第7話

 屋敷の中のダイニングに案内された。フェリシアの記憶にある、スコルピオン家のダイニングはだだっ広い部屋に、家族が全員席についても余るほど大きな細長のテーブルが中央に置かれていた。


 ここのダイニングは、四人がけのテーブルがあり、周りには果物を乗せたワゴンがあったり、お菓子が入っているらしい籠もあったり、とても家庭的な雰囲気がある。


「お待たせしました。ビーフシチューでございます」


 エミリーが持ってきたのは、ほかほかのビーフシチュー。いい香りが湯気と共に上がってくる。


「さあ、食べてみて。エミリーのビーフシチューは美味しいんだよ」

「いただきます」


 お肉がゴロゴロ入っているし、じっくり煮込んで仕上げた、濃厚な味わい。自然と笑顔になってしまうくらい、美味しい。


「その顔は、気に入ってもらえたようだね。良かった」

「はい、美味しいです。エミリーは料理が上手いんですね」

「もったいないお言葉でございます」


 手間もかかっているし、とても美味しい。ただ、星家のディナーにしては控えめにも思える。


「星家にしては、質素だと思った?」

「……いえ」


 思っていたことを言い当てられて、フェリシアは、気まずくてスプーンいっぱいにビーフシチューを口に運んだ。やはり美味しい。


「この家には、俺一人だからね。そう豪華なものは必要ないんだ。メイドもエミリーだけ」

「尋ねにいらっしゃるご友人もおりませんし」

「こら、二度も言わなくていい」


 テオドールはさっきよりも、分かりやすく拗ねていて、子どもっぽい反応だった。食卓についている時が、一番リラックスしているのかもしれない。煽るような、試すような言動は、外向きのものなのだろうか。少し、この人のことが知りたいと思った。


「オフィーユ卿、三つ目の理由をまだ聞かせてもらっていません」

「ああ、そうだったね」

 テオドールは、ちらりとエミリーに視線を送った。


「わたしは、デザートの準備をして参ります。ごゆっくりお過ごしください」


 エミリーは内密の話をすると察して、嫌味なくダイニングを出ていった。パタン、とドアが完全に閉まってからテオドールは、口を開いた。


「三つ目の理由は、君ならオフィーユの、蛇遣い座の、存在を100%信じるからだ」

「どういう、意味でしょうか。当主の証である指輪を付けているのですから、皆、疑うことはないと思いますが」


 星家の当主になるには、魔法の元となる指輪に認められることが必須である。代々受け継がれるもので、空白期間が出来てしまう場合や、特例である長年当主のいないオフィーユの指輪は、神殿にて管理される。神官の立ち合いのもと、指輪がその人が当主にふさわしいか判断するのだという。


 また、その指輪の力を分けた、対の指輪は当主の伴侶が持つことを許される。


 当主にふさわしい者が付ければ指輪は光り輝く、とされている。テオドールの左手にはその指輪が備わっている。大きな宝石のはまった、洗練された美しい指輪。


「そう、指輪には認めてもらえた。でも、十二星家は、オフィーユ家について沈黙している状態だ。市民は、どう思う?」

「それは……」

「正直にどうぞ」

「半信半疑だと、思います。指輪に選ばれている、でも十二星家が認めていない、ならば、あなたが嘘をついているという可能性が捨てきれない。街の皆の反応そのものです」


 テオドールは、フェリシアの答えに納得したようで、頷いていた。そして、力強い眼差しでフェリシアを捉えた。


「でも、フェリシアは100%信じる」

「どうして言い切れ――ッ」


 テオドールの手が、フェリシアの手の甲に触れた。その瞬間にピリッとした微かな痛みが走った。変身魔法を無理やり剥がされた。


「ほら、ね」

「……」

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