第二十八話、ハロウィンパレードの話

 ちょうど自分たちが大学生になった辺りから、ハロウィンだ何だって騒がれるようになりましたね。


 ちょっと前まではせいぜい町内会で仮装した子どもが近所を回ったりするくらいでしたよ。

 でも、大学入ると同時に上京したら、ハロウィンの夜、駅から大通りまでコスプレしたひとたちでごった返してて。「やっぱり都会は違うね」って、地元から一緒に来た友だちと話しました。「本物が混じっててもわからないだろうな」とか言って。



 大学でも今時の子はしっかり仮装してましたね。馬鹿馬鹿しいし混雑に巻き込まれる前に早く帰ろうとするタイプも勿論いました。

 自分はどっちでもなく、流されるがままサークルの仲間に顔にシール貼られたりして、パレードの近くまで行きましたよ。


 悪魔の角のカチューシャつけただけの子も、すごくリアルなゾンビになってるひとも、アニメのキャラのコスプレのひともいましたね。

 真っ暗な中でいろんな格好のひとが洪水みたいに大通りを埋め尽くしてて、「百鬼夜行って実際見たらこんな感じかな」と思いました。



 その中に、大学でたまに会う先輩がいたんです。

 たまに眠そうな顔してふらっと午後の授業に出て、図書館の自動書庫から出した古い全集本を読んでて、挨拶したら気さくに答えてくれるけど自分からは呼びかけることはない、そんな感じのひとでした。

 ハロウィンのパレードに来るなんて意外だなと思いました。


 声をかけたら、先輩が人混みから抜けてこっちに来てくれました。コンビニで買った缶チューハイを片手に持ってるだけで何の仮装もしてませんでした。


「こういうところ来るんですね」なんて言ったら、「年に一度だし、たまにはね」って苦笑いしてました。

「仮装しないんですか」って聞いたら「キャンパス来るたびに真面目な大学生の仮装してるよ」って冗談めかして言ってましたね。



 それからも少し話してたら、自分のサークル仲間の友だちが戻ってきて。

 ああはぐれなくてよかったなんて言い合った後、友だちが先輩を見るなり目を輝かせて言ったんです。

「すごい、リアルな骸骨のコスプレですね。どうやってるんですか?」って。


 先輩はいつも通りの格好なのに何の話をしてるんだろうって思いましたよ。

 こっちが混乱している間に友だちが先輩の脇腹を触ったんです。

 そうしたら、シャツのお腹の部分がぐっと凹んで、そのまま背中まで貫通したんです。まるで、ハンガーで壁にかけたシャツを押したみたいに。


 自分が唖然としてたら、先輩は「すごいでしょ?」って笑って、仲間を待たせてるからってそのまま行っちゃいました。



 それだけです。

 先輩はそれからも普通に大学に来て、ちゃんと卒業して、今でも偶にOBの集まりに来ます。

 でも、先輩にとってはそれも全部「仮装」なんですかね。

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