第9話
翌朝、クロエに揺さぶられて、目が覚めた。結局、憂鬱な気分のまま、眠りについていたらしい。
「お姉ちゃん! お母さんが……!」
その言葉で、一気に覚醒した。フェリシアは、母の寝ている部屋に急いだ。
母が、浅い呼吸を繰り返していた。顔も赤くなっていて、おそらく熱がある。フェリシアは、引き出しを開けて、回復魔法のカードの蓄えが少ないことに気が付いた。さあっと血の気が引いていく。苦しそうに息をする母には、この量では足りない。鎮痛薬も、回復魔法の補助でしかない。薬だけでは、症状を改善出来ない。
「お姉ちゃん、どうしよう……」
今にも泣きそうなクロエを、ぎゅっと抱きしめた。大丈夫、と何度も頭を撫でた。
「少しだけ、留守番出来るかしら」
「どこ、行くの」
「何とかするわ」
フェリシアは、昨日きちんと飛行魔法を充填した箒に乗って、空を駆けた。朝の早い時間で、しかも事前通達もなしでの訪問は、礼儀がなっていない。そんなことは分かっている。フェリシアが叱責を受けて済むなら構わない。
「……っ、オフィーユ卿!」
昨日馬車で通った道のりを辿って、フェリシアはオフィーユの屋敷にやってきた。玄関までやって来て、少し迷いが出てきたが、それを押し込めて声を上げた。
扉の向こうで、バタバタと足音が聞こえてきて、扉が開かれた。驚いた顔をしたテオドールが立っていた。寝起き、というわけではなさそうだったが、正装ではない、ゆったりとした部屋着を着ていた。
「いきなり押しかけた、失礼を、お許しください」
箒を飛ばしてきたことと、焦りとで、上手く声が続かない。テオドールは非礼を責めることもなく、少し体をかがめてフェリシアと視線を合わせた。
「落ち着いて、話して」
「母の体調が悪化して、回復魔法の蓄えが少ないんです。後で必ずお返しします。貸していただけないでしょうか」
「症状は?」
「呼吸が苦しそうなのと、おそらく熱があります」
「すぐに準備する。待っていて」
テオドールは、一旦屋敷に入ってから、小さめのトランクを持って戻ってきた。再び箒に乗って戻ろうとするフェリシアを止めて、庭に連れてきた。
「馬車に乗って」
「え、馬車に飛行魔法は使わないと」
「緊急事態にそんなことは言っていられないよ。君も、急いでここまで来て疲れているだろう?」
「すみません」
フェリシアは、差し伸べられた手を取って、馬車に乗り込んだ。昨日とは比べ物にならない速度で、馬車は空を進んでいく。
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