第67話 実力確認

 さて、シレーネからこの世界の共通語や魔法帝国語について学びつつ時間が過ぎ、そろそろ再び旅に出たくなったころ。

 旅の前に、俺は改めてシレーネに確認したいことがある、と言って話を切り出した。


「確認したいこと、ですか」

「ああ。まあ単純に言ってしまえば、シレーネがどの程度戦うことが出来るのか、っていう疑問だ」


 俺の言葉に、シレーネは納得の表情を浮かべる。


「確かに、旅に出るとなれば危険なモンスターと接触する可能性もありますね」

「そうだな。後は危険な場所に踏み入るとして、シレーネを連れて行くならどの程度まで踏み込むことが出来るのか、とか」


 例えばモンスターの巣窟に踏み込むとして、どこまでなら彼女を安全に連れていけるか。

 そういうのは把握しておきたい。


「そのような場合は、近くの安全な場所に置いていってもらってかまいませんよ?」

「まあ、せっかく色んなものを体験させてやるなんて偉そうなこと言ったからな。少しぐらいはギリギリを攻めても良いだろ」


 俺がそう答えると、シレーネは嬉しそうに笑う。

 彼女はどうも、こうやって人に気づかわれているとわかると嬉しそうな表情を浮かべることが多いらしい。

 あるいはそれは、彼女と民の繋がり方の有り様の1つだったのかもしれない。


「ありがとうございます。では、どのように?」

「ん、まあ普通に俺と仕合ってくれればそれで良い。後は俺の方で勝手にラインを図るから」


 あちこち連れ回してモンスターと戦わせてみるのも良いけど、それでは時間がかかる。

 なら俺がそのモンスターの代わりをして、彼女と仕合って見れば良い。

 そうすれば自ずと俺の体感で彼女の実力を測ることが出来る。


「あら、では、ジョンさんにお怪我をさせないようにしませんと」


 おっとぉ? 

 急に煽られたぞ。

 眉を潜めてシレーネに目線を向けると、クスリと笑いながら挑発的な目を向けられた。


「なんか要求があるなら言ってくれれば、普通にやるぞ? 全力を見せてほしいとかそういうことか?」

「あら、そうなのですか? ジョンさんは秘密主義なお方だと思っていましたから、少しばかり挑発してみたのですが」


 少し驚いたようにそう言うと、シレーネはコホンと咳払いをして、改めて俺に頼んできた。


「私もジョンさんの本来の実力を知りたいです。ですので、私の力を測ることが出来た後は、本気を出してくださいませんか?」


 なるほど。

 まあ確かに、身を任せることになる相手の強さなんて気になって当然だよな。


「それこそ怪我させないように気をつけないといけないが……。そういうことなら、見せれる範囲で本気を出してみせようか」


 かくして、俺とシレーネの、互いに本気を出した決闘が行われることになった。



******




「ということで今回は決闘やってくぞー」


:唐突!

:いやどういうことやねん。経緯はわかったけども

:ジョンの本気なんてなにげに初めてじゃない?

:ようやくジョン・ドゥの本気を見ることが出来るのか。めっきが剥がれるかどうか

:いくらジョンがずっとダンジョンに住んでるからって、日本の潜在的戦力に代わりはないしな。他国からも注目の的やろ

:仲間達と見ています。最強の実力に興味があります


 せっかくの派手な戦闘の映像なので、配信をしながら戦闘をやってみることにした。

 もちろんシレーネにも許可は貰っている。

 まあ、彼女は配信がどういうものなのか、明確に理解してはいないだろうが。


 場所はシレーネが長年維持していた魔法の規模からその実力をかなり高めに見積もって、拠点からは10キロ以上離れた地点。

 そこまでの移動はロボに運んでもらった。


 流石に10キロもあれば拠点を吹き飛ばすようなことは無いと思うが……。

 俺の本気の魔法が跳ね返されたりすると、周囲にとんでもない被害を生みかねないのでちょっとばかり警戒はしている。

 以前砂漠が超広範囲にわたってガラス化しているの見たことがあるし。

 アレ多分超高熱の衝撃波かなんかのせいだと思うんだよな。


 後はシレーネの実力が本当にわからないところも、少しばかり不安になるポイントだ。

 魔力量、という意味では、俺もシレーネも普段は持っている魔力を抑えて生活をしている。

 というか、大概の人間やモンスターはそういう仕組になっている。

 筋肉だって実際に使う時以外は稼働しているわけではないしな。


 その上で互いの魔力を俺の感知能力で比較するならば、魔力量においては俺のほうが圧倒的に勝っていると思う。

 これは断言できる。


 だが魔法は、単純に魔力量によって強さが決まるのではない。

 もちろん魔力量が多ければ、その魔力量に任せた量によって威力を増すことは出来る。

 だが本質はそこではない。

 

