キューリ村にて
目が覚めると、知らない天井だった。
まさか、自分が実際に体験する事になるとは夢にも思わなかったけどな。
動こうとすると身体中に痛みが走るが、状況を確認する為に何とか上体をゆっくり起こして、周りを見渡す。
しかし、見えるのは誰もいない簡素な小屋の中だけだ。
そして、どうやら俺はこれまた簡素なベッドに寝かされていたらしい。
誰かいないかと声を出そうにも、身体がダルくてしょうがないから……と、もう一度身体をゆっくり倒して、今度は鑑定魔眼で自分のステータスを確認していく。
『種族「魔人種」 名前「ゴトウ・ヨシヒト」 LV5
スキル 「魔紋様LV3」「鑑定魔眼LV2」「強欲LV1」「雷帝LV1」「大悪魔の眷属LV2」「魔王候補者LV1」
HP10/35 MP10/30 SP10/30』
まず、俺自身のレベルや元々持っていたスキルのレベルが軒並み上がっていた。
テンプレ的に考えるなら、おそらくチャルロックサウルスや三太達人間との戦いで経験を積んだからだろうか?
あと気になるのは「強欲」「魔王候補者」そして三太が使っていた「雷帝」のスキル。
色々と気になる事はあるけど、間違いない事はいくつかある。
俺は人を殺した。それも、何人もだ。
その中には復讐相手で、友達だった長谷川三太もいた。
あれだけ憎かった筈なのに……嬉しい筈なのに、スッキリする筈なのに、なのに……何も感じない。
実感もほとんどなくて「あーそう言えばそうだっけ?」って無味乾燥な感想しか思い浮かばない。
ただ、単純にあの行為が必要だったから殺したんだって思考が、胸の内の大半を占めている。
生き物を殺すって……人を殺すって、こんな感じだったのか?
「ヨシヒト起きてる……? あ! 起きてる! よかった〜!」
そんな事を考えていたら、リリスが小屋の中に入ってきた。
俺が起きているのを見つけたリリスは、すぐに俺の寝床に近寄ってきて騒ぎ出した。
「もー! 大変だったんだよ?! いきなり危ないって言ってる所に走って行っちゃうし、事が済んだと思ってコソッと様子見たらヘロヘロで気ぃ失っちゃうしさぁー!」
「……それは、本当に悪かった」
「ホントだよー! でもまあ? そのお陰で命拾いした人達もいるみたいだから、お小言はこれくらいにしてあげる」
リリスに促されて肩を借りながら外に出ると、両膝をついた人達が揃ってこちらに頭を下げてきた。
リリスによると、村人で生き残れたのは動物の特徴を持つ亜人種の十三人だけで、その内若い大人は三人だけらしい。
名前は年長からノーウォ、ペペロ、アンドレ。
そして生き残った子供達はヤコンブ、コヤンブ、ヨハネネ、トーマス、マティ、シモン、ナタ、ユウダ、ダダイ、フィリーと言う名前らしい。ぶっちゃけ、すぐには覚えられる気がしない。
最年長のノーウォさん? が、代表して話し始める。
「ヨシヒト様。貴方様のお力によって、我々は生きながらえる事ができました。キューリ村の皆を代表して、お礼を申し上げます」
うーん……何なんだろう。何故か、正直すごーくどうでもよう感じる。
もちろん気の毒ではあるんだけど、目の前の気の毒な人達を見ても、それ以上の感情が別に湧いてこない。
俺ってこんな薄情な人間だったっけ? まあ、もう人じゃなくて魔人種だけど。
ある程度、うんうんと適当に話を聴き流していると「中央の人間達」と言うワードが聴こえてきた。
「リリス。中央の人間とか地方ついて解説してくれないか?」
「はいはーい! 簡単に言っちゃうと、この大陸の中央の地域は少し特別で、そこに住んでる人間の奴らは『自分達人間が種族として一番で至高の存在って!』って思い上がっちゃってるの」
「ふーん……なんでまた、どう特別なんだ?」
「それはね、空の上の上の神域まで続く『バベルの聖塔』って神の加護を受けた塔があるの。それを建てたのは人間だからって、主に中央地方に住む人間はそれ以外の種族を排斥する考え方が特に強いんだよねー」
なるほど。自分達のご先祖様の功績に胡座かいちゃってる訳ね。
どこの世界にも、そう言う考え方の奴らっているんだなぁ。
確かにさっきから話半分に聴いてる村の人の話も、大体そんな感じの内容だ。
中央からきた人間達が駆除だなんだと言う名目で、自分達の様な純粋な人間種以外を「ヒトモドキ」として殺戮しているとかなんとか。
「なるほどねぇ……あ、そう言えばリリス。復讐一人目、無事に達成したわ。残りは五人で、中央地方とやらに集まってるんだとさ」
「え? おおー! やったじゃん! おめでとー!」
リリスは無邪気に拍手してくれる。
それに反して、自分の気持ちはそこまで盛り上がらない。
……何でなんだろう? 転生して復讐したくなるくらいには憎んでた筈なのに。
ただまぁ、裏切った事に対する復讐を止めるつもりは一切ない。
そんな事を考えながら生き残り達の方を……中央からの人間の被害者達を見て思い付く。
「じゃ、次は中央でも落とそうぜ」
ハァッ?! って言葉や戸惑りの言葉が各々から聞こえるけど、ガン無視で話を進めていく。
「家族を、友人を、恋人を、生活を、平穏を、幸せを、命を奪われた。貴方達が中央の人間達にされた事だ。なら、こちらもそれを奪う。それの何が悪い事なんだ?」
俺の言葉でその場がシーンとなる。
一応確認の為にリリスの方を見ると、OKサインを送ってくれた。
改めて、村人達の方を見回す。
「俺達はこれから、中央部を攻め落とす。奪われたモノを奪い返したい奴は付いてきてほしい」
「ハッハァ! 良ーい啖呵だ! お前、気に入ったぜぇー!」
突然、目の前にナニカがすごい勢いで降ってきた!
土煙が晴れると、そこにいたのは長身の生き物。
特徴的な角・羽・尻尾を持った……おそらく、悪魔だ。
「強欲の悪魔アヴァリティオだ! お前が、欲しくなった!」
善人が歩む悪逆無道 〜悪魔と交わす契約のキスは復讐の味〜 なんちゃってアルゴン @nantyattearugon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。善人が歩む悪逆無道 〜悪魔と交わす契約のキスは復讐の味〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます