プロローグ2
(・・・どこだここ?)
急に視界が明るくなり、さっきまでぼやけていた意識が急速にはっきりとしだす。
周りを見渡すとあたり一面真っ白で、目の前に椅子がぽつんとおいてある。
「あのぉ・・・誰かいませんかぁ・・・」
状況が全く理解できない。
俺は確か、ホームレスのおっさんに押し倒されて頭を打って死んだはずだろ?
(・・・あれ、これもしかしてあれじゃね!?転生もののやつじゃね!?)
徐々に高鳴る胸に手を当てようとしたが、手がなかった。というか体すらない。
(おいおいおい、これ魂の状態ってことだよな?いよいよもって転生モノのやつじゃーん!)
昨今のライトノベル、アニメ、漫画、どのジャンルでもよく見る異世界転生もの。
破格のチート能力を持って転生して、気持ちよく無双をし、可愛いヒロインに囲まれて幸せそうに過ごす主人公たちにあこがれていたが、まさか自分がその立場になれるとは!
浮かれに浮かれ、次に現れるであろう麗しき天使の降臨を待つ。
待つ。
更に待つ。
・・・あれ?
誰も来ない?
体感1時間くらいは待っただろうか。
誰も来ず、動けもしない状態で不安になっていた頃、突然目の前が明るく光った。
「いやぁ、お待たせしてしまってすみませんねぇ!急な対応だったもんで準備に時間かかっちゃいましたよはっはっは!」
(どわっ!?)
光の中から、七三分けに銀縁眼鏡をかけたスーツを着た男が、書類を片手に急に椅子に現れた。
えっ、麗しきナイスバディな天使様は・・・?
「んんんっ!えー、わたくし、魂魄再利用課の者でして、今回あなたの担当となりました。短い時間ですけどよろしくお願いしますね。あっ、あなた方の世界で言うところの天使ってやつだとでも思ってください。」
メガネをクイクイッとしながら、ビジネススマイル全開の胡散臭い昭和サラリーマン風の男が早口で喋り始めた。やけに声がでかく、甲高いせいで耳が痛い。
・・・耳はないんだった。
というか、えっ、天使ってもっとこう、神々しくて美しい存在じゃないの?
「あっ、あの・・・よろしくお願いします・・・?」
「はいどうもね。いやぁこの度は残念でしたねぇ。いやね?ここだけの話ね?あなたの寿命まだぜーーーんぜん先だったんですけどねぇ、ちょっとシステムに不具合出ちゃったみたいで。どうもこの前システム入れ替えたときに、業者がミスっちゃったみたいなんですよねぇ。いやもうびっくりですよ。本当は今日私休日でして、家族サービスしようと遊園地に行こうとしてたんですよ。そしたら急に出勤しろって言われてねぇ。子供に泣かれちゃうは嫁は機嫌悪いわでもうたーいへんですよはっはっは。」
「はっ、はぁ・・・なんかすみません・・」
「いえいえ、とんでもない。じゃあぱぱっと済ませちゃいましょうかねぇ!すぐ終わればまだ外食くらいは連れていける時間帯なんでねぇ!」
どうやら天界でもお父さんは肩身が狭いようだ。
「じゃあぱぱっと本人確認しちゃいますねぇ。守安硬さん38歳独身で、職業はフリーターと。・・・はっはっは!お名前は硬いって字なのに、頭打っただけで死んでしまったなんて!こりゃ災難ですねぇ!はっはっは!」
「うぅっ・・・まぁそうっすね・・・はは・・・」
うざいこと極まりない昭和のサラリーマン風の天使がペラペラと喋りながら書類をめくる。
ちょっとまって、なんか思ってたのと違う。
「えーっとそれで?人生での善い行いが8で、悪い行いが8!30年以上生きてた人にしては善い行いも悪い行いも随分少ないですねぇ!この人生楽しかったです?まぁ楽しみなんてひとそれぞれですけどねぇ!はっはっは!でもピッタリプラマイ0ですねぇ!これならすぐ手続きが終わりますねぇ!ほいっと!」
早口なのに語尾が間延びしているというなんとも人の神経にさわる口調の自称天使が
書類から顔を上げ、手を前に突き出すと、淡い光を放つ幾何学模様が部屋全体に広がった。
「今回はこちらのシステムエラーでご迷惑をおかけしましたねぇ!いやぁどうもすみませんねぇ!本当はだめなんですけど、今回は特別に、前世の記憶を持ったまま、別の世界に転生させておきますので!よかったですねぇ!人によっちゃ蝉に生まれ変わるぅなんてのもあるんですから!はっはっは!では、いってらっしゃーい!」
そう言いながらサラリーマン風の天使を名乗る男はハイテンションに手を降って送り出そうとする。
さながら某テーマパークのアトラクションの出発のときみたいだ。
「ちょちょちょ!待ってくださいよ!」
「えー、どうされましたぁ?なにか気になることでもぉ?」
嫌な客にあたったわー早く帰りたいわーって顔すんなよ。こちとらなにも状況把握できてないんだ!
しかも思ってたのと全然ちがうし!!
あと話し方どうにかならねぇのか!!
「あの、なんかチートスキルとかそんなのはないんですかね。お決まり的な?」
「はぁ・・・最近多いんですよねぇそういう方。ったく、下界は余計なもの広めやがって・・・いいですか?チートスキル付与して転生なんてそうそうあるわけないでしょ?あんなもんはよほどの偉人とかじゃないとありえませんからねぇ!次も人になれるだけ感謝してほしいんですけどねぇ!ほら!いってらっしゃい!!」
「うわっ、ちょっ!」
もう何も言うことはないとばかりに、シッシッと男が手を振ると、俺の魂は淡く光る幾何学模様に吸い寄せられる。
「では良き新たなる人生を!チート能力は授けられませんが、前世での経験を元にスキルがつくことはありますからねぇ!なにかいいものが着くといいですねぇ!では!・・・あっもしもし?ハニーちゃん?やっと仕事終わったよぉ!いやぁちょっとめんどくさいお客さんでさぁ!でもこれからすぅぐ帰るからねぇ!みんなで焼肉行こうかねぇ!」
天使ってもっと清廉潔白で神聖な存在だと思ってたんだが、どうやら認識が違ったようだ。
評価サイトがあれば迷いなく☆1をつけた上、ボロクソにクレーム書いてやるところだが、どうやらそういったシステムはないようだ。残念。
スキップをしながら電話をかける自称天使のクソメガネにありったけのガンを飛ばしてやったが、気にもかける天使は消えていった。
そして俺の魂のようなものも、幾何学模様の中心に溶け込み、やがて意識が遠のいていく。
こうして俺の新しい人生はドタバタと幕を開けることとなった。
百折不撓戦記。〜前世では負けっぱなしな人生を送ってきたけど、せっかく転生したから今度こそ折れないで人生謳歌する〜 二階の住人 @kiyomasa1192
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