第87話 男は美人のヒモになる

 結婚式を挙げた俺たちは、改めて三人で住める家に引っ越しをした。

 三人と暮らしてどうなるかと思ったが、数年が過ぎても仲良く過ごして、幸せな気持ちは変わらない。


 少し都心部から離れた大きな一軒家を購入して、自然に囲まれた郊外の家はお風呂が広くて、室内プールやジム、仕事が出来る部屋も大きくなった。


 俺からすれば豪邸だと思える家だ。


 駐車場には四人それぞれが移動できるように車が置かれていて、好きに乗っても問題ない。

 それぞれの趣味に合わせたシアタールームや、遊戯場、図書室まで作られている。


 買い物以外の全てのことは家の中で出来てしまう。

 ネットで注文すれば、次の日には届くので、買い物すら家から出ていく必要もない。


「俺、どこかにいく必要がなさすぎるんだけど」

「そんなことはないでしょ」

「そうかな?」


 ジュリアに、あまりにも家が快適すぎるので、相談してみると否定を口にされる。


「ああ、そうだな。ヨウイチは絵を描くでしょ? その資料や景色は実際に見に行った方がいい時もあるわよね?」


 そういうとジュリアはすぐに俺を家から連れ出した。

 そのまま気づけば海外へ。


「スミレは弁護業が忙しくなるし、ユミは研修中だからね。今だけは私がヨウイチを独占」

「ああ、ジュリアは行動的だね。それに国の壁を簡単に超えてしまう。景色がとても綺麗だ」


 海辺の美しいプライベートビーチを二人で歩く。


 ジュリアと過ごすゆったりとした旅行は幸せで、全てジュリアが用意してくれたものだ。


「おかえり、ジュリア姉さんもいきなりだよね。だけど、次は私!」


 そう言ってユミが取ったばかりの免許で、ドライブに連れて行ってくれる。


「もう、一週間もいなくなるから寂しかったよ」

「ごめん。ジュリアの休みが取れたから、ゆっくりさせてもらったよ」

「仕方ないかな。今度は私の相手をしてよね」

「ああ、一緒にいよう」


 ユミは専門学校を卒業して自由に仕事を始めている。


 研修に免許に、技術勉強などは忙しそうにしていていたが、スミレとジュリアは仲良く。


 俺のことを愛してくれている。


「ねぇ、ヨウニイ」

「うん?」

「私は世話をするのも好きだけと、甘えるのも好きなんだよ」

「ああ、知ってるよ」


 車でたどり着いた横浜で、中華を食べて海が見えるホテルに泊まって、のんびりとした時間をユミと過ごす。


「また明後日からは仕事かぁ〜。ジュリア姉さんみたいに一週間ぐらい休みがあればよかったのに」

「俺はいつでもあの家で待っているから」

「うん。大好きだよ。ヨウニイ」


 ジュリアとはバカンスを、ユミとは甘々なデートを、そんな非現実的な時間を過ごして、豪邸に住む俺は何一つ仕事が出来ていない。


 それも三人の妻たちに時間を使っている間に、全てが終わってしまうから。


「あっ、起きたんですか?」

「スミレ。おかえり。ジュリアとユミは?」

「二人とも、今日は仕事で遅くなるそうです」

「そっか、二人でランチは久しぶりだね」

「はい。外食も多かったと思うので」


 肉じゃがとお味噌汁。

 それに白米に漬物と定番の品物が並んで、俺の胃袋をスミレの家庭的な料理が癒してくれる。


「やっぱりスミレの手料理がどんな物より美味しいよ」

「そうですか? ふふ、今日は久しぶりに一緒にお風呂へ入りましょうね」

「ああ、スミレは大丈夫なの?」

「ええ、弁護士業務は忙しいですが、やりがいもあって楽しめています。だけど、私の幸せはやっぱりヨウイチさんと過ごす時間ですから」

「うん。そう言ってもらえると嬉しいよ」


 スミレと過ごす家の雰囲気は、豪邸に変わっても何も変わらない。

 カウンターキッチンで並んで食事をとって、スミレが片づける姿を眺めながら、片付けが終わると一緒にお風呂に入る。


 あの日、ストーカーからスミレを守った俺が美人な彼女たちに養われて、のんびりと絵を描いて過ごす日々を送るなど考えてもいなかった。


 人に話せば、羨む話ではるが、同時にそれでいいのかと問いかけられるかもしれない。


 仕事に意義を求め、女性の上に立って傲慢に過ごす。


 だけど……。


 実際に、考えてみてほしい。


 自分にとって最高だと思う女性が三人もいて、三人ともが喧嘩をしないで俺を愛してくれる環境だ。


 甘々で、何不自由しない。


 家も、金も、欲しい物も全て手に入る。


 何よりも、最高に美人で可愛い彼女たちが、愛してくれる。


「ヤバい。イラストが仕事というより、趣味の領域から抜け出せない」


 だって、彼女たちといる時間が尊くて、その時間を削ってまで絵を描きたいとは思わないから。


「完全に俺はヒモだな」


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《side瀬羽菫》


 私は眠ったヨウイチさんをベッドに残して、バルコニーへ出ました。


 今の私にとって全てが輝いて見えます。


「姉さん。ただいま」

「スミレ。ただいま」

「二人ともお帰りなさい」

「ヨウニイはもう寝たか〜、ふふ、寝顔が可愛い」

「もうすぐ四十のはずなのに、最近肌艶が良くなって若返っている気がするな」


 ヨウイチさんは、毎日ジムや美容を頑張っていて、私たちによく見られようと努力している。


 料理も健康な物を摂るようにしている。


 その姿が健気で可愛い。


「そうだよね? 昔はお腹がもう少しぷよぷよだったもん!」

「あ〜、最近は適度に引き締まって、体力も三人相手にしても維持できているからな」

「ヨウイチさんは本当に素敵ですね。そうそう、三人で話し合った晩のことを覚えていますか?」


 私の言葉に、ユミとジュリア姉さんが笑顔を浮かべる。


「もちろんだよ。ヨウニイ、《籠の鳥》計画だよね」

「ヨウイチは、放置してるとどこかですぐに女性を落としてきてしまうからな」

「ええ。漫画家さんが、どうしてヨウイチさんを長年外に出さなかったのか、よ〜くわかります」


 私たち三人は夜の月明かりに照らされてヨウイチさんの寝顔を見ました。


「ずっと私たち三人で、ヨウイチさんを自由にできないようにしてしまっているんですから、もう誰にも渡しません」



 ヨウイチさんは、これでずーーーーーーーと。


 私たち三人の大切な人です。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


どうも作者のイコです。


これにて《ストーカー男に襲われている美人を助けたら、おっさんはヒモになった》完結となります。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

他作品も多数投稿しておりますので、今後も応援いただければと思います。


つきましては、近々新作をカクヨムコンテスト用に投稿していきます。


当たり外れがあるかと思うので、数打ち当たれ作戦です。

何個か投稿できればと思っています。

応援いただければ嬉しいので、作家フォローなどしていただけると嬉しく思います。


それではまた別の作品でお会いしましょう。

ご愛読いただき、ありがとうございました。



 

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ストーカー男に襲われている美人を助けたら、おっさんはヒモになった イコ @fhail

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