百折不撓戦記。〜前世では負けっぱなしな人生を送ってきたけど、せっかく転生したから今度こそ折れないで人生謳歌する〜
二階の住人
プロローグ
「ガタガタうるせぇんだよ!!どけつってんだろうがよ!!!」
「えっ、ちょ!!落ち着いて!!うわっ!!!」
人間は危険を感じると、風景がスローモーションになるってよく聞くが、あれは本当のようだった。
俺が最後に見た風景は、安酒で酔った赤ら顔でひげを生やしたホームレスのおっさんの顔と、空に登った鈍い色の三日月だった。
ドンッ!!
どうやらもつれ合った勢いで転び、コンクリートに後頭部をぶつけたらしい。
人間がコンクリートにぶつかるとこんなに鈍い音がするんだな。
「お、おい、あんちゃん大丈夫かよ?そっ、そんなに大したことはないだろ?な?おいなんとか言ってくれよ!」
倒れた瞬間から全身の感覚が消えた。視界もぼんやりとしている。
唯一わかることは、これはもう助からんだろうということだけだった。
俺を押し倒したホームレスのおっさんは、動揺した様子で俺を覗き込んでいたが、
何かを叫びながら走ってどっかに行ってしまったようだ。薄情な奴め。
視界がぼやけてうまく見えないが、きっと真っ青な顔してんだろうな。
まぁ人生最期に薄汚れたおっさんの顔を至近距離で拝むなんて勘弁願いたいから、ぼやけたままでちょうどいい。
俺は守安硬(もりやすこう)38歳、独身、いわゆる子供部屋おじさんで、趣味はネットサーフィンと人間観察。職業は警備員のアルバイト。
小学校の頃にいじめられて以降、自己肯定感はどん底に落ち、高校大学と、ことごとく受験は失敗。これといった特技もないし、コミュ障であることから、もちろん就職にも失敗した。
ニートは許さないという親からのじっとりとした圧に負け、なるべく人と話さないで良さそうな警備員のバイトをしていた。
最初は、立っているだけでつまらないと思っていた警備員のバイトだったが、次にあの人は何をするのか当てゲームというくだらない脳内ゲームに興じることで、意外と楽しく過ごせていた。
(ついてないなぁ・・・。でも俺の人生、こんなもんか。)
これまでの人生が脳内で急速に再生されていく。これが走馬燈ってやつなんだろうな。
あぁ、これは初めての習い事だった水泳だ。鼻に水が入って溺れかけてすぐに辞めたっけ。これは空手かな。年下の女の子にボコボコにされて泣かされて辞めちまった。
高校受験も大学受験も懐かしい。どうせ俺には無理だろうと思ってロクに勉強もしなかったっけ。あぁ、我ながらなんと虚しい人生だろうか。
運にも見放されてたような気がするな。
毎年初詣でおみくじを引いたけど、大吉を出したことは一度もない。
限定ものの列に並んだら目の前の人で終わってしまう。
今日だってそうだ。
普段は昼のシフトしか入らないのだが、今日は夜勤に欠員が出たため急遽ビルの夜間警備のシフトに入っていたのだ。
警備中、ビルの前で酔い潰れていたホームレスのおっさんを発見し、どいてもらおうと声をかけたら逆ギレされてこの始末。なんとついていないことか。
こんなことになるなら声なんてかけなきゃよかった。
声をかけたことを公開する反面、不思議と死にたくないという気持ちは湧かなかった。どうせこの先の人生に希望もなかったし、愛する人も守るべき子供もいるわけじゃない。
ただ、もし来世というものがあるなら、人生をやり直して、今度こそいろいろ諦めずに頑張りたいなぁ。
視界は闇に落ち、耳も聞こえなくなった。あっ、もういよいよだめなやつだこれ。
こうして俺の短く薄っぺらい人生は幕を閉じた。
・・・はずだった。
ーーーーー作者コメントーーーーー
人生で初めての小説執筆となります。
至らないところも多々あるかと思いますが、ゆるりと楽しんで貰えれば幸いです。
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