ヤマジュンの世界

シンカー・ワン

ヤマジュンは面白い。そして読ませる。

 BLに関しては『煽情のボーイズライフ』ってエッセイを書いたのですが、書き上げてから大きな見落としがあったことに気が付いた。


 ヤマジュンに関して何も触れていなかったのだ!


 ヤマジュン、山川純一先生の事は知らなくても、それなりのネット歴があって「やらないか」のセリフを知らぬ者は居ないだろう。

 今世紀に入って、ネット上で突然吹き荒れたムーブメント。

 匿名掲示板で端を発し、画像掲示板から2ちゃんねる、そしてニコニコ動画へ。

『くそみそテクニック』と言う作品で使われたセリフ、そして登場人物たちの行動、それらの一種とびぬけたセンスが山川純一に脚光を当てた。


 読めばわかるが、ヤマジュン作品は凄い。

 絵柄そのものは七十年代の少女漫画っぽさが色濃い。そこに劇画の風味が乗っている。

 活躍した八十年代ではすでに古い画風と言っていいだろう。

 なおかつ、山川氏の絵柄は当時のゲイ雑誌の主流とは離れていたために、主戦場であった『薔薇族』のスタッフが難を示し、そこから追われ、その後の消息が不明となる。


 山川氏が残したのは三冊の単行本。しかしそれの売れ行きは芳しくなかったという……。



 とまぁ、硬い話はこの辺で。芸風でもないですんで(笑)

 上の方で話してるネット上のムーブメントで再評価の風が吹いたヤマジュン、既出の単行本と未収録作品をまとめて出された『ヤマジュン・パーフェクト』がスマッシュヒット。

 高額単行本|(四千八百円・税抜き)としては、異例と言っていいかも。

 私が持っているので二〇〇八年・第五版ですよ。ウィキペディアだと二〇一〇年で第九版まで行ってたそうで、現在だと十版は越えてんでしょうなぁ……。


 ヤマジュン漫画で感じたことを、いくつかの作品を例に出して語ろうと思う。


 画風は古臭い。これは仕方ない。しかも癖が強い。

 一見古い少女漫画風なのに、劇画調でもあったりする。

 そのアンバランスさに、ストーリーの不思議さが乗っかってくる。

 そこでまたなんとも言えない味わいが生まれてくる。


 例えば『ちび薔薇行進曲』と言う話は、少女漫画調のコメディだ。

 そこに掲載誌・薔薇族ならではの同性愛要素がプラスされ、割とガチな性交描写が入ったりもする。

 なのに感じるのはさわやかなポップさだ。同性愛につきものな影がみじんもない。

 純コメディとして、とても楽しめる。


 一方で『裏切り』と言う作品では、濃い大人な関係が展開される。

 新婚なのにまともな交渉の無い夫婦。

 妻は高額の慰謝料での離婚を望むが、夫は世間体や仲人を務めた部長の手前、離婚には応じはしないものの本心では別れたいと思っていた。

 別れたいが慰謝料を払いたくない夫は妻の浮気を望む。

 そんな中、妻はアパートの隣人の青年を誘いアバチュールを楽しむ。

 ふたりが楽しんているところへ帰ってくる夫、もう修羅場だ。

 騒ぎが近隣に知られる中、部屋を出ていく妻。

 自宅でひとり酒をあおる夫のもとに隣人の青年が。

 青年は妻に浮気させるために、夫の送り込んだ刺客だったのだ。

 慰謝料を払わずに別れられると喜ぶ夫は裸になった青年の股間に顔を近づけていく……。

 そう、ふたりは男色の関係だったのである。

 青年の逸物を咥えた夫が急に苦しみだし、血を吐いて息を絶える。逸物には毒物が塗られていたのだ。

 逸物の毒物を洗い流す青年、そこへやって来る妻。

 なんとすべては青年と妻がグルとなって作り上げた計画だったというオチ。

 シンプルな話と思いきや二転三転。見事なサスペンスである。


 さらに『兄貴が好きなんだ』と言う作品では、実の兄に恋慕を抱く弟の屈折した愛情と、それを受け止め思いを遂げさせる兄の美しい兄弟愛を描いてたり。


『荒野の果て』では姉の夫と関係を持つ弟だが、実は義兄を通して姉を感じていたなんて変形の近親相愛物を。


『絆』では娘の夫と性交するしゅうとの目線で話が進むが、ラストで舅は老人性痴ほう症で、義理の息子とホモ関係になっていると思い込んでいるという事実が晒される。


 暴走族のボスに一方的に気に入られ、追いまわされた挙句無理やり犯された少年がボスを受け入れたふりをしながら、復讐の炎を心に静かに灯す『疾走する獣たち』


 真面目なサラリーマンが奇怪な風体になって、夜な夜な男を漁り殺しまくる『男狩り』などは、たくましすぎる逸物が原因で普通に男と交われない屈折した心境からの凶行で、最後は刑事である弟の手にかかる社会派作品だ。


 二次大戦が舞台の『地獄の死者たち』は米軍の捕虜となった日本兵たちが、米軍の帰国パーテイで見世物としてホモセックスを求められ、隠し持っていたダイナマイトで自爆する話なのだが、そこへ至るまでの短いページで捕虜のふたりの関係などがとてもせつなく表現されていたりする。


『くそみそテクニック』というとびぬけた作品のせいで、キワモノ的に受け止められるヤマジュンたけど、実は巧みなストーリーテラーなことが残された作品群からわかるのだ。

 少なくとも、私はそう感じているし思ってる。


 面白おかしいだけじゃないヤマジュン。山川先生はもっと作家として評価されるべき存在だ。


 ホントかな? と思ったあなた、試しに読んでみなさい。

 面白いから。

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