 魔法の本質は、その魔力を使用する魔法をもっていかに世界を改変したか、いかに世界に影響を及ぼしたかによって決まる。


 そういう意味では、独自に魔法陣を研究して使っている俺と、おそらくは学問的に纏められた魔法を修めたシレーネのどちらの魔法が優れているか。

 それもある意味勝負を決めるところになるだろう。


 まあ負けるつもりは毛頭無いが。


「準備は良いか?」


 それなりに距離をおいた場所から、シレーネに魔法で声を届けて呼びかける。

 

 なお今回の戦闘では、基本的に魔法を主体にして戦うことになった。

 これはシレーネの申告で、本人の戦闘方法が基本的にはモンスター等相手には魔法が主体であり、近接戦は暴漢などを相手にする程度の護身術しか出来ないことがわかったからだ。

 一方で俺の方は、魔法の方が割と後付で、どちらかと言えばずっと鍛え続けてきたのは剣がメイン。

 

 この2人で近接戦をしてもフェアな戦いにはならないだろう、と互いに同意し、魔法を主体にした戦闘をすることになったのである。

 俺が剣を使えるのは、魔法を斬り裂くなど魔法に対して使う、または魔法の一部として使う場合のみとなっている。


「いつでも大丈夫です」


 同じように魔法で声を飛ばしたシレーネの声が、俺の耳元に響く。

 この正面からではなく耳元に囁くように届く感じはウィスパーみたいに個人に声を届けるための魔法がある感じだろうか。

 宮廷のパーティーとか外交の場とかで使われたのかね。


 開始の合図の代わりに、俺が空へと向けて火球を放つ。

 そして発射時の勢いを次第に失った火球が、俺とシレーネの中間付近の地面に向けて落下してくる。

 

 落ちたときが開始の合図──今。


「『起動リリース』」


 火球が地面に落ちた瞬間に、俺は普段から構築までは終えた状態で保持している防御用の魔法陣を使用し、防御障壁を展開する。

 その俺の展開した障壁に、複数の氷の槍が勢いよくぶち当たった。


「ちっ、やっぱ早いな」


 その言葉を吐く間も、俺は複数の魔法陣を展開し続け、まずは防御の安定化を狙う。

 

 この戦いだが当初から俺は、シレーネに対して魔法の発動速度で押されることになると予想していた。

 というのも、俺が使用している魔法は、魔法陣を魔力で構築することで魔法を発動するというちょっと無茶なやり方だ。


 そのため、俺が魔法陣を記憶から引っ張り出し想像し魔力をその通りに動かして初めて魔法陣が実際に構成される。

 更に効果を発揮するのは魔法陣が完成した後だ。

 その分の多数のラグが、俺の魔法行使には存在している。


 通常のモンスター相手の戦闘ならば問題ない。

 俺は戦闘しながらでも魔法陣を組み立てられるし、即応で対処する際にはストックしている分以外の魔法陣を使わない。

 

 だが今回のように、抜き打ちの決闘のようなよーいドンのバトルになると、そのラグが相手に対する1手2手の遅れを生み出してしまう。

 だから序盤は、防御に専念することに決めていたのだ。


 そして個人的に意味がありそうなハニカム構造を取り入れた多重防御障壁が完成した所で、反撃開始。


 なおこの間もずっとシレーネの方からは魔法は飛んできている。

 初手の氷の槍に風の刃、あとなんかわからないけど小さな火種が命中したところから爆炎が広がる系のちょっとやばそうなやつなどなど。

 俺が一番外側に展開して急場しのぎように作った常備している障壁なんて秒で割られたし、その後も多重障壁の構築までの時間稼ぎにと設置した魔法がバカバカ気持ちいい程に粉砕されていった。

 多重障壁も作りかけたところで1回ぶっ壊されたし。


「さて、反撃と行きますか!」

 

 だがしかし。

 俺の使う魔法陣魔法が強いのはここからである。



~~~~~~~

ストックが尽きたのでまた更新途切れます。

新作だったり何だったりといろいろ書いたりストーリー作りの本読んだりと小説書く活動は続けていますので、ご心配なさらないでください。

 

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【第3章完結(次章執筆中)】ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン籠もり10年目にしてダンジョン配信者になることになった男の話 天野 星屑 @AmanoHoshikuzu

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