第八話、人魚のミイラの話
寺に昔からある人魚のミイラは、偽物だと皆が知っている。
人間の幼児くらいの大きさで、枯れ草のような毛の生えた上半身と、干魚のような下半身がついている。
昔、悪戯坊主が寺の裏を掘り返して、猿の下半身と鮫の上半身が捨ててあったと言ったらしい。
そんな昔話がなくとも、現代で信じる者はいない。
たまに村の外から奇特な観光客が遊びに来ては、ミイラを観察していく程度だ。
本物かと聞かれると、今の住職は微笑むばかりだった。観光客が近くの店々に金を落としていくから皆も何も言わない。
ミイラは古くなるたび何度も作り直しており、今寺にあるのは五代目らしい。
久方ぶりに寺を訪れると、人魚のミイラが新しくなっていた。住職に尋ねても微笑むばかりだ。
動物の死骸を使ってるなら今の時代まずいんじゃないのかと聞いても曖昧な答えしかない。
ふと、悪戯坊主の話を思い出し、今掘り返せば猿の下半身と、鮫の下半身があるのではないかと考えた。
寺の裏に回ると、確かに土が盛り上がっていた。
近くにあった箒の柄で掘り返してみたが、何も出てこなかった。代わりに、土がねっとりとした水で濡れているのがわかった。
魚のように生臭く、質感は血に似ていたが、水は藍染色をしていた。
振り返ると、後ろに住職が立っていた。
住職は微笑んだまま「猿の下半身と、鮫の下半身が見つかったと言ってくれませんか。皆も安心するでしょうから」と言った。
寺には今も偽物だと皆が思っている、人魚のミイラがある。
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