紅葉といえば

 オレぁ天涯孤独の一匹狼。誰ともつるまねぇ。そうやって生きてきた。いい大人が誰かと一緒じゃなきゃ何も出来ねぇなんて、恥ずかしいと思わねぇか?


 ラーメン屋に行くのも、回転寿司に行くのも一人だ。さっさと食ってさっさと出る。ラーメン屋ってなぁそういうもんだろ。何人もがギャーギャー騒いで長居する店じゃねぇ。それが焼肉だろうが、食い放題のバイキングだろうが、オレぁ当然一人で行く。まぁ金がねぇから、焼き肉やバイキングにゃ滅多に行かねぇがな。それよりツーリングで山奥行って、バーベキューだな。言うまでもねぇが一人でやるぜ。


 そんなオレにも一人じゃ出来ねぇ事がある。結婚だ。こればっかりゃ一人でやるわけにゃいかねぇ。


 あいつと出会ったのぁ二十五の夏。いつもの山道を気持ち良くバイクで疾走してたさ。そしたらよぉ、道端に座り込んでる奴がいたんだ。最初ぁ素通りしたんだがな、この辺にゃ民家の一つもねぇ。街灯もまばらで、日も落ち暗くなった山奥じゃ、困ってんじゃねぇかと引き返した。一声掛けて、何事もなきゃそのまま帰りゃいい。

 そこにいたのぁ半べその女子高生だった。帰宅途中、ハンドル操作ミスって転び、カバンごとチャリをガードレール下に落っことしたんだと。足捻って歩く事もままならねぇ様子。ガラじゃねぇが、仕方ねぇ。困った時ぁお互い様ってぇヤツだ。後ろに乗っけて家まで送ってやったさ。

 礼がしてぇからって、連絡先聞かれた。んなもん期待して助けたわけじゃねぇって断ったが、あいつの親がしつけぇんだ。それからだ。あいつからしょっちゅう連絡が来るようになったのぁな。


「紅葉を、見に行こうよう」


 ‥‥くだらねぇダジャレだったぜ。数ヶ月後のそれが、あいつとの初デートだった。ガキのお守りを何でオレがって思ったが、どうしてもって。何故だろうな、断り切れなかった。

 普段ぁどんな風に過ごすのかってんで、山に来る時ぁバーベキューだと答えた。すると今度ぁバーベキューをしようだと。オレぁ一人が良いんだとキッパリ断ったぜ。だがな、じゃあ他に、じゃあ何か別のをって、しつこく食い下がりゃがる。面倒な奴を助けちまったぜと後悔しても遅ぇ。本当にしつけぇんだ。ありゃ親譲りだな。オレが根負けするまで絶対下がらねぇ。あんな頑固な奴ぁ他に知らねぇ。根性入ってんなって、そこに惹かれたのかも知れねぇ。


 紅葉を見る度に思い出す。オレが一匹狼を卒業した、家内との出会いの物語だ。

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秋の5題小説マラソン 武藤勇城 @k-d-k-w-yoro

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