ピークタイム

  散々な一日だった。正確には散々な6時間だった。アルバイト先のカラオケ店で急な団体予約が入り厨房はてんやわんや、アルコールは飛ぶように売れ団体客が帰った後のルームは強盗でも入ったかのような惨状だった。提供したドリンクの半分くらいは床にこぼしたんじゃないかと思うくらいびしょびしょになっており、加えてテーブルは皿からこぼれたピザの油で物が置けなくなっていた。いつもの3倍くらいの時間をかけて清掃をし、厨房に戻った。

「疲れた。。」

それ以外の言葉が出てこない。休憩もできていなかったので店長に促され休憩を取る。休憩のタイミングを逃していたため明けたらすぐに退勤時間になってしまっていた。30分早く帰りたいところだったが規則でそれは難しいらしい。

 休憩が明け、10分くらいで退勤時間になった。普段は入れ替わりで出勤してくるバイト仲間と喋っていたりもするが今日は挨拶だけして帰路についた。

 家に帰るとラップがかけられた夕食が並んでいた。疲れて帰ってすぐに食事にありつけるというのは実家暮らしの特権だろう。冷めた唐揚げをレンジで温めなおし口にしていると、二階の寝室から母親が下りてきた。

「凛?明日早く起こすんだっけ?」

「うん、起きてこなかったら起こしに来て」

母親は眠そうな目をこすりながら冷蔵庫の麦茶を飲んで寝室に戻っていった。

 食事を終え風呂に入った後に自室で明日の荷物の確認をする。今度は姉が部屋のドアを少し開けて覗いてきた。

「ほんとにヒッチハイクなんてするの?」

「まあね。」

「へぇ、まあ大学生も最後だしいいんじゃない?」

姉は静かにドアを閉めた。明日はヒッチハイクをする予定なのだが自分よりも家族のほうがそわそわしている気がする。心配してくれるのはうれしいが逆に自分は少し冷静になってしまう。早起きをせねばと布団をかぶり目を閉じる。

 前言撤回、寝つける気がしない。

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シフトアップ 実桜みみずく @oto__owl555

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