爆発

暗闇の空に高く舞い上がった火柱と黒煙、そして、数度に渡る地響きを伴う爆発音…。

わたし達が脱出した直後、学園に消防隊が到着したが、その消防活動は、困難を極めた。もともとその屋敷は、外の壁に有刺鉄線を張り巡らさしていたことからもわかるように、極端に外部からの侵入を抑えようとした造りになっていたからだ。屋敷が建築されて以降、公的機関による防火設備の点検が施行されたこともなかった。

そのため、消防隊が現場には来たものの、基本的には手の施しようがなく、屋敷に関しては、焼け落ちるのを見ているだけで、その火が周囲の森に燃え広がることを防ぐことしかできなかった。

翌朝に現場検証が行われたが、建物の殆どは、焼け落ちてしまい、原型さえ殆ど留めてはいなかった。鉄骨でさえ、上部が熱で溶解して、熱せられた飴のように曲がり、逆U字型に垂れ下がっていた。

屋敷の中央部が最も焼けており、鉄骨の損傷も激しかったために、火元であろうと推測されたが、損傷が激しかったために、その火元が屋敷の中央部の何階なのか、正確なところまでは判別できなかった。

焼け跡の中央部に、プロパンガスボンベの破片が散在しているのが発見されたが、しかし、屋敷の周囲には、破片は認められなかった。ということは、そのボンベは、屋敷内にあったものなのだろうか?

そもそも、学園内には都市ガスが埋設されているので、この屋敷にプロパンガスボンベなど、必要ないはずなのだが、なぜそれが屋敷内、あるいは敷地内に存在していたのだろうか?


***


しかし、この事故を事件にした別の発見があった。焼け落ちた屋敷の後から黒コゲになった「人間の」遺体が発見されたのだ。

そもそも、その屋敷に人がいたことさえ知る人はいなかったので、そこから焼死体が発見されるとは、誰も思ってはいなかったのだ。

遺体の身元が、美術教師の吾妻であることが判明すると、その事件に対する三面記事的な衝撃は、さらに大きくなった。

遺体の身元確認は、最終的には歯型照合で行われたわけだが、その屋敷に吾妻がいたことを知っている学校関係者はいなかったわけで、当初その遺体が彼であることを予想することは誰も出来なかったのだが、翌日から彼が行方不明になったこともあって、そのことを学校関係者が警察に伝え、歯型が照合されて、身元が確認されたのだった。

そのため、美術棟にも捜索が入り、準備室の扉を開けると、そこには地下通路があったため、警察は非常に驚いた。

そしてその中を進んでいったが、途中で崩落していて、それ以上は進めなかった。屋敷方面に進んでいたため、屋敷と美術室との、秘密の連絡通路になっていたと考えられるが、屋敷側からの開口部は、火災と爆発による建物の崩壊によって、発見することが出来なかった。


***


さらに、焼け跡から別の遺体が発見されたことで、この件は、単なる事故ではなく、明らかに事件としての性格を有することになった。

今回の火災で、被害が少ない部位があった。それは地下一階の東側だった。入口の扉は施錠されていたので、警察はそれをチェンソーで切断し、中に入った。開けた途端に腐臭が漂ってきて、その中から1体の遺体が発見されたのだった。

その後の調査で、そこは寝室1部屋分はある、大きな冷凍、あるいは冷蔵室になっていて、熱を遮断するための壁が、火災から室内を何とか守っていたのだった。

その遺体は、この冷凍室のなかで、「保存されて」いたものらしい。それがこの火災により解凍され、早速腐乱が始まったのだった。

しかし、その遺体は、かろうじて「原型」をとどめていた。そして、それは少年だった。


***


事件性を決定的にしたのが、複数の人骨の発見だった。熱いガラス板が散乱している中に人骨が散乱しているという状況だった。

複数の頭蓋骨の破片が発見されたが、正確な人数の特定には至らなかった。その中には、焼け焦げた人間の皮膚が一部付着しているものがあった。

人骨の身元は、誰一人として確定できなかった。

また、冷凍室内から発見された少年の遺体さえ、現在まで身元が判明したという話を聞いていない。

しかし、事件そのものは、極めてセンセーショナルな要素を有しているため、マスコミに大々的に取り上げられ、事件に関して、様々な角度から、検証的な報道が為された。

美術教師の吾妻が少年への偏執的性愛を有し、屋敷の中で複数の少年を殺害し、そして事故か事件かは不明だが、屋敷で火災が発生し、吾妻自身がそれに巻き込まれてしまった、等々。

報道の殆どは、曲解された推論であったり、いい加減な推論に基づいて結論付けられたりしたものばかりだった。

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