第17話

 許可を得て、入ってきたのは胡桃色のふわふわした髪をした、青年だった。リスを連想させる雰囲気も一緒で、言われるまでもなく、アリエーテ夫妻の息子だと分かった。その後ろからエミリーも一緒に入ってきた。


「テオ! 久しぶりだね!」

「ミカ、何年も会っていないわけじゃないんだ。そんなに、はしゃがなくても」

「でもさ、やっぱり三人が揃ってこそって感じがするよ」


 テオドールと愛称で呼び合う仲、かなり親しい間柄のようだ。さらに話を広げようとして、義父に止められていた。


「こら、先に挨拶をしなさい」

「あっ、ごめんなさい」

「息子のミカエルだ。歳の離れた兄もいるんだが、今日はあいにく不在でね」

「初めまして、僕はミカエル・アリエーテ。あなたがフェリシアさんだね、エミリーから聞いているよ」


 話すと、ふんわりと花が咲いたかのような雰囲気のある青年だ。素で相手を安心させることが出来るのは、天賦の才だ。


「僕と、テオ、エミリーは同い年でね、三人一緒に育ってきた兄妹、幼馴染といったところなんだ」

「え、皆さん同い年、ですか?」


 エミリーは、フェリシアと同じぐらいだと思っていたし、テオドールは年上だと思っているし、ミカエルは年下だと思ったところだった。


「そうだよ。俺たちは今年で十八。言ってなかったっけ」

「聞いていません。てっきり四つほど上だと思っていました」


 十六歳のフェリシアと、十八歳のテオドール。たった二つ違いだった。勝手に思い込んで聞かなかったフェリシアも良くないけれど。


「ははっ、テオは昔から年齢を上に見られることが多かったからね。ミカは逆だったがね。同じ年頃の星家の者もいる。そのうち、フェリシアさんも会うことになるだろうね」


 フェリシアは星家から離れて久しい。スコルピオン家にいた時も、他の家の子と関わりが多かったわけではない。つまり、星家の人間関係をほとんど知らないのだ。学ばなくてはならない、今後のためにも。もちろん、コンクールのことも。前回はちょうど家を出た頃と重なって見ていないし、その前は二歳、覚えているはずもない。


「フェリシア? 難しい顔をしてどうしたの?」

「あ、いえ、星家のことやコンクールのこと、何も知らないので、きちんと学ばなくてはと考えていました。すみません、こんな時に」


「嫁入りしてすぐは、色々心配よねえ。分かるわ。うちの家庭教師を貸してもいいけれど……そうだわ、ミカちゃんに教えてもらうのはどうかしら。歳も近いし、ねえ?」


 義母が、ふわりと手を合わせてそう提案した。ミカエルとテオドールは、互いに顔を見合わせていた。


「ミカ、頼んでもいいかな。俺は、この後、父さんたちと話があるんだ」

「任せてよ。エミリーも手伝ってくれる?」

「はい。もちろんでございます」


 フェリシアは、ちらりとテオドールを見た。いっておいで、と小さな声で言われた。軽く頷いて、ミカエルに続いて応接室を出た。


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