第九話、おまじないの話

 死んだひとを生き返るおまじない、みたいなものがあってさ。


 まともな人間なら絶対信じないけど、スピリチュアル系のってひとの弱みに漬け込むじゃん? ちょうど弱ってる頃だったんだよね。


 二年前に母親が死んじゃってさ。末期癌だよ。早く発見できれば治せたのに、忙しいからって検査受けなくて、気づいたときにはもう駄目だった。


 ずっと働き通しでさ、楽しいことなんかあったのかって人生で。だから、もう一回母さんに人生があったら、自分のために幸せに生きてほしいなって思ったんだ。


 おまじないを教えてくれたひとに言われたことがあって。

 自分に不都合な真実を目の当たりにしても気を落とさないでくださいって。何じゃそりゃって感じだよね。


 詳しいやり方は言えないんだけど、簡単に言うと毎日遺影に向かって祈るってやつ。

 最初は何ともなかった。それから先もしばらくずっと何もなかった。

 結局そんな虫のいい話ないよなって思って、でも、そのとき気づいたんだ。


 仏壇の遺影で笑ってるのが、全く知らない女なんだよ。全然母さんじゃないんだ。

 見間違えなんてレベルじゃない。それから怖くなっておまじないはやめたんだけど。



 しばらくした頃、家でテレビ見てたらニュース速報が流れてさ。事故か何かだったんだけど。

 現場の状況が映ってるとき、レポーターの後ろに映り込んだのがさ、母さんだったんだ。


 絶対に母さんなんだけど、全然雰囲気が違って、バリバリのキャリアウーマンっていうか。家で筑前煮作ってたような姿とは全然違うんだよ。


 生きてて嬉しいと思ったけど。

 母さん、結婚して自分なんか生まなければ幸せに生きてられたのかなあ。

 この遺影の女誰なんだろうなあ。

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