキ共の中で一番索敵が得意なスアルタウ。アイツは模擬戦で戦った時、混乱しながら完璧にオレの位置を把握していた。

　敵はスアルタウ以上に観えているはずだ。

　だが、観えているからこそ死角（・・）が存在している。

　敵は巫術師。

　巫術の眼は強みになるが、同時に弱点（ノイズ）にもなる。

　ラートの策は、羊飼い相手だろうと通用するはずだ。

「大事に使えよ。狙撃ポイントへの誘導はオレ達でやる」

『まかせて！』

　ガキに２門目の狙撃砲を渡しておく。

　近場の敵は一層した。防衛装備に雑魚掃除を頼み、オレ達も移動を開始する。

「ワイヤーを忘れるなよ」

『まっ、まかせてぇっ！』

「……緊張してんのか？」

　高台から飛び降り、脚部にローラーを形成してラート達を追う。

　うるさいガキが声を震わせている。

　……大役を任せたから、さすがに緊張しているんだろう。

「テメーの射撃能力は……オレ並みだ。だが、兵士としては素人並みだ」

『う……』

「お前は射撃が上手いだけの素人だ。兵士としての判断も振る舞いも出来ていない。……けど、安心しろ」

　緊張するだろうが、緊張を乗りこなせ。

「オレが指示する。オレの経験を貸してやる。だから、お前は大丈夫だ」

『ん……！　わかったよっ！　レンズちゃんっ！』

「ちゃんって呼ぶな、階級で呼べ！　階級で……！」

　ガキが笑いながら遠ざかっていく。

　こっちの指示を守り、オレとは別ルートで移動を開始した。

「――――」

　指示通り、ワイヤーも使っている。

　巫術で流体装甲を操り、キチンとワイヤーを作っている。

「狙撃組（おれたち）で仕留めるぞ」

　向こうには聞こえないよう、呟く。

　勝てるはずだ。オレ達なら。

■title：繊三号にて

■from：死にたがりのラート

「＜隕鉄＞！　応答してくれ！」

　船に呼びかけつつ、船の方に向かう。

　副長の読み通り、羊飼いがこっちに戻ってきたとしたら……何で真っ直ぐ繊三号に戻ってこなかった？　俺達をスルーして、何で先に船を狙った？

　俺達の退路を潰しにかかったのか？

　もしくは……アル達の本体（からだ）を潰しにかかったのか？

　それはマズい。敵の本体を潰せば、俺達が勝つはずだった。

　けど、本体を潰されるとマズいのはアル達も同じだ。

　副長とフェルグス達がそう簡単にやられるとは思えないが――。

「…………！」

　黒い煙が立ち上っている。嫌な煙だ。

　敵船だけじゃなくて、ウチの隕鉄（フネ）からも立ち上っている。

　船の甲板上に、異形の機兵がいた。

　羊飼い。

　奴がいる。

　星屑隊（ウチ）の船がメチャクチャになっている。

■title：星屑隊母艦＜隕鉄＞にて

■from：使徒・■■■■■■

『――――』

　船の流体装甲が生成した砲塔を斬り、壊す。

　オークの兵士達が何か叫びつつ、銃を撃ってきている。鬱陶しい。

『邪魔だ』

　手中にある子を巻き込まないよう、気をつけて雷撃を放つ。

　オーク達は甲板に倒れ、静かになったが――。

『ヴィオラ姉を返せ！！』

『――――』

　船に取り憑いた巫術師が、流体装甲で腕を作って襲いかかってきた。

　その腕も斬って破壊する。

　目的は達成した。退くとしよう。

　繊三号に向けて跳躍しつつ、命令する。

『撃て』

　まだ無事な水上船が一斉に砲撃を再開した。

　敵船に砲弾の雨が一気に着弾する。

　タルタリカに任せているため、命中精度はさほど良くない。

　だが、問題あるまい。

　あの船はもう、長くは持たん。

■title：繊三号にて

■from：死にたがりのラート

『ラート！　聞こえてるか！？　羊飼いを撃つな！！』

「なっ――」

　フェルグスからの通信。

　羊飼いは俺達の船をメチャクチャにして、繊三号に跳んで戻ってきてるが――。

『ヴィオラ姉が羊飼いに連れていかれた！　いま撃ったらヴィオラ姉に当たる！』

「マジかよ……！？」

　なんでヴィオラが！？

　よくわからんが、アル達が解放した仲間機兵にも撃たないよう止める。

　だが、どうする。

　羊飼いを倒さなきゃいけねえのに、このままじゃ下手に撃てねえ。

「――――」

　羊飼いが繊三号の縁に悠々と着地した。

　その手中には、確かにヴィオラらしき姿が見える。

　気絶しているのか、ぐったりしたまま動いていない。

「テメエ！　人質のつもりか……！？」

『…………』

　ヴィオラ持ったまま仕掛けてくるかと思ったが、違った。

　羊飼いは、あっさりとヴィオラを手放した。

　ただし、走り込んできたタルタリカに渡しただけだった。

　タルタリカがヴィオラを咥え、逃げ始めた。

「おいコラッ！　待ちやがれ！！」

　逃げたタルタリカを追おうとした瞬間、タルタリカと俺の間に羊飼いが割り込んできた。機兵の両手に流体の剣を生やし、立ちはだかってきた。

「邪魔すんな！　退（ど）けッ！！」

　ヴィオラを連れていって、何する気だ！

　やらせねえぞ……！

■title：繊三号にて

■from：使徒・■■■■■■

『邪魔だ。退（ひ）け』

　あの子を捕まえて、何をするつもりだ。

　今度こそ、やらせはせんぞ。